先週末を通じて、Googleが来年の早い時期にアンロック携帯 (以下Google Phone)を販売し始める……という報道がGoogle NewsのSci/Techのトップを独走し続けた。全米ネットワークのニュース番組でも多くが12日にこの話題が取り上げていた。「GoogleブランドのAndroid携帯こそ、真のiPhoneキラー」という見方で盛り上がっている。

ただその噂が事実だとすれば、気になるのはGoogleブランドの携帯そのものよりも、Googleがハードウエアを手がける理由である。「Web利用の拡大」を目標にしているという点で、Googleは非常にシンプルな企業だ。Web利用の幅が広がればオンライン広告収入の機会が増える。だからWebへの情報の取り込み、Webの高速化などには力を注ぐ。だが、無闇に事業を拡大しない。拡大にふみ出すときには目標に沿った大きな理由がある。その点でブレがない。たとえばChromeでWebブラウザ市場に参入したのは、Webアプリを動作させる環境としてブラウザが遅すぎたためだ。Chromeの登場によって他のブラウザもJava Scriptの実行速度を向上させるようになり、ユーザーのWeb利用体験はずいぶんと改善した。Chromeは大きなユーザーシェアを獲得していないものの、その影響はすべてのWebブラウザユーザーに及ぶ。携帯も同様で、Googleが携帯販売の収益に期待しているとは考えられない。そこには目標に沿った"理由"があるはずであり、その恩恵は大小の差はあれども、すべてのモバイルWebユーザーに及ぶ可能性が高い。

はかどらない、デベロッパのAndroid 2.0サポート

Google Phoneの存在が確認されたきっかけは、Google Phoneの配布を受けたというGoogle社員のツィートである。さらにGoogle Mobile Blogで社員に配布したGoogle Phoneが取り上げられた。

Googleでは、常に新しい製品や技術を実験しており、短期間でフィードバックと提案を集めるために社員にテストを依頼している。われわれは、これをドッグフーディング("eating your own dogfood"から)と呼んでいる。

「eating one's own dogfood」とは、ドッグフードメーカーのAlpoが同社のドッグフードを実際に食べさせている俳優を起用したテレビCMに由来する。1988年にMicrosoftでLANのテストマネージャーが「Eating our own dogfood」と題したEメールを通じて社内テストの拡充を訴えた。以来、社内試用がドッグフーディング(dogfooding)と表現され始めた。

最近になってMobile Labのコンセプトとして、パートナーからの革新的なハードウエアとAndroidの組み合わせで新しいモバイル機能を実現するデバイスが形になり、このデバイスを世界中のGoogle社員に配布した。新しいテクノロジをテストし、改善に協力してもらうのが狙いだ。

Googleの発言からは同社によるGoogle Phone発売は予想できない。むしろAndroidの次期メジャーアップデートへの期待が高まる。

社員に配布されたGoogle PhoneはHTCが製造した模様だが、そもそもGoogleはすでにAndroidを搭載したHTC製のアンロック携帯を開発者向けに販売している。同社が新しいHTC製アンロック携帯を販売するなら、ADP1、ADP2に次ぐAndroid 2.x世代の開発者向け端末になると考えるのが自然である。

ここ1カ月ほど日常的にAndroid 2.0デバイスを使用してきたが、現時点でAndroid 2.0にはトラブルが多い。素のままならともかく、突然落ちる、または端末の動作を遅くするサードパーティ製アプリが多い。カスタマイズ性の高さがAndroid携帯の魅力であるのに、これは残念なところだ。今のところAndroid 2.0世代のデバイスはMotorolaのDROIDだけであり、開発者の多くが意識しているのはAndroid 1.6/ 1.5である。Android MarketでのコメントでもDROID対応を望むユーザーの声を多数見かけるものの、アップデートのペースは芳しくないのが現状だ。しかしながら、これから登場するAndroid端末はDROID以上のスペックの製品が多く、Android 2.0搭載へのユーザーの期待も高い。Android 2.xの端末へのデベロッパの対応をサポートするのは急務であり、HTC製G1のT-Mobile USAでの発売からしばらくしてGoogleがADP1(G1の開発者向けモデル)の販売を開始したのと同じパターンで、Nexus One(=Google Phone)が登場するのは自然な展開に思える。

今年のGoogle開発者カンファレンスではHTC MagicベースのGoogleケータイを配布

Chrome OSではリファレンスデザインとしてGoogleがハードウエアを手がける

毎月5450分の無料通話時間、その一方で……

ただGoogle Phoneに関する報道のほとんどは、Google Phoneを開発者向けとはしていない。一般向けだと指摘している。中には、携帯キャリアをユーザーが自由に選択でき、Google Phoneの登場によって米国の携帯キャリア・モデルが一変するという指摘もあるほどだ。

個人的にも、来年からはユーザーとモバイルデバイス、携帯キャリアが今よりも柔軟な関係になると考えている。だが来年初めというタイミングではどうだろう。Android携帯を販売する携帯キャリアが急増している現状を考えると、Androidプラットフォームの成長にブレーキをかけかねない。

このタイミングでGoogleが解決に乗り出そうとする問題を考えると、音声サービスにかたよった米国の携帯プランが思い浮かぶ。

筆者が契約しているAT&Tの音声サービスプランの内容を紹介すると、月々39.99ドル(約3,500円)の基本使用料に、毎月450分、さらに夜間(9PM-6AM)/週末に毎月5,000分の通話時間が含まれる。450分の使い切らなかった分が翌月以降に加算されるロールオーバーという仕組みもある。さらにAT&Tの携帯同士なら通話し放題だ。AT&Tと契約してから2年半だが、これまでに一度も基本使用料以上を支払ったことがない。

米国はもともと固定電話の通話料金が安かった(市内通話は無料)ため、固定電話との競争で携帯プランにどんどん無料通話時間が追加され、ここまで来てしまった。ただ良いことばかりではない。競争が音声サービスにかたより、ユーザーも気兼ねなく通話できるサービスに満足して、データ通信がまったく成長しなかった。その結果、ボイスメールやSMSなど音声サービスのオプションは発展したものの、07年にiPhoneが登場するまでユーザー需要のない一般コンシューマ向けのデータサービスがほとんど存在しなかった。

iPhoneで状況が変わったとはいえ、データサービスへの取り組みはまだまだ弱い。先週AT&Tがデータサービスの品質を維持するためにキャップまたは従量課金を検討していることを明かした。そんなものにシフトすれば、せっかく成長してきたモバイルアプリの世界を狭めることになりかねない。しかし、それが米国のモバイル市場の現実なのだ。

AT&TエグゼクティブのRalph de la Vega氏は「(どれぐらいのデータを消費しているか)ユーザーは学ぶべき」と発言したようだが、AT&TもまたモバイルWebの可能性を学ぶべきである。Google VoiceとGoogle Talkを持つGoogleは、携帯キャリアのデータサービスでの競争を促せる立場にある。