"オープン版Facebook"と呼ばれる「Diaspora」が話題になっているが、Mashable創設者のPete Cashmore氏に言わせれば、「The 'Facebook killer' won't look like Facebook("Facebookキラー"はFacebookのようなサービスに非ず)」だ。CNN.comに寄稿した記事で、同氏は「Digg→Twitter/Facebook」「Google→Facebook」などを例に、隆盛を極めたサービスを脅かすのはクローンではなく、新たなイノベーションだと説いている。つまりDiasporaがFacebookクローンのような存在であれば、Facebookキラーにはなり得ないというわけだ。
じゃあ、具体的にどのようなサービスがFacebookキラー候補になるのかが気になるところだが、 残念ながら同氏はそこまでは言及していない。ただ、この記事を読んでいて思い浮かんできたサービスがある。個人情報アグリゲータの「Rapleaf」だ。
Rapleafという会社名に聞き覚えのある方も多いと思う。Facebookのアプリ開発者の一部がユーザーIDをデータブローカーに販売していた問題で取り沙汰され、Facebookの調査に協力した会社だ。
Rapleafは2006年設立で、当時は個人情報のアグリゲータではなく、Eコマースサイトのトランザクションをユーザーが評価し合うシステムを提供していた。これがeBayにも警戒されるほど順調に成長していたが、2007年にソーシャルネットワークサービスなどから収集した個人情報のブローカーサービスを開始。あっさりと、そちらに軸足を移してしまったのだ。なんとももったいない話だが、それだけネットに散らばる個人情報の整理に大きな可能性を見出したということだろう。このサービスにはPayPalの共同創設者で、Facebook初期の投資者としても知られるPeter Thiel氏が支援している。
気になる候補からのアプローチにはわけがある
Rapleafにどのような価値があるかというと、11月2日に行われた米国の中間選挙の結果から、その効果を読み取れる。
選挙の行方を見通すデータというと、以前は候補者に集まる寄付金や各候補の選挙資金の総額などだったが、今回の選挙ではフォロワー数や"いいね!"の数と当選の関係が話題になっている。上院議員改選では、Twitterのフォロワーがライバルよりも多かった候補の勝率が74%を記録、またライバルよりもFacebookの"いいね!"を数多く集めた候補の勝率も71%だった。
たとえばフロリダ州の民主党予備選では、Facebookの"いいね!"を2万4,135票獲得したKendrick Meek氏が、2,400万ドル(19億9,000万ドル)もの資金を投入したJeff Greene氏に勝利した。ちなみにGreene氏の"いいね!"は644票だった。コネチカット州の上院議員選でも、ライバルの7倍以上に相当する4,200万ドル(約34億9,000万円)を投じたLinda McMahon氏(共和党)が敗れるという波乱が起きた。同氏のFacebookの"いいね!"はライバルよりも15票上回っただけ。ソーシャルメディア上で効率的に人気を伝播させられれば、圧倒的な資金の差を跳ね返し、番狂わせを起こせることが証明された。
しかし、どのような活動を展開すれば、ソーシャルメディアを有効活用できるのだろうか? Twitterで自分の考えや普段の活動をつぶやき、Facebookを駆使して遊説に支持者を動員する……そんなことは今どきの政治家なら誰でもやっている。もはや政治活動のいろはに過ぎない。
当落に影響するのはソーシャルデータを操る力だ。これはWall Street Journalの「A Web Pioneer Profiles Users by Name」という記事に詳しい。今回の投票日直前、共和党候補への投票を検討していたニューハンプシャー州に住むある女性のWebブラウザに、共和党の上院議員候補Jim Bender氏のオンライン広告が頻繁に表示されるようになった。これはBender氏が広告スペースを大量に購入していたわけでも、また単なる偶然でもない。Bender陣営はRapleafのデータを用いて「保守的な考えを持ち、聖書を読み、環境問題に関心を持つ女性」に広告を配信していたのだ。ほかにも民主党のコンサルタントChris Lehane氏が、今回の選挙でのRapleafの活用を明かしている。同氏はカリフォルニア州での自動車保険の保険料率変更に関する住民投票において、カリフォルニア州南部の都市部に住む40歳以上の女性をターゲットに提案を否認に持ち込む運動を展開したという。
個人の"ライフスタイル"データの提供を開始
RapleafはWeb利用の動向をトラッキングするサービスではない。SNSのプロフィールや書き込みなどから個人情報を収集し、本名や住所、電子メールアドレスと結びつける。ネットユーザーのトラッキングサービスが個人を特定しないように注意を払っているのに対し、Rapleafは逆に個人を特定するのを武器としている。Rapleafが集めている情報はユーザー自身が公開しているものばかりだが、まんべんなく収集され本名と結びつけられると、その人物像が浮き彫りになる。Wall Street Journalの取材を受けたニューハンプシャー州在住の女性はRapleafの自身のデータを見て、「監視されているようで、これは良くない……」と驚いていた。
Rapleafはオンライン広告向けのクライアントには個人名を伏せた状態でデータを提供している。しかしながら、データを受け取る側がひと手間をかければ本名まで行きつくのは不可能ではない。最近同社は開発者向けに提供している「Personalization API」に、新たにライフスタイル情報へのアクセスを追加した。これにより開発者は電子メールや住所などから以下のような情報を引き出せるようになった・
- デモグラフィックス:年齢、性別、居住地など
- ライフタイル:収入、職業、家族構成、不動産など
- ソーシャル:影響力指数
- 興味・関心:好きなスポーツ、飼っているペット、利用しているガジェット、音楽の好みなど
たとえば、安定した収入があるはずなのに、急にSNSなどでテイクアウト専門の店に関する発言が増え始めると何らかの理由で生活レベルが下がったと推測できる。極端な話、これまでのように高いコストをかけてクレジット情報を入手しなくても、ソーシャルサービスから収集した情報の分析を基に個人融資が必要そうな人を見分けられる。
当然のごとく、Rapleafに対してプライバシー侵害の火種になるという批判が起こっている。こうした声にRapleaf側は、個人の情報を整理することで、よりパーソナルなサービスが実現できると主張している。また各個人がネット上で公開している情報や発言を自ら確認できれば、逆に深刻なプライバシー侵害の問題を防げるとしている。
Rapleafは革新的なプラットフォームなのか、それとも単なるお騒がせな存在なのか?
正直なところ判らない。実はオプトアウトしようと思ってRapleafのサイトを訪れたことがあるのだが、自分の電子メールアドレスに紐付いている情報を確認/整理しただけで、その時はオプトアウトまでは行わなかった。
利用の事前承諾(オプトイン)ではなく、オプトアウトで利用拒否であるように、現時点でRapleafの仕組みは信頼に足ると言うにはほど遠い。自分が構わないと思う以上の個人情報がマーケッターに流れてしまう可能性は高い。他の人に相談されたらオプトアウトの検討を勧める。
だが、スタートアップとしては気になる存在なのだ。言ってみれば、RapleafはFacebookが慎重に掘り当てようとしている金脈を目指して大胆にボーリングを打ち込んでいるようなサービスである。これはFacebookにとって脅威だと思う。「シンプルなAPIを通じたデータ提供はより便利で革新的なサービスを生み出す基盤になり得る」という考え方には共感できるし、そのアイディアをどのように形にし、消費者を納得させられるか見てみたい。こうした破壊と革新が混在する危うさは初期のYouTubeにも見られた。ただ今回は問題が個人情報だけに、自分が著作権侵害のリスクを抱えた著作権保有者の立場になった気分である……。