先週、米国のネット界隈の話題は「Twitterati」に独占された感がある。飛ぶ鳥を落とす勢いのTwitterだが、同サービスをとりまく環境の急速な変化はリスクもはらんでいる。場合によってはTwitter人気をバブルに追い込む可能性もある。
Twitteratiとは、そのつぶやきが数多くのフォロワーから注目されているTwitterエリートを指す。先週、俳優のアシュトン・カッチャーとCNNブレーキングニュース (CNNbrk)が100万フォロワー一番乗り争いを展開。カッチャーが勝利と引き換えにマラリア対策への寄付を表明したこともあり、一般ニュースでも一部で取り上げられる話題になった。17日には、強い影響力を持つ人気トークショーホストのオプラ・ウインフリーがTwitter参加を発表した。前日にTwitter共同創業者のエヴァン・ウイリアムズ氏が「明日(17日)は、(Twitterにとって)ビッグデーになる」と予告するほどの"サプライズ"だった。トーク番組の司会者がメンバーになるだけで「そんな大げさな……」と思うかもしれない。それだけオプラ人気は絶大なのだ。こちらはあらゆるニュース番組で取り上げられ、女性を中心にオプラでTwitterを初めて知ったという人も多かったと思う。Herebeforeoprah.comという、オプラ参加後にTwitterを使い始めたメンバーを判定するジョークサービスまで登場したほどで、実際に週末だけでフォロワーが30万人を突破する人気ぶりである。
ユーザーの急成長が頻繁に伝えられていても、これまではギークのコミュニケーション・ツールに過ぎなかったTwitter。それが先週の100万フォロワー競争とオプラ参加によって、一般コンシューマを巻き込んだ"Twitter現象"になりそうな様相を呈してきた。その一方でTwitteratiを目指すセレブや有名人の増加を危ぶむTwitterユーザーが多い。100万フォロワーの話題の影に隠れてしまったが、先週ティーンエイジャーが作成したワームが立て続けにTwitterユーザーを直撃するというトラブルも起こった。ユーザーのつながり同様、サービスもゆる〜く進化してきたTwitterはまだ発展途上である。従来のTwitterユーザーの間ではゆるさが柔軟性として尊重されてきたが、一般的には未完成なサービスと思われるだろう。オプラ参加のような形で急にスポットライトが当たると、そんな未完成な部分も露わになる。急速なユーザー規模の拡大に歩調を合わせて対処を急げば、道を踏み外しかねない。
フォローを削除できないTwitterビギナー
従来のTwitterユーザーの間で議論になっているのは、フォロワー数がTwitteratiの影響力を測るものさしになっている点だ。フォロワーが多いほど、つぶやきがより多くの人に読まれることになるし、ユニークなつぶやきとの間に、より多くのフォロワーとの関係が生まれる。確かに、フォロワー数は発言の力を測る目安のひとつである。ただ特定の分野にトピックを限定していれば、貴重なつぶやきであっても、それほど大きなネットワークにはならない。逆に有名人やセレブは、日常生活をつぶやいているだけでも簡単に膨大なフォロワーを集められる。必ずしもフォロワー数と発言の価値はイコールではないのだ。
Twitterへの検索機能導入を検討する際、結果表示に発言者のフォロワー数をベースに結果をソートまたはフィルタリングする仕組みを設けてはどうかという意見が出た。つぶやきの数は膨大なだけに、何かしらの対策は必要だろう。フォロワー数は最も分かりやすい目安である。しかしフォロワー数が重視されるようになると、発言の質の価値が軽視される恐れがあるという反論が出てきて意見が割れた。一個人のつぶやきが数百・数千に届く。個人のつぶやきをメディアに変えるのがTwitterのユニークなところだ。その意味でフォロワー数は大事なのだが、フォロワー数の競争になってしまうと、数十万・数百万を集める一部のTwitteratiとその他大勢という世界になりかねない。それではTwitter本来のゆるいつながりの価値が失われる。そんなジレンマ状態が続いていたところに先週の騒動である。
100万人フォロワー競争でCNNbrkに勝利したカッチャーは"市民の勝利"を宣言したが、フォロワー数争いをするセレブを市民と見なさないTwitterユーザーは多い。実際、"100万フォロワー"という具体的な目標が焦点となるようになってからは完全にゲーム化していた。興味本位でフォローした人も多かったのだろう。100万フォロワー競争が一段落したら、今度はフォローの削除方法が分からずに質問し始めるTwitter初心者が話題になった。
有名人やセレブの参加がTwitterをダメにしているというのではない。Twitterを巧みに利用してファンと結びついている例も多い。アシュトン・カッチャーも、その一人だったように思う。ただ今回の100万人フォロワー騒動をきっかけにTwitterが広く一般にブレークすると、フォロワー数が全てになりかねない。フォロワー数だけを競うセレブが増え、フォロワー数ばかりが注目されるようになれば、Twitterが本来備えているコミュニケーション力が浸透しない。以前にもこのコラムに書いたが、Twitterはシンプルゆえに活用するのが難しいコミュニケーション・ツールである。その本当の魅力を上手く理解してもらわないと、逆につまらないサービスと切り捨てられる可能性は高い。
だからTwitterの盛り上がりに水を差す形になっても、この段階でフォロワー数の表示を止めるべきという意見が支持を集め始めている。
重荷を抱えたTwitterはどこへ……
有名人やセレブだけではなく、より効率的な顧客との結びつきを求めてTwitter進出に乗り出す企業も急増している。本来はゆるいコミュニケーションサービスだったはずなのに、ポストWeb 2.0の旗手のような重い役割を背負わされ、爆発的にユーザー規模が拡大する中、インフラの整備やスケーラブルなビジネスプランの構築を急がないと早晩行き詰まってしまいそうな雰囲気もちらほら。100万人フォロワーやオプラ参加は今のTwitterの勢いを示すものだが、過度な期待は重荷にもなる。
4月前半にGoogleよる買収が噂になった時に、Twitterの共同創業者のビズ・ストーン氏は複数からの様々な提案の存在を認めながらも独立を維持する方針を明らかにした。Twitterの可能性を考えれば賢明な判断だったと言えるが、それからわずか半月でTwitterへの期待はさらに高まった。果たして、急速なペースで積み上がる重荷にTwitterは耐えていけるのか。好調ゆえ逆にTwitter自身の手に負えなくなり、ビジネス提携や買収に追い込まれても不思議ではない。今のTwitterは、そんな綱渡り状態にあるように思える。