IBM PODCASTの最新話のタイトルは「IBMとベースボールの未来」である。「Competing on Analytics」の著者であるTom Davenport氏とIBMのバイスプレジデントBill Pulleyblank氏が、客観的なデータ分析がプロスポーツに与えるイノベーションを考察している。そのままDavenport氏のブログも読み込んでしまったのだが、そちらの方がIBMのポッドキャストよりも面白かった。データ分析をかたくなに拒否するチームもあるが、導入しているチームはとことん活用している。選手の能力やプレイスタイルだけではなく、性格や協調性、知性に至るまでチームとのケミストリーの参考にする。それどころか強いチームは、スタジアムの女性用トイレの行列の長さや待ち時間まで測っているというのだ。快適なトイレが直接的にチームを強くするわけではないが、家族で楽しめるスタジアムにはリピーターが増える。家族ぐるみのファンほど熱心であり、熱狂的なファンを持つチームほどホームゲームに強い。セイバーメトリクスを重視するチームは面白みに欠けるという批判もあるが、今や効率的に勝つためだけではなく、人気を高めるためにもデータは活用されている。

我がアスレチックスのMcAfeeスタジアムは、お世辞にも家族で楽しめるスタジアムとは言い難い。データ重視はチーム編成までで、球団運営には活かされていない模様。なるほどBilly Beane氏がGMでも今ひとつ勝ち上がれないわけである……。

リストの四角を丸く配置

先週、Mozillaのユーザーインタフェース(UI)デザイナーJono DiCarl氏のパイ型コンテキストメニューの提案を紹介したが、その後も議論は広がるばかりだ。

コメントや他のブログでの意見を拾ってみると、パイ・メニューはクリックしやすいという点で大多数が同意しているものの、メニュー項目を視認しにくいという意見が目立つ。フィッツの法則が有効なのは、特定のポイント間の移動であって、ヒトの目の動きまでは加味されていない。直線に比べて円の目の動きは遅く、だからパイよりも一直線のリストの方がすばやくメニュー項目を視認できるというのだ。他にもパイにテキストを配置しにくい、スケールに限界がある、スクリーンの端で使いにくい、パイで下の画面が隠れる、クリックボタンを押し続けながらの操作は手がツラい等々。延々と続くコメントを読んでいると、誰もがうなずける使い勝手の良いUIなんて絶対に作れないように思えてくる。

個人的に試してみたいと思ったのは、Chris JF'sブログで提案されたハイブリッドラジアル・メニューだ。Ubiquityを前提にした提案で、パイの右下4分の1からリストメニューが展開する。頻繁に利用するFirefoxのコマンドをパイ部分に配置し、その他はメニュー項目を確認しやすいリストメニューからアクセスする。コンテキストメニューは通常、右クリックで右下に展開するので違和感なく利用できそうだ。

パイとリストを融合したハイブリッドラジアル・メニュー

論争を巻き起こしたDiCarl氏も、1週間分の意見を反映させた新しいデモを公開した(要Firefox 3)。なんとパイをあっさりとあきらめて、四角いグリッド・メニューである。これなら中にアイコンとテキストを配置しやすく、各メニュー項目を把握しやすい。クリックして呼び出したら後はポインターを動かすだけで展開するようになっており、デモではSearchにポインターを合わせると新しいグリッド・メニューが広がる。画面の端でも、無駄なくスペースを利用できる。数も増やしやすいが、使い勝手を考えると最大8個だという。早速、見た目がよろしくないとか、グリッドだと上下左右に比べて斜めに位置するボックスは遠くてクリックしにくいなど、様々なコメントが寄せられているが、全体的に先週のパイ・パイメニューよりも好評を得ているようだ。

パイの課題をリストのメリットで解決したグリッド・メニュー

伝統価値観にしばられない人たち

DiCarl氏のプロジェクトに惹かれるのは、同氏がデザインしたUIについて単に意見を求めているのではなく、仕組みを丹念に説明した上でテストデモを公開し、ネットを通じて広く一般から使用データや意見を集めながらテストを重ねているからだ。

冒頭の話に戻すと、今でこそ客観的データから統計学的にベースボールを分析するセイバーメトリクスを重視するメジャー球団は少なくないが、その始まりは'77年と古い。Billy James氏という人物が軍隊を退役した後にまとめた趣味だった。メジャーに定着したのは'90年代後半。MoneyballのBelly Beane氏が有名だが、そのメンターとして知られるSandy Alderson氏が先に傾倒していたと言われる。ハーバードロースクールを出て法律事務所で働いていたAlderson氏は、同事務所のパートナーがオークランド・アスレチックスの経営に乗り出したのをきっかけにチームのGMに就任した。野球選手でもコーチでもなかったからこそ、なんのためらいもなくセイバーメトリクスを試せた。

この客観性がDiCarl氏のプロジェクトにも通じるように思えるのだ。UIデザインにユーザーの声は不可欠だが、ここまで大胆に耳を傾けるUIデザイナーはめずらしい。自らUIデザインを客観的に眺めることになるので、UIデザイナーならなかなか実行できないように思える。悪い意味ではなく、まるでUIデザイナーではないようだ。だからこそ、このプロジェクトが効率性を含めて、どのような成果を生み出すか楽しみである。