WikiLeaksによる外交文書漏洩で米国は先週から大騒ぎだが、わが国の官房長官に負けず劣らず、米国にも強権的な対応で話題を集める政治家がいる。上院国土安全保障・ 政府問題委員会のチェアマンを務めるJoe Lieberman議員(民主党 コネチカット州選出)だ。Wikileaksに関わるものならば問答無用で圧力をかける。その徹底ぶりは頼もしくもあったが、次第に権力濫用を危ぶむ声が出てきている。
WikiLeaks問題に対しては、米Amazon.comがサービス契約を解除し、さらにPayPalもWikiLeaksのアカウントを停止させた。AmazonのWikiLeals締め出しについてはDDoS攻撃が原因という報道もあったが、Amazon Web Services (AWS)は声明を通じてこれを否定。WikiLeaksにいくつかの利用規約違反があったため契約を解除したとしている。たとえばAWSを通じて提供しているコンテンツは、契約者が権利を保有または管理するものでなければならないが、明らかにWikiLeaksは公開している機密書類の権利を保有・管理していないとしている。
このAmazonの対応には「もっともだ」という賞賛の声が上がったが、英Guardianの報道によると、AmazonはLieberman議員のスタッフから問い詰められた後で契約解除にふみ切ったという。実際Lieberman議員からのコンタクトがAmazonの判断に影響したのかは判らないが、同社がLieberman議員の圧力を受けていたのはまちがいない。というのも、データビジュアリゼーションのTableau Softwareが2日に、WikiLeaksデータの視覚化停止を発表したのだが、そのブログ書き込みではっきりとLieberman議員からの働きかけに応じたものと公表している。Tableauに圧力がかけられたぐらいだから、Amazonには真っ先に連絡があっただろう。
こうしたLieberman氏のアプローチに対して、非営利団体Electronic Frotier Foundation (EFF)のRainey Reitman氏とMarcia Hofmann氏は「Amazon and WikiLeaks - Online Speech is Only as Strong as the Weakest Intermediary」の中で以下のように指摘している。
「政府はWikiLeaksの情報公表を口封じするような措置は実行できない。憲法に反する事前抑制もしくは一般国民の知る権利を侵害する検閲に当たる。やはり盗まれた政府の機密書類だったペンタゴンのドキュメントを公表したNew York TimesやWashington Postを政府が制止できなかったのと同様に、WikiLeaksがコンテンツを公表する権利を政府は侵害できない。」
ホスティングサービスにも"言論の自由"
ひと昔前なら情報漏洩や告発情報は信頼できるジャーナリストの手に委ねられた。情報の真贋や裏表の意味を見抜くジャーナリストの眼を経て公表された情報を"知る側"は信用した。しかし今ではジャーナリストの力を借りることなく誰でも情報を公開できる。しかも情報はまたたく間に広まっていく。
強権発動と批判されるようなLieberman議員の懸命の圧力でWikiLeaksの状況は苦しくなってきた。資金ルートであったPayPalアカウントを封じられたのは痛手だと思う。だがJulian Assange氏が活動できないような状況に追い込まれたり、WikiLeaksが潰されたとして、それで機密文書のリークはなくなるだろうか? 機密文書の持ち出しを完璧に封じ込めるのは不可能であり、また誰でも機密情報を公表できるサービスや技術が存在する以上、もはやリークは止められないだろう。WikiLeaksはメディアかというような議論もけっこうだが、これはWikiLeaksで終結する問題ではない。
今回の騒動で残念に思うのは、Amazonが契約解除した判断の重要さがほとんど議論されず、Amazon自身も無難に「利用規約違反」で処理してしまったところだ。
EFFのReitman氏とHofmann氏はAmazonについて「Webホスティング企業は政府ではない。民間であり、何を公表し、何にフタをするかはAmazon自身の"言論の自由(First Amendment)"で実行できる」としている。これは興味深い。"利用規約"ではなく、実際のところは"言論の自由"に基づいた判断なのだ。
それゆえにWikiLeaks問題に関して、Amazonは言論の自由の行使という点から顧客や"知る側"が納得できる説明をしてほしかった。WikiLeaksを拒否するにしても、顧客の表現の自由に関してどのような考えを持っているかを明確に示せば、WikiLeaksの問題点が"知る側"や顧客に伝わっていく。説明不十分のまま利用規約違反で片付けたり、政治家の圧力に応じる形では"表現の自由"の行使にはほど遠い。日和った対応と受け止められかねない。
今、ネット上のリーク情報は野次馬的な興味を満たす情報と紙一重である。情報のリーク問題は漏洩を防げない以上、最終的にはリークする側のモラルに委ねられることになる。時間はかかるが、リークの善悪を充分に浸透させていくのが混乱を避ける最も効果的な対策であるように思う。そのためには、まずネットのさまざまな場所で、それぞれが流されることなく、言論・表現の自由を考えていく積み重ねが必要だ。