Foursquare」と「Gowalla」、ゲームの要素を取り入れたロケーションベースのソーシャルサービスを提供するライバル同士である。まだメジャーなサービスとは言い難いが、どちらにも熱心なユーザーが定着している。今年のSouth by South West (SXSW)では、ともに参加者向けのサービスを会場内で提供。直接対決の結果は、ツイート数など話題性ではFoursquareが勝利したが、SXSWのWeb Awardsモバイル部門を制したのはGowallaだった。

FoursquareとGowallaなどが提供するサービスは単なるゲームにとどまらず、モバイルユーザーにローカル情報を提供する新たな基盤サービスになり得ると期待されている。ただサービス自体にそれほど大きな違いがなく、これから使ってみようという人にとっては、どちらを選ぶかが悩みどころである。どっちがお勧めか聞かれても「フィーリングが合う方を……」としか答えようがない。などと考えていたところ、Foursquare創設者とGowalla創設者がサービス提供に至るまでの経緯を語る講演を立て続けに聴く機会があった。似ているようで、実は2つのサービスは根っこが異なる。サービス選びの参考にもなると思うので、今回は2つの講演の内容を紹介しよう。

リアルな世界をゲームに変えるFoursquare

Foursquare共同創設者のDennis Crowley氏は、同社の前にDodgeballという位置情報ベースのSNSサービスを設立したことで知られる。05年にGoogleに売却したが、Googleは同サービスを生かし切れなかった。その原因の1つとして同氏はゴーストタウン化を挙げた。開発中のSNSはユーザー規模が小さいため、サービスを共有できる友だちが限られてしまう。コミュニケートする相手が見つからなければ、サービスの内容に関わらずゴーストタウン化してしまう。だから次に手がけるサービスでは、1人でも利用できる機能を用意し、1人のアクティビティがサービスユーザー全体に、逆にサービスユーザー全体のアクティビティも1人の利益になる仕組みが必須と考えた。

Foursquare共同創設者のDennis Crowley氏

ある日、移動中にマンハッタンの橋の真ん中にマリオブラザースのキノコがペイントされ「200pt UP」と書かれているのに気づいた。その瞬間にFoursquareのアイディアがひらめいたという。自宅に戻ってから検索してみると、キノコのペイントは至るところに描かれている。宝探しだったり、ジョギングコースの目印だったり様々だ。これをデジタルで提供し、ジョギングのトラッキングシステムのようなものと組み合わせたら「リアルな世界をゲームのように楽しめる」と考えた。1人でも楽しめるし、グループまたはサービスユーザー全体との利用体験の共有も可能だ。

Crowley氏が見つけたキノコのペイント

ジョギングコースにコインやキノコがペイントされている

Crowley氏は講演の度に、Nike + iPodを例にFoursquareを説明するそうだ。友だちと走った距離を競争したり、コミュニティ内でのランキング上位を目指すことで面倒なジョギング/ウオーキングが続く。ゲームの要素が人々のやる気を起こす。Foursquareの場合は、「ジムに行く回数、映画館や美術館を訪れる回数、読書数など、あらゆることに対して人々の関心を高める仕組みにしたい」という。

アイコン共有サービスの成功から始まったGowalla

Gowalla CEOのJosh Williams氏は製品デザイナーである。まずFirewheel Designというデザイン会社を設立。アイコン・デザインの仕事を請け負っていたことからIconBuffetというアイコンのコミュニティサイトを作った。そこでメンバー同士でアイコンの交換が活発に行われるようになり、アイコンが何に使われているか不思議に思ってアンケート調査したところ、約85%が手に入れたアイコンを何にも使っていなかった。「何の価値もない小さなピクセルでも人々が集めるのだから、これで何かできるではないか」とファイル共有Napsterの共同創設者Sean Parker氏に相談し、様々なアイディアを交換した末にGowallaに行きついた。

Gowalla創設者のJosh Williams氏

Foursquareが"達成感"をテーマにユーザーを行動させようとしているのに対して、Gowallaのテーマは「発見と共有」である。宝探しの要素が強く、例えばスポットに他のメンバーが置いていったアイテムと自分のアイテムを交換できるなど、Foursquareほど積極的に行動しなくても新たな発見に出会える。今年のSXSWでは期間中に65,000の新しいパスポート(プロフィール)が作成され、スポットで60,000枚の写真が撮影されたそうだ。

Gowallaは"デザイン"が人を動かすポイントと考えており、Gowallaのデザインを気に入って同社と提携する企業やショップは多い。一方でデザインにかたむき過ぎる傾向があり、特に初期はロケーション機能やソーシャル機能がおろそかになってユーザーから批判された。そうした課題をこなすうちに、ピンを集め、アイテムを発見/共有するというGowallaのあるべき姿が機能し始めたとWilliams氏はアピールした。しかしながら今でも、Gowalla APIの「あり得ない変更」やGowallaの「不十分なコミュニケーション」に開発者の不満が爆発するなど、まだまだ課題は残されている。

デザインだけに凝ったというGowallaの最初のスケッチ

ランス・アームストロングのバイクショップMello Johnny'sとのタイアップ

今月上旬にサンフランシスコで開催されたWeb 2.0 Expoで、DropboxとXobniの創設者が共同でスタートアップを成功させるポイントを講演した。その中で特に強調されたのが、サービスを構築する前の綿密な計画だ。また利用可能な機能のみをアピールし、準備が整っていない機能にユーザーやパートナーの目が向かないように注意すべきというアドバイスもあった。FoursquareはDodgeballの失敗を経験しているためか、ユーザーとパートナーの間をエコシステムが広がるように注意深く計画が遂行されているという印象だ。一方Gowallaは、IconBuffetの成功を土台に勢いで発展してきたという印象。戦略的ではなく、ユーザーに気づかれてはいけない準備段階の機能もおかまいなしだ。個人的にはGowallaのわくわく感は好きなのだが、今のところ不安はつきない。

TwitterifficとGowallaのタイアップ。iPad用Twitterifficリリース時に、Apple StoreにOllie the Bluebirdのアイコン(左)を配置した。Apple Storeでチェックインしたユーザーに抽選でOllieのフィギュア(右)を進呈。面白いが、ちゃんとApple Storeの了解も得てやっているのか……と不安になる

ただ、こうして同じようなサービスが2つ、同じようなタイミングで共に成長できているのは、この分野の将来性の証と言える。今ロケーションベースのサービスには多少の失点は目をつぶってもらえるような雰囲気がある。初期のYouTubeがそうであったように、まとまったサービスよりも、大胆なサービスの方が意外と生き残ったりするのかもしれない。