今年は7月にGoogle本社の隣にあるShoreline Amphitheaterで、ポリスとエルビス・コステロのジョイントライブが行われる。個人的には07年にどちらのライブも観ているし、アルバムも全部揃えている。だが正直、意外すぎる組み合わせだ。コステロがスペシャルゲストという扱いだが、前座で演るだけなのか、一緒に演奏する曲もあるのか……今から楽しみである。ベイエリアはジョイントツアーの半ば過ぎなので、それまでにケンカしないことを祈るばかりだ。

Shoreline Amphitheaterは自転車で行ける距離なので、これまでいくつものライブを観てきたが、最も記憶に残っているのは03年のR.E.Mだ。80年代後半に観たときは4人の修行僧がステージに立っているような奇妙な緊張感があったが、03年はカドのとれた成熟したライブだった。しかも全23曲の最後が「It's The End Of The World As We Know It」で大満足。

そのツアーでR.E.MはWebサイトでリクエストを募り、各地域で人気の高い曲をいくつか演奏していた。Shoreline Amphitheaterでのリクエスト曲目は思い出せないのだが、「次はWebサイトでリクエストされた……」という紹介のたびに隣りの夫婦が、「そんなんじゃ、自分たちはリクエストできない」とぶつぶつ言っていたのを今でも憶えている。シリコンバレーといえども、サンフランシスコとその周辺にはヒッピー文化が根付いているので、03年頃はまだ意外なデジタル格差があったのだ。

R.E.Mが米国時間の4月1日に新譜「Accelerate」をリリースする。それで「最近のR.E.Mはどうよ」という話になることもあるのだが、がんばってるねという人と、全然活動している話を聞かないよという人に分かれてしまう。その原因を探ると、どうもネット格差にあるようだ。R.E.Mは元々カレッジチャートで不動の地位を固めたインディバンドだったためか、メジャーで活躍するようになってからも安泰とせず、様々な実験的な試みを繰り返している。03年のWebで集めたリクエストを即ライブに反映するのも、そのひとつだった。今回の新譜では、第一弾シングルの「Supernatural Superserious」のHD映像を公開してリミックス可能にしたり、CD発売前の3月24日からFacebookの人気アプリ「iLike」で新譜のストリーミング配信を開始したりしている。そんなネットでの話題性に比べて、ラジオはというと「Green」や「Automatic for the people」の頃のように大手ラジオネットワークでは頻繁にかからない。むしろレーベルの意向など関係なしにかけるような局の方が好意的だ。だからネットでR.E.Mをフォローしていたら今なお意欲的に映るのだが、今でもラジオが尺度の人にはR.E.Mの存在感はうすいのだ。

今年2月からR.E.Mは第1弾シングル「Supernatural Superserious」の11本のHD映像をオープンソースライセンスでダウンロード配信している

ネット上の音楽を流れるものとして共有

ラジオというと、自分の仕事場では最近のその座をimeemに奪われそうになっている。音楽を中心に写真やビデオも扱うソーシャルサービスである。メンバーが所有している曲をアップロードし、それを他のメンバーがストリーミング再生して楽しめる。共有曲を使ったプレイリストの作成、プレイリストの共有も可能だ。一時は著作権問題に直面したものの、Snocapのデジタル指紋技術を使ってアップロードされた楽曲をデータベースと照合し、使用が認められている曲のみを共有できるようにした。その仕組みを導入してから4大メジャーレーベルとの提携が実現。今や豊富なインディ・カタログとあわせて500万曲を無料ストリーミングできる。オンデマンドに使えるネットラジオのようで、コミュニティ機能と併せて使うと実に楽しい。自宅で音楽を楽しむだけなら、これで十分という人も少なからずいると思う。

NapsterやRhapsodyが月額13ドル程度からであるのを考えると、広告ベースのimeemとメジャーレーベルがよく合意できたものだと思う。imeemは完全にコミュニティをベースとしたサービスであり、楽曲はサービス側が用意したものではなく、ユーザーがアップロードしている。そこには必ずおすすめが付く。メンバー同士の好意的なつながりを伴うから、CD販売やライブなどさらにビジネスが広がりやすいという考えがあったのではないだろうか。その意味で、音楽SNSのimeemは今のラジオ以上に、古き良き時代のラジオのようである。そのように考えると、ターゲットが狭くなっても、R.E.Mがネットのプロモーションに力を入れる気持がわかるような気がする。

そのimeemが3月25日に「imeem Media Platform」という開発者向けプラットフォームを発表した。同社が提供するAPIと開発ツールを利用することで、imeemメディアプレーヤーのカスタマイズ、imeem上のデジタルコンテンツへのアクセス、ソーシャル機能や検索機能の利用が可能になる。今は想像できないようなユニークなアプリが登場するかもしれないが、とりあえず個人的にはimeemの巨大なライブラリとユーザー・コミュニティに比べて貧弱なメディアプレーヤーが改善されそうなのがうれしい。

膨大な音楽ライブラリに比べて、聞かせる技術が貧弱。開発者向けプラットフォームは賢い選択か……

imeemはOpenSocialのサポートを表明しており、同アーキテクチャ対応も計画している。そうなると膨大な音楽ライブラリの合法的な共有がWebの至るところで利用可能になる。imeemに限らず、将来的にネット上で聞かれる音楽は録音製品ではなく、ラジオの音楽のように流れるものとして共有されるようになるのかもしれない。今はその岐路であり、たどり着けるかは、Web開発者のアイディア次第。利用を活性化し、ストリーミング配信のサブスクリプションを上回るほどのビジネスに結び付けられるか……だ。