日本でHMV渋谷の閉店が"CDが売れない時代"の象徴としてニュースになったが、米国でもレンタル(DVD/ゲーム)チェーン大手Blockbuster Videoが9月中に破産申請する可能性が大きな話題になっている。これはLos Amgeles Timesが報じたもので、2008年からこれまでの損失が11億ドルに積み上がり、すでに利息の支払いが重しとなってビジネス回復の見通しがまったく立たない状態だという。
Blockbusterはビデオ時代に急成長したレンタルチェーンで、ファミレスや中規模のスーパーマーケットなどの近くにあることが多い。いまの20代の米国人なら誰でも子供の頃に、買い物や外食とBlockbusterがセットになった週末を経験しているはずだ。モールの映画館に家族で行くよりもお手軽で、90年代の典型的なファミリーエンターテインメントだった。そんな思い出があるから、Blockbusterの衰退はネット世代の間にも衝撃が広がっている。
HMV渋谷閉店のときもそうだったが、音楽CDの売上げ減が話題になると毎回、海賊コンテンツの影響が挙げられ、そうした声に対して音楽CDの娯楽としての魅力の衰えが指摘される。さらに「音楽CDの売上減少分を、オンライン音楽販売がカバーできるのか?」という議論になって最初に戻る。堂々巡りだ。
では海賊コンテンツの影響を抑えられたとして、音楽CD売上げの下落に歯止めがかかるだろうか? おそらく従来の提供方法のままでは、いずれ立ち行かなくなると思う。そのことをBlockbusterの衰退が証明している。2007年ごろからDVDの売上げが下落し続けているものの、CDに比べると落ち幅はずっと小さい。DVD市場がまだ健在であるにもかかわらず、Blockbusterは倒れかかっているのだ。原因はNetflixやRedboxなど消費者がより便利にDVDをレンタルできるライバルの登場であり、またBlockbusterが大型レンタル店という伝統的なスタイルに安住し続けてしまったからだ。
レンタルDVDは店に立ち寄るのが面倒だ。借りるときはまだ楽しいが、返却は苦痛でしかない。NetflixとRedboxは、この手間を緩和した。宅配DVDレンタルのNetflixは月額16.99ドル(約1,450円)で、ユーザーは手元に3枚という枠内でDVDを月に何枚でも借りられる。注文はオンライン、DVDの受け渡しは郵送なので、自宅から離れずにDVDをレンタルできる。一方Redboxは自動販売機式のレンタルサービスで、1泊1ドル(約86円)と格安。コンビニなど便利な場所に設置されており、借りた場所以外のRedboxでも返却できるため、出かけたついでに手軽に返却できる。
2003年にAppleがiTunes Music Storeを発表したときに、Steve Jobs氏はユーザーが安心して便利に使えるオンラインストアが存在すれば、手間ひまのかかるファイル共有は使われなくなると主張した。当時は「無料に有料が太刀打ちできるはずがない」と一笑に付されたものの、iTunes Music Storeは大成功した。同様にいま、NetflixやRedboxのように手軽かつ手頃な価格でDVD作品を借りられるサービスの存在は、映画作品の違法ファイル交換からユーザーを遠ざけている。
Netflixの台頭に対してBlockbusterも慌てて宅配DVDレンタルに乗り出したものの、業績の好転にはつながらなかった。それもそのはずである。Netflixの規模はBlockbusterに遠く及ばないのだ。だからといってNetflixが不便というわけではなく、Blockbusterよりもはるかに小さな規模で、全米を対象にした幅広い品揃えのDVDレンタルを実現している。小規模でフットワークが軽いのが宅配DVDレンタルのメリットの1つであり、効率の良さは低価格サービスにもつながっている。この小さな事業をいまのBlockbusterにそのまま取り入れても、宅配レンタルからの利益は巨大なビジネスの損失で消えてしまう。まずはスリムになることから始めなければNetflixやRedboxとは競争できないから破産申請なのだ。
エンターテインメント向けソーシャルネットワーク
Appleが9月1日に米サンフランシスコで音楽・映像関連のスペシャルイベントを開催する。同じ時期にBlockbusterの破産が話題になり始めるとは、なんとも皮肉なタイミングである。
「Think Social - iTunesが目指す次の音楽サービスの姿とは?」というニュース記事にあるように、iTunesにソーシャルネットワーキング機能が組み込まれるという噂が広まっている。「エンターテインメント向けソーシャルネットワーク」と言われても、プレイリストの公開やFacebookやTwitterへのおすすめのポストなどを想像してげんなりする人も多いかと思う。だが噂が本当ならば、真っ先に"便利なサービス"を追求し始めたAppleがどのように取り組むかに注目したい。
というのも、ここ最近Twitter以降のソーシャルネットワーキングをエンターテインメントに結びつける動きが活発化している。たとえば米国では、「Rdio」というSkype創業者が立ち上げたTwitterのような音楽ストリーミングサービスが始まっている。友だちや音楽に詳しい人、音楽の趣味が面白い人などをフォローし、他のメンバーのアクティビティを新しい音楽の発見につなげる。また今年はFoursquareやGowallaなど、位置情報機能を使ってお店やレストランなどにチェックインするゲーム感覚のソーシャルネットワーキングサービスが流行しているが、最近そのエンターテインメント版と呼べそうなサービスにも注目が集まっている。GetGlueやMisoなどがあり、ユーザーは「TV番組を見る」「音楽を聴く」「本を読む」など様々なエンターテインメント・アクティビティにチェックインする。作品に対するレーティングやコメント、おすすめを共有できるほか、チェックインにはポイントが付き、アクティビティを重ねていくと報酬が発生する。
いずれもスタートアップ・レベルで、まだまだ一般的なサービスではないが、こうしたソーシャルネットワークがエンターテインメント・コンテンツの消費を促す起爆剤になりそうな機運が高まっている。最初に火を付けるのはAppleか、それともNetflixのような新たな勢力が台頭するのか。油断大敵……Appleと言えども今日の地位に甘んじていたらBlockbusterのように足下をすくわれかねない。