ここ1週間ほど第3世代のKindleを使い続けてきたが、読みやすい。これまでは2 - 3ドル程度の違いだったら、高くてもペーパーバックを買うことが多かったが、これなら本の置き場所に困らないKindle版を購入する。
Kindle 3に満足している。だが100%満足しているかというと、なんか面白くないというか、モノ足りなさを感じるのだ。
薄いタブレットに数千冊の本を収められ、しかも快適に読めるのは素晴らしい。紙の本の代わりになり得る読みやすさは、電子書籍リーダーの到達点の1つだと思う。その点で不満はないのだが、Kindle 3を手にしていると、極端な話、もし紙の本が存在せず、最初から電子ブックの形で本がデザインされたら、電子ブックはどのようなスタイルに落ち着いただろうかと考えてしまう。
API公開にふみ切る新聞が続々
全米紙USA TodayがWeb版のデータAPIを公開する計画を発表した。米NPR(National Public Radio)、米New York Times紙、英Guardianに続くAPI公開になる。まずは書籍のベストセラー・データと、メジャースポーツの選手年俸データへのアクセスを許可し、API公開の成果を評価しながら他のトピックにも拡大していくという。
2008年7月に公開された非営利組織NPRのAPIでは、1995年以降の25万以上の記事にアクセスできる。これによりNPRステーションやパートナーがNPRの記事を活用したアプリケーションを作成できるようになり、モバイルアプリの登場をきっかけに昨年NPRのページビューは80%向上したという。
NPR以上に大きな注目を浴びているのが、今年5月にAPI公開にふみ切ったGuardianだ。同紙は"オープンプラットフォーム計画"として進めており、APIと共に開発者向けにいくつかの関連サービスも用意している。記事へのアクセスは無料で、しかもAPIを利用したサービスやアプリを開発者は有料で提供できる。ただし記事全文を利用するには、Guardianが提供する広告の掲載またはライセンス料の支払いが条件になる。
New York Timesが非商用利用で、かつ全文アクセスは認めていないことに比べると、Guardianのプロジェクトは大胆で野心的だ。同社はデータを自身のWebサイトに止めておくよりも、ネットのあらゆる場所から利用できるようにした方が価値が上がると考えた。メリットはアクセスの増加だけではない。全国紙の場合、読者が一般的になるためターゲティングが弱くなる。たとえばチェルシーのファンがGuardianのサッカーページを訪れても、訪問者がどこのチームのファンかは判別できない。だが、チェルシーファンのサイトからのアクセスならターゲットを絞り込んだ広告を提供できる。
看板を重んじる大新聞がデータAPIを公開するなんて数年前には考えられなかったことだ。新聞のWeb版は無料公開が当たり前と見なされる中、Web版の売上げを改善するための苦肉の策とも考えられるが、ネットユーザーには歓迎されている。一方で、News corp.のRupert Murdoch氏のように有料化を主張し、コンテンツ共有は記事の価値を引き下げるだけと考えるメディア経営者もいる。
こうした議論が、そのうち電子書籍にも及ぶのではないだろうか。新聞のWeb版はWebサイトであり、電子書籍とは根本的に異なるという声もあるかと思うが、電子書籍は、その中にテキストと画像のコンテンツデータを含み、見出しやチャプターなど構造が定義され、タイトルや著者名、ISBNなどのメタデータを備える。Webサイトと大きな違いはない。Amazonは対応していないが、多くの電子書籍リーダーがサポートしているEPUBはXHTMLベースなのだ。
BookGluttonという書籍版のニコ動と呼べそうなWebベースの電子書籍のソーシャルリーディングサイトがある。各段落に固有のURLが割り当てられたEPUB形式の本がWeb上で公開されている。annotation APIを通じて、メンバーは段落にメモを貼り付け、注釈や意見を共有または交換し合える。BookGluttonの本のWidgetをWebサイトやブログに埋め込むことも可能だ。公開できる本がパブリックドメインに限られるため、コミュニティの規模があまり大きくはないのが残念な点だが、Webならではのユニークな読書を体験できる。
ソーシャルリーディングが電子書籍の未来だと言う気は毛頭ない。ただ電子書籍ユーザーが着実に増加する中、情報の種類によってはGuardianのように電子版の可能性を追求する出版社が現れても不思議ではないと思う。本を読むのが嫌いなら、Kindleで読む電子ブックも嫌いだろう。Kindleは良くも悪くも紙の本の読書体験なのだ。コミュニケーション色の強いソーシャルリーディングだと、本嫌いも興味を持つかもしれない。書籍市場拡大の伸びしろになり得る。