6日にMotorolaの「DROID」が米Verizon Wirelessから発売された。「iPhoneキラーの真打ち」の呼び声がかかっていたAndroid 2.0搭載スマートフォンだ。

いくつかのVerizon直営店は早朝7時にオープン。前日深夜のローカルニュースでサンフランシスコのVerizonショップ前の行列が紹介されていたこともあり、金曜日の早朝にスタンフォード大近くのパロアルト店の開店を見に行った。ところが、ショップの明かりが煌々としているものの、行列はなく、数人が車の中などで待っているだけだった。サンフランシスコほどではないにせよ、パロアルトはiPhone発売日には長蛇の行列ができるシリコンバレーの中心である。それなのに人影まばらなのだ。どうも騒ぎになったのはメディア向けのイベントを用意したVerizonショップだけで、一般的には"iPhoneキラー"と呼べるほど消費者は盛り上がっていないようだ。

Motorola「DROID」、ついに発売

しかし、だからこそAndroidの底力に注目したい。ここ最近の米国におけるAndroid携帯のリリースラッシュは凄まじい。9月まで2機種のみだったのが今や7機種である。二桁到達は時間の問題だ。大手ワイアレス・キャリア4社のうち、すでに3社に浸透している。このギャップがスゴいというか……、消費者を巻き込んだムーブメントになってないのに、このリリースラッシュを生み出せているビジネスモデルは評価に値する。ニワトリとタマゴのジレンマに陥ってないという点で、やはりAndroidはiPhoneキラーの有力候補と言える。

これはAndroidだけではない。来年登場予定のChrome OSについても、Googleが同じように展開すれば、予想以上に多くのChrome OSデバイスが登場するのではないかという期待がふくらむ。

ハードウエアに関心を示しながら、Googleフォンは否定

少し古い話題になるが、10月後半にGoogleのハードウエア参入を報じたThe Streetの記事が話題になった。アナリストのAshok Kumar氏がODM(Original Design Manufacturer)から取材した内容をまとめたもので、Googleがハーウエアメーカーとともにスマートフォンを開発しており、年内にGoogleブランドの製品が通信キャリア経由ではなく、小売店で販売されるとした。

ちょうど同時期にGoogle創設者のSergey Brin氏がWeb 2.0 Summitにおいて、ソフトウエアとハードウエアを切り離して考えられないと述べ、ハードウエア開発への関与に強い関心を示した。またGoogle CEOのEric Schmidt氏もGartner Symposium/ITxpo Orlando 2009での公開インタビューで、ムーアの法則の進捗によって実現する新たなハードウエアが、今後5年のインターネット利用を変えるとコメントした。こうしたGoogle幹部の発言もあって、The Streetのスクープが大きな議論に発展したのだが、ほどなくGoogle関係者がいくつかの米国メディアに対してGoogleフォン登場の可能性を否定して騒動は鎮まった。

新しいハードウエア技術、新しいハードウエアづくりに関心を持ちながら、Googleフォンの提供は否定する。矛盾しているようだが、それがGoogleのやり方なのだろう。MotorolaのAndroid携帯発表会の時にモバイルプラットフォーム・ディレクターのAndy Rubin氏は、Google自身がハードウエアを手がけなくとも、同社の事業モデルの中でハードウエア開発に関与できると述べている。

Googleモバイルプラットフォーム・ディレクターのAndy Rubin氏

現在、米国で発売されているAndroidはすべてGoogleサービスが統合されたバージョンだ。オープンソース版を用いた方が、通信キャリアなどにとっては自由度が高く扱いやすいと思うが、実際にはGoogle色の強いサービスライセンス版が採用されている。契約内容が非公開のため、ここからは推測になるが、理由はおそらく広告収益だろう。Googleは、Googleサービス対応版からの広告利益をパートナーに分配しており、これが通信キャリアやハードウエアメーカーの新たな収入源となっている。今はまだAndroid携帯ユーザーは少ないものの、Googleアカウントを利用しているWebユーザーの可能性は大きな魅力である。一方GoogleはAndroid採用によって、モバイルインターネットを通じたGoogleユーザーの拡大を図れる。またDROIDにおけるGoogle Maps Navigationのサポートのような、ソフトウエアとハードウエアを組み合わせた機能開発にも携われる。

今年7月に、モバイルインターネットにおいて「ソフトウエアだけでなく、ハードウエアもフリーになる」というLinux FoundationのJim Zemlin氏の予測を紹介した。オープンOSとユーザーのアクティビティから収入を上げる仕組みの組み合わせによって、低価格または無料のハードウエアを実現すれば、モバイルインターネットの市場規模は格段に大きくなる。それによりデバイスメーカーやネットワーク事業者、ISVなどが新たなビジネスチャンスをつかめるという考え方だ。GoogleのAndroid戦略は、Zemlin氏が主張するフリーエコノミクスに近い。

Androidの状況は、そのままChrome OSにも当てはめられる。Webブラウザ・ベースのChrome OSの斬新な利用スタイルが消費者の理解を得るには時間がかかるだろう。Acer、ASUSTek、Hewlett-Packard、Lenovoなどがパートナーとなっているものの、実際の製品リリースには懐疑的な声が少なくない。だがChromeベースだからこそ、Android以上に広告との結びつきが強く、従来では不可能だった価格設定や新たな提供方法が広がる。昨今のAndroid携帯のリリースラッシュを考えると、ハードウエアメーカーの新たな収入にもつながるGoogle OSの力は侮れない。