面白い、または役に立つWebサービスやWebプロダクトはいくつもある。しかし安心して使えるものとなると、残念ながらそれほど多くはない。以下は、O'Reilly主催のオープンソースコンベンションOSCONの基調講演においてGoogleシカゴ・オフィスのBrian Fitzpatrick氏(エンジニアリング・マネージャー)が挙げた「WebサービスやWebプロダクトを新たに使い始める前に自問すべき3つの質問」だ。
別のサービスと互換性のあるオープンで移しやすいフォーマットで自分のデータを持ち出せるか?
自分のデータを持ち出すのにかかる費用は?
データを持ち出すのに、どのくらいの時間を費やすか?
フロッピーディスクやCD-ROMに収められたソフトウエアを買ってきてインストールしていた頃と違って、今は手間や費用をかけずにネットからアプリケーションをダウンロードして、簡単に複数のソフトウエアを使い比べられる。Webアプリ/Webサービスは最たる例で、ブラウザを起ち上げて、ユーザー登録すればすぐに利用可能になる。「何かを実際に使ってみるスピードは日毎に増しており、スイッチ(乗り替え)にかかる費用はゼロに近づいている」とFitzpatrick氏。
ユーザーが簡単に試せるから、Webサービスやオンライン製品を提供する側は入り口で派手にユーザーを勧誘し、出やすい出口を用意せずにサービスにとどまらせる。気軽に始めたサービスからデータを持ち出せずに、後からより面白くて役に立ちそうなサービスが現れても身動きが取れないというのは、よくあるパターンだ。例えばFacebookはデータを持ち出す方法を用意しているが、ライバルサービスへの乗り替えに使いやすい形とは言い難い。写真共有サービスのFlickrには写真を一括ダウンロードできるオプションがなく、非公式のダウンロードツールが存在するものの、それらを使い続けられる保証はない。Flickrのパートナー会社が提供するCD作成ではコストがかかるし、1枚ずつダウンロードしていたら手間ひまが甚大だ。
ただ消費者は賢いもので、冒頭の3つの質問を意識している人は少なくても、アプリケーションやサービスを簡単に比較・使用できるようになるほどに、感覚的にデータを通じてサービスに縛り付ける行為(ロックイン: lock-in)の存在に気づき、そして不信感を強めている。だからロックインはユーザーの不利益であるだけではなく、今やサービス提供側の不利益でもあるとFitzpatrick氏。「ユーザーに何かを使ってもらいたければ、"選択"と"信頼"が問われる」と指摘した。
Googleのシカゴオフィスというと、データのオープンネスに取り組むData Liberation Frontの拠点である。Googleの各製品でユーザーがデータを出し入れする方法をまとめた情報を提供しているが、6月に初の製品「Google Takeout」を発表した。+1、Buzz、コンタクト/サークル、Picasa Web Album、プロフィール、ストリームなど、複数のGoogleサービスからまとめてデータを持ち出せる。作業は数クリックだ。ユーザーが受け取るデータは、他のサービスに移しやすいフォーマットにまとめられる。現時点で対象サービスは少ないが、順次拡大していくという。
いちユーザーの立場でTakeoutのような太っ腹なサービスに触れると、たしかにFitzpatrick氏が言う通り、いつでも他のサービスに乗り替えられるという安心感がGoogleに対する信頼に転じるのを覚える。
Google+はWeb規模のソーシャルバックボーン
AppceleratorとIDCがまとめたサーベイ調査「2011年第3四半期モバイルデベロッパーレポート」が公開された。Appcelerator Titanium開発者へのアンケート調査をまとめたもので、調査期間は7月20日・22日、有効回答者数は2,012人だった。
今回の結果で目立つのはGoogle+とAppleのiCloudだ。「モバイルの成長や導入に最も影響を与える発表は?」という質問で、「Google+」が25%で1位、「Apple iCloud」が22%で2位。「NFC(18%)」、「iOS 5のTwitter統合(14%)」、「Android特許問題(13%)」などを上回った。iCloudはモバイル市場で最も大きな影響力を持つiOSの独立を支えるサービスとして注目されているのだろう。Google+の話題性も高いが、これまでにGoogleは何度もソーシャル分野での失敗を繰り返してきた。それにも関わらず、「12-18カ月中に使いたいソーシャルネットワーキングAPIは?」という質問で、Google+(API公開後)が、1位Facebook(83%)、2位Twitter(73%)に迫る僅差の3位(72%)に食い込んでいる。
Googleは相互運用性の高い形でGoogle+ APIを提供する意向を示している。詳細はまだ不明なのでGoogleの言葉を鵜呑みにはできないが、この段階でアプリ開発者からの支持を集めているのが興味深い。これは今後の成長分野であるソーシャルにおいて、サービスに閉ざされたFacebookに対する不満点や不安をうまくGoogle+がすくい上げてくれるという開発者の期待のあらわれと考えられる。OSCONのチェアであるEdd Dumbill氏は、Google+のオープン性から、その登場が「Google vs Facebook以上の意味を持つ」としている。「Google+はWeb規模のソーシャルバックボーンが急成長する種であり、ソーシャルグラフの究極的な統合実現を働きかける触媒である」という。
「ソーシャル分野でGoogle+はFacebookに追いつけるか?」という質問に、3分の2が「YES」と回答した。理由のトップは「Googleの資産(検索、YouTube、マップなど)がFacebookのソーシャルグラフの優位性を崩す切り札になる」(68%が同意)、続いて「Google+においてGoogleはサークルやスパーク、ハングアウトなど、Facebookよりも革新性を示している」(49%)だ。
Googleの資産を語る上で今はあまり注目されていないが、前述のGoogle TakeoutはユーザーがGoogleのサービスを選ぶ理由としてじわりと効いてくるだろう。その上でGoogle+は開かれたソーシャルサービスを展開する。オープンネスが貫かれている。だから今、Google+を推すわけではない。API公開待ちのGoogle+はまだ"期待"の範囲を超えるものではないし、ソーシャルネットワーキング市場を押さえたFacebookの修正(成長?)にも同様の期待が集まっているのだ。注視すべきは、Dumbill氏が言うところの「Web規模のソーシャルバックボーン」の実現である。