最初に前回「iCloudとChrome OS、同じクラウドでもアプローチは真逆」に関する情報アップデートから。6月24日にAppleがiCloudのQ&Aドキュメントを更新し、秋リリース予定の正式版でメール/連絡先/カレンダー/iPhoneを探すのWebインタフェースを用意することを明らかにした。ネイティブアプリケーションとの組み合わせによる優れた利用体験がiCloudの肝であることに変わりはないものの、MobileMeからの4つのサービスに関してはiCloud.comを通じた情報へのアクセスも可能になる。この更新を踏まえて、「Webインタフェースは用意されない」と断言的に書いてしまった前回のコラムを加筆・修正したので、iCloud導入を検討されている方は再度確認してほしい。
さて、14日にGoogleがパソコン版Chromeで音声検索 (Voice Serch)の提供を開始した。必要環境が揃ったパソコンでは、Google.comの検索窓にマイクのアイコンが表示される。それをクリックし、あとはパソコンに向かって検索語を言うだけで検索が実行される。最近モバイル機器での検索では音声ばかり使っているので、パソコン版もすぐに試してみたのだが、これが簡単・快適ですこぶる便利! 何を検索しているのか家族に丸わかりなのが欠点だが、それでもキーボードに手が伸びない。
面白いアイディアをすぐに形にするBreadfastが早速、「Verbalizer」というパソコン版音声検索に対応するガジェットを公開した。Verbalizer自体はマイクとワイアレス通信機能を組み合わせたボードで、Bluetoothでパソコンにワイアレス接続する。オンボード・マイクに話しかけると、新しいタブでGoogle.comが開き、音声検索が実行される。パソコンから10メートル程度まで離れられるから、例えばパソコン本体を隠して大きなモニターを壁に設置しておけば、マイクに話しかけるだけですぐに検索結果が現れるギミックが可能になる。BreakfastはVerbalizerをオープンソースプロジェクトとして公開しており、またボードはArduino互換でいくつかのI/Oピンが残されているため第3者が手を加えることが可能だ。
パソコンでの検索でキーボード入力を不要にするデスクトップPC版音声検索の登場から、わずか10日でユニークなガジェットプロジェクトが形になった。Googleの検索サービスが、検索の進化を押し進めているのを実感させられる。しかし、今のところデスクトップPC版音声検索はChromeでしか利用できない。6月27日時点でChrome以外のブラウザからデスクトップPC版音声検索のぺージにアクセスすると、同サービスを使用するために最新のChromeのダウンロードが促される。
Chromeはバージョン11からSpeech Input APIをサポートしており、音声入力分野で他のブラウザをけん引している。そうした背景を知らずに「Download Google Chrome」のボタンを目の当たりにしたら、Googleが新しい機能をエサにユーザーをChromeに引き込もうとしていると感じるかもしれない。
基本姿勢は「ユーザーのため」、ライバルには厳しい
前フリが長くなってしまったが、今回はGoogleが新たに直面している問題。米連邦取引委員会 (FTC)による反トラスト法違反調査について。
Googleが23日 (米国時間)に、同社の業務に関する調査を開始したという通知をFTCから受け取ったことを明らかにした。検索市場で大きなシェアを握るGoogleに対してFTCが反トラスト法に関連した大規模な調査に踏み切ったことで、この件の報道では必ず90年代後半の司法省によるMicrosoft提訴が例に引かれている。GoogleフェローのAmit Singhal氏が公式ブログで「ユーザーに選択の自由を与えるよう努めている」とGoogleの立場を説明すると、これに対するBetanewsの記事が「反トラストに対するGoogleの言い訳はまるでMicrosoftのようだ」という感じなのだ。ちなみに司法省によるMicrosoft提訴は2002年に和解案が承認され、それから今年の5月12日まで長い監視期間が続いた。Googleも同じような足かせをはめられて減速するのではないか……という論調の報道を見た方も多いと思う。
しかしながら、Googleが直面している問題は、不当な独占を問われたMicrosoftのケースとは内容がまったく異なるという。その点でGoogleの勝ち目は大きいと、FTCや司法省で15年以上にわたって反トラスト法問題に携わってきたDavid Balto氏が指摘している。
Microsoftの場合は、WindowsへのInternet Explorerの組み込みに関して、不当な取引制限および不当な独占を禁じたシャーマン法違反が問われた。同法は反トラスト法の軸であり、連邦機関が独占を追求する際の拠り所となってきた法律だ。一方、Balto氏によるとGoogleが違反を疑われているのはFTC法第5条だという。これは不公正または欺瞞的な取引制限行為・慣行の禁止を定めた法律だ。例えば、Googleが検索市場における影響力を利用して、自身の利益になるサービスにユーザーを呼び込むように検索結果を操作するというような行為が違反に相当し得る。実際、Yelpなどのローカル検索サービスや、Expediaなど旅行関連のオンラインサービスがGoogleの影響力に対して強い懸念を示し続けている。
訴訟になれば、欺瞞的な行為によってユーザーの利益や選択肢が損なわれているかが問われる。Googleがライバルに対し、独占的な立場も利用して厳しい競争を強いているのは事実だ。しかしながらユーザーに対しては、基本的に同社は「ユーザーのため」を前面に出し、正確かつタイムリーな検索結果の提供の追求を通じて、それを実行している。加えてBalto氏は、ネット上でブランドやWebサイトが仕掛けてくる欺瞞的な行為を、むしろGoogleは正していると指摘する。一例として、米小売り大手J.C. Penneyがリンクを購入して不当に自身のWebサイトを検索結果の上位に上げようとしたのをGoogleが見抜いて修正したことを挙げている。検索市場においてGoogleは独占的な立場にあり、競争相手に痛手を与えているのは事実と認めるが、それが消費者の利益を損なっているかについては大きな疑問符を付けている。
パソコン版音声検索の例に当てはめて考えてみよう。同サービスを使うためにChromeのインストールを強いられるのは、強制されているようで決して気分の良いものではない。しかし、GoogleがChromeで積極的にHTML5の音声入力APIをサポートしたおかげで、パソコンでも音声検索という便利なサービスを利用できる。Chromeに対抗するためにライバルブラウザも音声入力に対応すれば、それはChromeの独占ではなくWeb全体の進化になる。
公正であるべき検索をGoogleがきちんと運用しているかは厳しくチェックされるべきだが、基本線はユーザーの利益である。Googleの検索事業の商行為がイノベーションや競争を阻害しているかが焦点になれば、第5条違反でGoogleを負かすのは難しい。GoogleのSinghal氏が公式ブログで「FTCが一体なにを懸念しているのか、まだはっきりとは分からないが、われわれの立場は明確だ」と断言している所以である。ちなみにBalto氏によると、FTC法第5条違反での提訴は1972年から成功例がないそうだ。