ニューヨークタイムズ紙の記事をきっかけに「GoCrossCampus」というオンライン戦略ゲームが話題になっている。これはRISKという1950年代に発売された古典的なボードゲームを彷彿させる陣取ゲームだ。2007年1月にイエール大学の学生が学内でテスト版をスタートさせたら、瞬く間に学生の1/4以上に相当する3,300人が参加した。昨年後半にGoCrossCampusというゲーミングプラットフォームとして、正式に始動し始めた。

GoCrossCampusはソーシャルネットワーキングの要素もあるため、運営するGXStudiosはソーシャルオンラインゲームと説明している。人気の秘密は、Second Lifeと同様に、オンラインの世界と現実がうまくリンクしているところだ。Second Lifeの場合、媒介はアバターだが、GoCrossCampusではマップと人間関係がその役割を担う。

イエール大学が舞台の「Yale Alumni Tournament」

例えばイエール大学のAlumniクラブが運営している「Yale Alumni Tournament」は、イエール大学のキャンパスのマップ上でAlmuniクラブ同士が区画を奪い合う。「ウチはまず、この食堂を……」という感じで、実際に自分たちがたまり場にしている場所を陣地にキャンパスを制圧できるから気持ちいい。もっとスケールの大きい、「Florida Championship」というのもある。こちらはフロリダのマップ上で、フロリダ大学やフロリダ州立大学、南フロリダ大学などが領地を取り合っている。大学キャンパスに比べると、マップのなじみ度は薄いが、これらはアメフトやバスケットボールなどスポーツでのライバル関係が強い大学同士なので、その対抗心と愛校心でFlorida Championshipは盛り上がる。

ゲーム自体は非常にシンプルだ。チームごとに軍隊を動かしながら陣地を広げていく。攻撃と守備がぶつかれば、守備が有利になるようにハンデがつけられているため、数のバランスが勝負を分ける要因になる。各プレーヤーには1回の順番に1つの軍隊が与えられ、それを自分のチームの領地に配置する。配置した軍隊には順番ごとに「攻撃」「守備」「移動」の内のいずれからの命令を下す。1日に1回の順番だとしたら、ゲーム自体を操作するのは1日にほんの数分で終わってしまう。だが、それ以外の時間にチームとして、どのように動くかという戦略を練るのが楽しいのだ。各チーム、投票によって司令官を投票で選出する。司令官は、全てのチームメンバーに戦略プランを伝えられる重要な役割を担う。ただやらせてみたらさっぱりだという場合、メンバーの投票で司令官を罷免することも可能だ。さらにユニークなのは、各チームにはスパイが紛れ込んでいるのだ。これが重要な役割を獲得すると、そのチームは一気に崩壊してしまう。

このようにシンプルだけど、チームメンバー選び、組織作り、政治的駆け引き、そして戦略などの要素を上手くこなしたチームが勝利するという奥の深いゲームだ。

ニューヨークタイムズの記事によると、GoogleニューヨークオフィスのプロダクトマネージャーであるJonathan Rochelle氏が、GoCrossCampusをGoogle CalendarやGoogle Docsのようなコラボレーションツールとして発展させることに関心を持っているという。

例えば営業対象地域のマップ上でルールにシナリオを追加すれば、営業チームとそのリーダーの力量を図るシミュレーションが可能になりそうだ。ただ調べてみると、GoCrossCampusは08年春学期に大統領選候補者をフィーチャーしたゲームを用意しているのだが、すでに共和党候補に決まったJohn McCain氏と民主党の有力候補であるBarack Obama氏のチームが敗退、現在Mitt Romney氏とHillary Clinton氏、Ron Paul氏とSteven Colbert氏の2つの陣営に分かれて対立する状態になっている。どうも現実の予備選がGoCrossCampusには反映されていない。もしかするとシミュレーションよりも、実戦的に、例えば実際の営業を攻撃と見なして、他のチームが防御失敗(営業に失敗)したテリトリを攻撃可能にして営業チームを陣取り合戦で競い合わせるというような活用法の方が現実的かもしれない。

オリジナルを主張する2つの学生起業グループ

実は今GoCrossCampusはゲーム自体よりも、ゲームの権利をめぐる揉め事の話題のほうが盛り上がっている。ニューヨークタイムズの記事が出た直後、「Turf」というマップ形式のオンライン戦略ゲームを開発・提供するKirkland Northが自分たちこそオリジナルだと名乗り出た。Turfの開発者であるGabe Smedresman氏は、イエール大学でのテスト版の開発者なのだ。そのユーザーが、GoCrossCampusを立ち上げてしまったという。しかもSmedresman氏はKirklandNorthの創設者でありながらグーグルの社員でもある。となると、GoogleがGoCrossCampusに注目しているという話もあやしくなってくる。これに対してGoCrossCampusは、自分たちのオリジナル開発をきっぱりと主張するという泥沼状態にある。

こんな騒動になるのは、オンライン陣取りゲームの可能性が認められているからだろう。今は学生にしか公開されていないが、ユーザーを熱狂にしているという事実が2つのスタートアップに大きな可能性を見せているのだろう。ユーザーとしては、もっと幅広く、そして手軽にゲームをデザインできるようになってほしいだけに、こうしたごたごたは何とかしてもらいたいところだ。そもそも、どちらもRISKについては発言していないが、いずれにしてもRISKからアイディアを借用しているのは明らか。陣取り形式のソーシャルオンラインゲームというアイディアの上で、誰もが自由にアイディアを展開し、プレーヤーを含めて、誰もが恩恵を受けられる形にしてユーザーの支持を得るようにしないと、RISKの権利を持っているHasbroも黙ってはいないだろう。ユーザフレンドリーに既成事実を作ってしまえば、何でも正当化される訳ではないが、こういう例もあるのだ。