Googleが4日(米国時間)に発表した位置情報共有サービス「Latitude」。いきなりプライバシー保護団体から猛反発を受けたこともあり、データ利用とプライシー保護を天秤にかけた新たな議論を呼んでいる。早速試してみたのだが、個人的にはGoogleの狙いが今ひとつはっきりしないぼやけたサービスというのが第一印象だった。議論の的となっている"共有"というところに特にピンとこない。
共有したい人と共有できない
GoogleがLatitudeを提供する狙いとして、色々なところで指摘されているのがモバイルソーシャルネットワークである。SNSで後れをとったGoogleが、位置情報ベースの新たなネットワーク構築を反撃の糸口にするというのだ。たしかにFacebookやMySpaceが位置情報を共有するサービスを提供していないことを考えると可能性として十分だ。
ところがLatitudeを使ってみて、はたと矛盾に気づいた。位置情報を共有したい人、例えば両親などはGoogleアカウントを所有していない。これを機会にGoogleユーザーになってもらってもいいが、ちと面倒だし、これから使いこなすようになるとは考えにくい。もちろん彼らはFacebookやMySpaceのユーザーでもない。そんなケースが多いのだ。
逆にGoogleのコンタクトに入っている人やFacebookのつながりは、仕事関係だったり、普通の友だちだったりする。雑談は共有するが、自分のロケーションを逐一知らせるような間柄ではない。居場所を通知すれば役立ちそうな人も何人かいるが、やはり簡単には踏み切れない。
位置情報の共有はSNSよりも、プライベートな写真のWebアルバムをファミリー設定で共有する感覚に近い。特に大切な人との強いつながりが構築されるが、広がりのあるネットワークにはならない。またFacebookやMySpaceと重なる部分も少ないから、Latitudeをそれらの対抗馬として比較するのは難しい。逆に、このようなネットワークの種類の違いを把握しているからこそ、FacebookやMySpaceがいまだに位置情報の共有に手を出さないように思えてくる。
位置情報プラットフォームの可能性
Yahoo!傘下のFire Eagleのような役割を目指しているという見方もある。Latitudeでは、Googleアカウント保持者がPCやGPS付き携帯電話など様々な方法でアップデートしたロケーションをグループで共有できる。そのソーシャルネットワークに、他のサービスもアクセスできるように開放する。これによりサービス事業者はロケーション機能を自ら開発することなく、簡単・低コストに位置情報をサービスに取り入れられる。ユーザーのメリットはセキュリティや信頼性だ。位置情報というパーソナルなデータを送信するのを不安に思うという声も聞こえてくるが、ローカル検索の設定やSNSのプロフィールなど、すでに我々は少しずつ自分のロケーション情報を漏らしているのが現状だ。これは今後、増えることはあっても減りはしないだろう。それならばサービスごとに情報を提供するよりも、Googleのような信頼できる場所でまとめて管理した方が安全で効率的である。
Latitudeが位置情報プラットフォームへと変わっていくという見方は、Googleのこれまでのやり方に適っている。ただ昨年8月に同社はGeolocation Gears APIを発表しており、Google Maps APIとGoogle Contacts Data APIを組み合わせれば、すでに誰でもLatitudeに相当するサービスを構築できる環境が整っている。それを考えると、LatitudeをFire Eagleの対抗馬にするという可能性も薄れてくる。
一度は試してみたくなる位置情報"共有"
ソーシャルネットワーク構築力は希薄で、プラットフォーム化を見据えたサービスでもないならば、何のためのLatitude提供なのか?
結論から言うと、今のLatitudeは「ロケーション・アップデートの習慣を根付かせるサービス」に思える。
Latitudeを使ってみて最も評価しているのは、シンプルで分かりやすいサービスに仕上がっている点だ。サービスのセットアップが簡単で、PCとモバイル端末の連携も快適。手動または自動で手軽にロケーションをアップデートでき、プライバシー保護も柔軟にコントロールできる。
かれこれ1年以上Fire Eagleを使ってきた経験から言うと、位置情報サービスを根付かせるのに欠かせないのは手軽にロケーションをアップデートできる仕組みだ。初期のFire Eagleは手動で打ち込むしかなかったため、とても使えるものではなかった。それがワンタップでアップデートできるiPhoneアプリの登場でなんとか使えるレベルになった。LatitudeはPC版でも使いやすく、iPhoneもサポートされれば、十分なレベルに達しそうだ。
オンラインサービスが広告収入を最大限化するためには、ユーザー個々にサービスをカスタマイズし、より関連性の高い情報を提供する必要がある。そのためには、いつ、どこで、だれが、何を求めているかを知らなければならない。特にモバイルインターネットにおいては"どこで"が重要になる。結局のところ、世の情報を整理し、それをビジネスにつなげるのを目的とするGoogleはユーザーの"どこで"を知りたいのだ。それを効率的に実現する方法が見あたらないから、ユーザーが居場所をアップデートできるサービスを自分たちで用意した。それがLatitudeだ。Googleにとって重要なのはユーザーがロケーションをアップデートすることで、極端に言えば"共有"しなくても構わない。そんな狙いが伝わってくるから、Latitudeの共有に関する議論にズレを感じるのではないだろうか。
ちなみにFire Eagleでアップデートしている位置情報を共有しているかというと、今アクセスできるのは家内だけだ。最初は面白くて色んな人を招待していたが、実用する段階で残したのは1人だけ。今は誰かに知らせるためではなく、主に自分のためにロケーションをアップデートしている。例えば、居場所によって携帯でのローカル検索を自動的にフィルタリングしたり、ローカルイベント情報の共有サービスやTwitterのロケーション設定変更を自動化したりだ。位置情報の共有は面白い機能なのでデモには最適だが、位置情報サービスを使うほどにどんどん重要度が下がっていく。Latitudeも将来は、ユーザー本人が自分のためにロケーションをアップデートするようなサービスになるのではないだろうか。