「同じだなぁ」-- 7日に米Googleが米サンフランシスコでChromeイベントを開催し、Chrome Web Storeをオープンさせた。イベントではAmazonが「Amazon Windowshop」という同ストアで配信し始めたWebアプリのデモを披露したのだが、iPad版のWindowshopに似ている……というか瓜二つなのだ。ほかにもスクリーンショットで紹介されたWebアプリのなかに、いくつもiPad版を思い出させるものがあった。で、自宅に戻ってレイアウトが似ているいくつかのアプリを試してみたら機能もほぼ同じだった。違いと言えば、Webアプリ版はスクロール用のバーやコントロールパッドを備えていることぐらいだ。
レイアウトが同じだから「手抜きだ」とか、Chrome Webアプリ版の方が後なんだから「新機能を入れろ!」と言いたいのではない。逆だ。同じレイアウト、同じ機能、操作の共通性は、製品カテゴリや操作インタフェースが異なるデバイスでもユーザーが迷わずにアプリ(サービス)を利用できることを意味する。上で比較しているアプリは、いずれもよく利用されているアプリであり、こうした高いレベルの利用体験(ここが大事!)がクロスデバイスに広がっているのだから、同じ見た目は評価に値する。
ほんの1年前には、ユーザーを戸惑わせず、かつ開発の負担を増やすことなく、いかにiPhone版とAndroid版のアプリを提供するかが開発者の悩みだった。それが今、タブレット向けのiPadアプリと、パソコンで使うChrome Webアプリで同じ利用体験が実現している。現状ではタブレットとパソコンで共通のレイアウトを使う場合、タブレット向けがそのまま採用されているケースが目立つ。それが最善なのかという議論はあるが、iPadアプリと瓜二つのChrome Webアプリの登場は、この1年のHTML5の進捗を実感させるものだ。
"無料"以上に消費者を惹きつけるものとは?
映画/TV番組レンタルのNetflixが公式テクノロジ・ブログで、同社がHTML5を選択した理由を説明している。
Webを活用した宅配DVDレンタルで頭角を現したNetflixは、近年ストリーミングサービスに力を入れている。11月に発表した新サービスプラン(12月開始)では、ストリーミングのみのサービスを追加し、同時にDVDレンタルの料金を値上げするなど、今後ストリーミングに軸足を置く姿勢を打ち出した。
ストリーミングサービスにおいて同社は、メンバーがID/パスワードを入力するだけでいつでもどこでも映画・TV番組を楽しめる環境を目指しており、すでに以下のような幅広い製品で利用できる。
- パソコン(Windows、Mac)
- ゲーム機(PS3、Wii、Xbox 360)
- ネット対応HDTV
- ネット対応Blu-rayプレイヤー
- DVR(TiVo)
- セットトップボックス(Apple TV、Google TV、Rokuなど)
- スマートフォン(iPhone、Windows Phone 7)
- タブレット(iPad)
ストリーミングだからネット接続は不可欠、そしてクロスデバイスを武器にしたいのだからHTML5は自然な選択と言える。しかし、それだけが理由ではない。NetflixのバイスプレジデントJohn Ciancutti氏は、同社がHTML5を用いる最大のメリットとして「サービステスト」を挙げている。
HTML5は、ブラウザを備えたプラットフォームにおいてリッチでダイナミック、そしてインタラクティブな体験を実現する。「ユーザーがアプリケーション(Netflix)を起動するたびに、その最新のテクノロジがNetflixのサーバから配信される。われわれは常にアップデートやテストを実行でき、利用体験を向上させていける」とCiancutti氏は述べている。サービスの改善・向上につながると思われる開発チームのアイデアをすぐに試せて、ユーザーを常に刺激できるからHTML5化に舵を切ったという。
Netflixのサービスはサブスクリプション形式(メンバー制、月額10 - 30ドルで見放題)だ。しかし契約期間の縛りはなく、ユーザーはいつでもサブスクリプションを解除できる。だから新規契約者が増えても、既存ユーザーを引きとめられなければユーザーは広がらない。サービス利用を継続してもらうのが成長の土台であり、そのためにNetflixはユーザーを飽きさせないようにサービスを改善/向上し続けていく必要があるのだ。
Netflixは過去2年の間に、米国で最も成功したウエブ企業の1つに数えられるだろう。その理由は「映画・TV番組をユーザーがより発見しやすく、より鑑賞しやすい環境」を追求してきた姿勢にあるように思う。そんなNetflixがHTML5にシフトするというのは、HTML5が「簡単・便利」を可能にするテクノロジであることを意味する。
11月末にTIMEに「The Men Who Stole the World」という記事が掲載された。Shawn Fanning氏(Napster)、Jon Lech Johansen氏(DeCSS)、Justin Frankel氏(WinAmp、Gnutella)、Bram Cohen氏(BitTorrent)がエンターテインメント産業をひっくり返した過去十数年をまとめている。海賊コンテンツ問題の小史だ。
全体的に退屈な内容なのだが、iTunes Music Storeが周りの予想を覆して成功し、それがJon Lech Johansen氏の考え方、その後の活動に影響する部分が面白い。すべては以下の一文に集約されている。
It turns out that there is something that can compete with free: easy
-- 無料と競争できるものがあることを知らしめた。それは"簡単 (easy)"だ
この場合の無料は海賊コンテンツを指すが、Googleに代表されるフリーモデルの無料に置き換えても"簡単 (easy)"は有効だろう。