米NBCの人気トークショー「The Tonight Show」に10月9日、USBの発明者の1人として知られるIntelフェローのAjay Bhatt氏が出演した。Tonight Showがどのような番組か知らない方はPCI Expressの話でもしたのかと思うかもしれないが、完全にお笑いインタビューのいじられ役である。


Tonight Showの大口スポンサーであるIntelが、「Intel Rockstar」キャンペーンで取り上げているヒーローエンジニアのインタビューを依頼してきたのがインタビューのきっかけだという。最初部分は、Bhatt氏をモデルにしたIntel Rockstarキャンペーンのビデオだ。Intelのオフィスに入ってきたBhatt氏を、全員が羨望のまなざしで見る。そして最後に「われわれのロックスターは、あなたたちのロックスターとは違うんです」が映し出される。キャンペーンビデオでは役者がBhatt氏を演じている。では「本物のヒーローエンジニアってどんな人?」というのがTonight Showのインタビューなのだが、終始めちゃくちゃである。"共同"発明は騙されたんじゃないかとしつこく突っ込まれ、Bhatt氏がFireWireを称えるコメントをすると行儀が良すぎるとからかわれる。「USBはコンセントみたいにユニバーサルなんだから、みんなのロックスターになってみたいでしょ」みたいな話になって、最後はBhatt氏自身がハリウッドを闊歩する本人版ヒーロービデオでオチとなる。

ここ数年、Microsoftの「Heroes Happen Here」などITヒーロー・キャンペーンが増えている。それらはエンジニアの間でのヒーローであって、一般の人にとってはただの人だ。いくら大口スポンサーからのお願いでも、NBCとしては人気番組Tonight Showのオンエアを盛り上がらない提灯コーナーで潰すわけにはいかない。それでも、こうしてBhatt氏を取り上げたのは、USBならその面白さが一般視聴者にも分かってもらえるという勝算があったからだろう。

Microsoftの「Heroes Happen Here」コミック

Facebook、Twitter利用者が当たり前の番組づくり

ここ最近、ネットブックやiPhone、Facebook、Twitter、YouTubeなど、一昔前なら一般の視聴者には通じなかったであろうテクノロジやネットの流行がテレビ番組で普通に扱われ始めた。

特に意欲的なのは、Tonight Showと同じNBCの深夜トークショー「Late Night with Jimmy Fallon」だ。今年3月に番組がスタートしたときから、視聴者がSNSやマイクロブログを使っているのを前提としたような番組作りを続けている。ちなみに司会のジミー・ファロンは第13回Webby Awardで、Person of the Yearに選ばれた。

たとえば、4月9日放送の冒頭にはさみ込まれた以下のコントビデオだ。


番組の準備がすべてうまく行かず、いらだつスタッフ。そこにスタッフの1人がYouTubeで「Susan Boyle」と検索。Britains Got Talent 2009でのスーザン・ボイルの歌声がオフィスに響くと、いがみ合っていたスタッフの心が次々に洗われていくという展開。

これは、まだ普通の視聴者でも分かるかもしれないが、以下の3月9日の「Twitter: The Bryan Brinkman Experiment」は難しい。


観客からTwitterのフォロワーが7人しかいないBryan Brinkmanさんを選んで、番組でフォローを呼びかけ、それでどうなるか……という実験だ。Twitterの面白さを分かりやすく説明するのが狙いだが、今から半年以上前、ネットサービスに慣れた人たちの間で、ようやくTwitterがメジャーなサービスとして定着し始めた頃である。ちなみに、この時のゲストはDiggのKevin Rose氏だった。

Late Night with Jimmy Fallonはネットユーザー向けではない。一般視聴者を対象としたトークショーだ。ただ0時過ぎに始まる番組なので、Tonight Showよりも低めの年齢層が対象になる。逆に言えば10代から30代前半向けの番組作りは、こんなネットユーザー向けでも通用するのだ。

前々回、オンライン番組サービスのHuluなどで秋シーズンの新番組が積極的に配信されているのを例に、米国における「テレビとネット」の進捗を紹介した。あらためて読み返してみると、テレビ局がオンラインサービスに番組を提供すれば「テレビとネット」が進むようにも読めるので、今回はちょっと捕捉である。

今日のテレビ局がネット配信に積極的になってきたきっかけを考えると、おそらく昨年の大統領選だったと思う。オバマ演説は議論してこそ面白く、そこで多くの視聴者がパソコンや携帯電話を傍らにオバマ演説を見て、その場で意見を発信し始めた。そのうちSNSで演説がストリーミング中継されるようになり、逆にテレビでもCurrent TVなどはオンラインのTwitterの書き込みを演説中継のテレビ画面に流した。

ネットで番組が配信されていなくても、TVを見ながら、ネットブックを持って友だちとつながったり、番組で疑問に思ったことをWeb検索したら、それは立派な「テレビとネット」である。ただ、それだけでも経験してしまうと、単にテレビを見るだけでは物足りなくなる。それをオバマ演説は多くの人に実感させた。こうなるとネットと距離を置いてきたテレビ局も、テレビ番組に視聴者を引きつけるために、ソーシャルメディアとしてのネットの活用を考えざるを得ない。

これからは新聞の番組表やTVガイドではなく、ネットのソーシャル機能が番組コンテンツと視聴者を結びつける。ならば、TVガイド世代の生活スタイルで番組を作っては矛盾する。番組の中で、USBポート、YouTubeやTwitterなどが普通にお笑いのネタになって然るべきなのだ。