LadyGaga.comのユーザーの「89%」が同サイトのログイン/サインアップを使わず、サードパーティ(Facebook、Twitter、MySpaceなど) アカウントでログインしているそうだ。OpenID User Experience(UX) Summitにおいて、JanRainのBrian Ellin氏が明らかにした。
「新しいアカウントを作るのをユーザーが避けた結果、サードパーティ・アカウントでのログイン率が高くなった」とも考えられるが、ミュージシャンの公式サイトの中でも人気が高いであろうLadyGaga.comである。ビジター/ユーザー数が少ないとは考えにくい。むしろ普段SNSなどを利用していないビジターが多いと考えるのが自然であり、その中で89%というのは驚くべき数字だ。
テクノロジではなく、その便利さをユーザーに伝える
登録ユーザー制にすれば、Webサイト側は双方向的なサービスや、ユーザーごとにカスタマイズしたサービスを提供できるようになり、またユーザー同士の交流も促せる。ついでにマーケティングのチャンスも広がる。だが登録してもらったり、また登録ユーザーに再度ログインしてもらう手間が生じる。フォームに必要情報を書き込んだり、ID/パスワードの管理が面倒だから、サイトの入り口できびすを返すユーザーが出てくる。登録制は両刃の剣である。
そうした問題のソリューションとして、OpenIDやOAuthなどの認証プロトコルが登場した。ユーザーはサイトごとにアカウントを設ける必要はなく、日常的に使用しているサービスのIDで対応サービスに簡単にログインできる。だから登録制でも使ってみようという気持ちが生まれやすくなる……はずなのだが、過去数年を振り返るとOpenIDを採用する人気サイトは増えず、一般ネットユーザーもOpenIDアカウントを積極的に使おうとはしない悪循環に陥っていた。だから、LadyGaga.comの89%は驚くべき数字なのだ。
ユーザーはなぜOpenIDなどを活用しないのか?
ユーザーにとって便利な仕組みを用意しても、そのメリットがちゃんとユーザーに伝わらなければ「宝の持ち腐れになる」というのがEllin氏の指摘である。JanRainは、「RPX」というOpenIDなどを利用するユーザーを、Webサイトが受け入れられるようにするソリューションを提供している。単に受け入れをサポートするだけではなく、ユーザーがサードパーティ・アカウントでのログインを利用してしまうような使い勝手の良さを日々探求している。OpenID UX Summitの講演「lessons learned over the past three years implementing OpenID」では、その一端が紹介された。
OpenIDを受け入れるサイトのログイン画面というと、以下のようなデザインが多い。
OpenIDが十分一般ユーザーに浸透していれば問題ないが、OpenIDと言われても「よく分からない」というユーザーが多いのが現状だろう。「多くの異なったWebサイトで同じアカウントを利用できる」という説明はなんとなく分かるものの、OpenIDをどのように利用するかをイメージできるほどではない。調べる手間が必要では、逆にユーザーを遠ざけかねない。
そもそも今のネットユーザーの多くはID/パスワードなどを入力するボックスを見ただけでげんなりするほど、入力フォームにいいイメージを持っていない。そこでJanRainは入力ボックスを避け、さらにOpenIDなどのメリットをユーザーがひと目で分かるように、ログインに使えるサードパーティ・サービスのボタンを前面に出した。たとえば下のTakingITGlobalの新・旧アカウント登録画面だ。
入力フォームのみの以前のページは、パッと見た感じ登録に時間がかかりそうな印象だが、大手サービスのボタンが上部に表示された今日のデザインからは簡単にログオンできそうな雰囲気が伝わってくる。
続いて、blink-182の公式サイト。これもサインインの入力ボックスより、サインインに使えるサードパーティ・サービスのボタンの方が目立つ。
サードパーティ・アカウントと電子メール/パスワードのログインを比べると、blink182.comでは60%がサードパーティ・アカウントを利用しているという。サインインについては、新たなページにユーザーを誘導するのではなく、同じ画面でポップアップを使ってサインインできるようにするとユーザーのサインイン率が高まるそうだ。
最後に、サードパーティ・アカウントでのログイン率"89%"のLadyGaga.comは下のようなデザインだ。
Facebook(Facebook Connect)、Twitter(OAuth)、MySpace(OpenID)の人気サービスに絞り込んだシンプルなデザイン。それゆえに、これらのサービスのユーザーには簡単にログインできる感じが伝わる。
Webサイトのログイン・プロセスの背後にどのような認証プロトコル技術が使われているかをユーザーが知る必要はない。その技術で、サービスがどのように便利になるかが伝わるべきなのだ。すべてのネットユーザーは管理するパスワードの数を減らしたいと思っている。だから一度でもサードパーティ・アカウントでのログインの便利さを体験したら、他のWebサイトでのサポートも求めるようになるだろう。FacebookやTwitterの一般ネットユーザーへの普及という環境も整っているのだから、あとはWebサイト側の対応のみである。
LadyGaga.comの"89%"という数字は、登録ユーザーの拡充や、大手ソーシャルネットワーキングサービスとの接続、他のWebサービスとのユーザー情報の共有を考えている小・中規模のサイトには心強い数字ではないだろうか。