Starbucksが北米で1日1セッション、2時間までの無料Wi-Fiアクセスサービスを開始した。"無料"の効果は相当なもののようで、サービスイン直後に、同サービスに必要なStarbucks Rewardsプログラムへの登録に申し込み者が殺到し、しばらく同ページにアクセスできなくなった。Starbucksの予測をはるかに上回る需要を生み出しているようだ。

Starbucksでは、これまで米T-Mobleが有料ホットスポット・サービスを提供してきた。利用料金は、1年契約で月額29.99ドル、24時間利用可能なDayPassが9.99ドルだ。カフェで気軽にメールをチェックしたり、コーヒーを飲みながら新聞代わりにWebサイトをながめるためには少々高額だ。一方、新サービスは米AT&Tが提供している。1日1回2時間までは無料、それ以上はAT&TまたはT-Mobileの有料サービスを利用することになる。Starbucksをホットスポット・サービスの主要な提供場所としていたT-Mobileは、Starbucksの無料サービス提供を快く思ってはいないだろう。早速、「Starbucksが無料サービスにT-Mobileの回線や機材を使用している」とT-Mobileが訴訟を起こすなど、新サービスはトラブル続出の船出となっている。ユーザーにとっては落ち着かない状況だが、これもまた、新サービスに対する注目度の高さの表れといえる。

Rewardプログラム対応店に貼られているサイン

Rewardプログラムの登録ページ

無料ホットスポット・サービスが含まれるStarbucksの新しいRewardsサービスは、Starbucksカード・ユーザーへの特典プログラムである。利用するにはStarbucksカードが必要。Starbucks店舗またはWebサイトでStarbucksカードを購入後、RewardsプログラムのWebページでメンバー登録し、ID/パスワードを設定、カード番号を入力して自分のアカウントにカードを追加する。同プログラムでは無料ホットスポット・サービスのほか、飲み物のカスタマイゼーション、コーヒーの無料お代わり、コーヒー豆購入で飲み物無料などの特典が得られる。

Starbucksカードは30日間使用しないと無効になってしまうが、5ドルから購入できるし、何枚でも登録できる。Rewardsサービス対応店でのアクティベートも可能なので、米国旅行中のインターネット接続にも利用可能だ。

ユーザーコミュニティから生まれた人気サービス

これまでのStarbucksのホットスポット・サービスは「T-Mobileが提供するホットスポット・サービス利用場所の1つ」だった。だが、AT&Tとの提携による2時間無料サービスは「Starbucksが提供するサービス」である。提携先をT-MobileからAT&Tに変更してまでStarbucksが欲しかったのは、この自サービスの柔軟性だ。Starbucksは音楽レーベルを持ち、独自の音楽作品をリリースしている。Appleとの提携サービスも提供中だ。Starbucks店内でネットに接続できれば、Starbucksがソーシャルミュージックの場になり、音楽ストアになる。この広がりをさらに強化したいという思惑がある。その実現には、無料の店内でのインターネット接続サービスが不可欠だった。Rewardプログラムの1セッション2時間の無料インターネット接続サービスは、もう1つのStarbucksへの入り口といえる。

とはいえ、これまでStarbucksをサポートしてきたT-Mobileの機嫌を損ねるリスクも大きい。それを上回るメリットを無料ホットスポット提供から得られるという勝算がStarbucksにはあった。利用客からのアイデアや意見を集めるソーシャルネットワークサービス「My Starbucks Idea」だ。そこで無料ドリンクと無料ホットスポットは、常にアイディア投票の上位にランクされてきた。提供すれば、間違いなくユーザーに受け入れられるという見通しがあったのだ。

今年4月にサンフランシスコ市で開催されたWeb 2.0 ExpoにおいてTim O'Reilly氏は、多くの企業がWeb 2.0技術を意見集め程度にしか活用していないと苦言を呈していた。だが、アイディア集め自体がムダだというのではない。Starbucksのような成功例もあるのだ。ただしStarbucksの場合、3月にMy Starbucks Ideaを開始して、6月には無料のドリンクとホットスポットを実現した。この迅速な対応が大きなポイントである。ユーザーと意見を交換する場を設けていても、具体的な行動に移さないと逆効果であるのは言うまでもない。ユーザーと向き合っているポーズだけではダメなのだ。