「インタフェースの整合性に対する (Mac) App Storeのたるんだアプローチには不安を覚える」 - iOSの成功をMacに持ち込む"Back to the Mac"が、Macの利用体験をめちゃくちゃにする可能性があるとプログラマのTim Morgan氏が危ぶんでいる

Appleが1月にMacアプリケーション用のオンラインストアMac App Storeをオープンさせ、TwitterがMac用の「Twitter 2.0」をリリースしたときにユーザーインタフェース(UI)に関する論争が起きた。Twitter 2.0は使いやすいと評価されているが、そのUIは一般的なMacアプリケーションとずいぶん異なる。どちらかというとiOSに近く、すべてのMacアプリケーションが尊重すべきHIG (ヒューマンインタフェースガイドライン)に従っていないとMorgan氏が指摘した。Macアプリケーションの上部にあるはずのタイトルバー/ツールバーがTwitter 2.0にはなく、またウインドウ操作の赤/黄/緑の3つのボタンが深いグレイで目立たない上に区別しにくい。「ウインドウを動かす」「ウインドウを閉じる」など、Macユーザーが迷わずに行えるべき基本的な操作にとまどう可能性がある。

Twitter 2.0。上部にツールバーがなく、ウインドウを動かすためにどこをドラッグすれば良いのか迷う。通常、赤/黄/緑の左上のボタンが黒に近いグレイで見分けにくい

Twitterは極端な例だが、こうしたUIの一貫性の乱れはMac App Storeで配信され始めた他のアプリにも見られる。原因はAppleがより自由なUIを意図しているからであり、Apple自身もHIGに従っていないという。たとえばMac App Storeアプリにはタイトルバーがなく、ツールバーに赤/黄/緑のボタンが並んでいる。

タイトルバーが省かれたMac App Storeアプリケーション

通常(写真はSafari)はタイトルバーとツールバーの2段で、タイトルバーに赤/黄/緑ボタンが配置されている

「iOSのメリットは、アプリを手がける開発者にUIデザインの新たな自由をもたらすだろう。それは素晴らしいことに思えるかもしれない。Webにおいてヘテロジーニアスなデザイン環境がユニークで美しいWebサイトの共有を促したのだから、同じような繁栄がMac OSで起こっても不思議ではない。しかし、良いことばかりでないのだ。Webをブラウズしてみたらわかるように、うまくデザインされているものよりも失敗例の方がずっと多い」とMorgan氏は懸念している。

これに対してDarling FireballのJohn Gruber氏が「HIGに根づいた一貫性をいまだに信じ続けている人たちの典型的な批判」と反論した。OS9までAppleはHIGへの整合を重視していたが、Mac OS XではApple自身がHIGへのこだわりを捨てて、Finder、iTunesやiPhotoなどのフラッグシップソフトでUIの実験を試み始めたのだと指摘。「6色のアップル・ロゴとともにUIの画一性(uniformity)に対するAppleの情熱は消え失せた。変化は必然であり、個性 (individuality)が新たな基準である」とした。Twitter 2.0の使いやすさこそ、その好例であるというのだ。

これは考えさせられる議論だ。UIの自由度が広がると、Twitter 2.0のように従来にはない操作性を備えたアプリケーションが登場するかもしれない。だが、Morgan氏が懸念するように華やかな成功ばかりではないのだ。幅広いガイドラインに行き場を失った開発者によって、使いにくいアプリケーションが量産される可能性が高まる。UI開発に資金を投じられるソフトウエアベンダーが有利になり、小規模または個人の開発者にとって不利な環境とも言える。つけ加えると、iOSの自由なUIがMac OSで通用するとは限らない。iOSでユーザーは常に1つのアプリを操作し、アプリが完全に切り替わるから、個性的なUI、アプリごとに異なるUIでも受け入れられやすいが、Mac OSでは画面にいくつものアプリケーションが並ぶ。アプリごとにUIが異なると画面が賑やかになりすぎてわけがわからなくなりそうだ。ソフトウエアそれぞれの利用体験や品質がばらばらではプラットフォーム全体の使い勝手が損なわれる、というMorgan氏の不安はもっともである。

しかしスマートフォンやタブレットの影響でパソコンも変わろうとしている時期、当たり外れのない画一的なUIモデルよりも、ひと握りでも自由なUIモデルから現れる突出した製品の力がプラットフォームの形成をけん引するという考え方もある。Appleは"Back to the Mac"で画一性から個性へと舵を切った。Gruber氏が指摘しているように、戻そうにも止まらない。先に進むしかないのだ。

クラウドサービスを身近にする「Sparrow」と「Reeder」

「Sparrow」。3カラムレイアウトも可能だが、Twitterクライアントのようなコンパクトなレイアウトで使用した方が実用的

先週Mac App Storeで発売開始になったGmail用のEメールクライアント「Sparrow」を購入してみたのだが、これがとても便利でMac OS XのMailがお払い箱になった。UIはiOSアプリのようで、EメールクライアントというよりもTwitterクライアントを彷彿させる。機能は、メールの閲覧・新規メール作成、アーカイブ、削除、返信・転送、スター、検索のみ。Eメールクライアントとしては貧弱だが、シンプルなUIを通じてメールの日常的なやり取りをすばやくこなせる。そこを気に入って使い続けている。

公開ベータテスト中のMac版「Reeder」も手ばなせなくなっている。Google Reader用のクライアントアプリで、大量の記事を購読していても短時間で容易にチェックできる。人気の高いiPad版の操作方法がMac版に活かされており、個人的にはマルチタッチのスワイプでRSSと元記事を切り替えられるのを特に気に入っている。

これらはWebサービスを使うための専用ブラウザのようなアプリである。WebブラウザからGmailやGoogle Readerを使うよりも機能的で、ウイジェットのように軽快に動作し、iOSアプリ譲りのシンプルなUIによって直感的に操作できる。ネットデバイスとしてのMacの使い勝手を向上させる。

今ひとつ実用的ではない今日のデスクトップウイジェットの代わりに、SparrowやReederのようなiOSアプリ的なMacアプリケーションが活躍する。それらにユーザーがすばやくアクセスできる方法を、Appleは次期Mac OS X Lionで実現してくれるだろう。もう一つつけ加えると、SparrowやReederはすでにiOSアプリとしてユーザーに浸透している。iPad版のReederを使っているユーザーならば、すぐにMac版のReederも使いこなせる。逆もまた然り。AppleはMacのUIの一貫性を壊したが、デバイスを超えた新たな一貫性が形になろうとしている。

AppleはMac App Storeを開始してもMacアプリケーションに関しては、iOSアプリのようにApp Storeでの販売に限定していない。それはiOS側からMac OSに参入してくるアプリと、これまでのMacアプリケーションの2つのグループがしばらくは混在すると考えているからだろう。スマートフォンやタブレットを通じてシンプルなモバイルアプリの方が便利と考えるユーザーが増加すれば、従来の一般コンシューマ向けMacアプリケーションも次第に簡素になっていきそうだ。とは言え、2つのグループが一気に集束へと進むとは考えにくい。Morgan氏が指摘するような混乱に陥る可能性もあるだけに、"Back to the Mac"に挑む今年はAppleにとって難しい舵取りの時期になる。