米国時間の2月18日から米サンフランシスコ市でGeme Developers Conferenceが始まった。本格的なスタートはMicrosoftが基調講演を行う20日からなのだが、ライバルに先制するようにActivsionが「Guitar Hero : Aerosmith」を発表し、大きな話題となっている。
日本国内で「Guitar Hero III」は発売されていないので(3月6日発売予定)、米国でのGuitar Heroの盛り上がりを伝える報道を読んでも今ひとつピンと来ないと思う。そもそも今年1月のCESでBill Gates氏が節目となる基調講演をGuitar Heroで締めたのに違和感を覚えた人も多いのではないだろうか。それがスンナリと受け入れられるぐらい、米国ではGuitar Heroがすさまじい勢いで売れている。
Peaveyのアンプで鳴らす2000ドルのセットも登場
Guitar Heroは、音楽に合わせてギター型コントローラのフレット上のボタンをタイミング良く押していく音ゲーである。lllからはCareer modeという、バンドに加入してテクニックを磨きながら伝説のギタリストを目指すストーリーモードが用意された。演奏操作、ストーリー共にシンプルだが、これだけの人気を得ているのは、音ゲーに現実のギター伝説が上手く交わっているからだ。グラフィックスはお世辞にもリアルとは言い難いものの、独特の絵柄はアメリカにいかにもありそうな小汚いバーやライブハウス、コンサート会場の雰囲気を上手く醸し出している。ゲーム中に登場するギターはGibsonとの提携で実在するモデルが忠実に再現されており、購入する楽器屋もGuitar Centerという実在するショップである。ギターを手にするところから現実のギタリストを追体験できる。Guitar Heroの最大の特徴は往年のヒット曲が収録されている点で、誰もがどこかで耳にしたことのある名曲を演奏できるから盛り上がる。で、チャプターの最後にたどり着くとTom MorelloやSlashなど実在のギタリストが登場し、ギター勝負。そしてアンコール曲に至る高まりが実に気持ちいい。プレイするたびに、ロバート・ジョンソン伝説を下敷きにしながら、なぜか最後はSteve Vai演じるブルース"メタル"ギタリストとのギターバトルなってしまう映画「クロスロード」の盛り上がりを思い出す。
NPD Groupが1月に発表したレポートによると、2005年1月の「Guitar Hero」のリリースから2006年発売の「Guitar Hero II」、2007年7月発売の「Guitar Hero Encore: Rocks the 80s」、同年10月発売の「Guitar Hero III: Legends of Rock」まで、同シリーズの北米における売上げは26カ月で1,400万ユニットに達した。中でもGuitar Hero IIIは北米発売から1週間で140万ユニット、1億ドルの売上げを記録した。
プレイしている本人はギターヒーロー気分だが、その様を端から見ると、プラスチック製の小さなギターを抱えているのがなんとも情けない……。しかし最近では、カラオケナイトを設けていているようなバーにもGuitar Heroが設置されるなど、子供用のゲームにとどまらない社会現象化の兆候が見られ、抱えて様になるギターヒーロー・コントローラも登場し始めている。Guitar Heroを必死にやるぐらいなら、その努力を本物のギターの練習に向ければ……という声もある。実際、GameTankという会社が「Guitar Rising」というGuitar Heroとギター教則を合体させたような製品を開発している。だが、Guitar Heroの目的はギターの習得ではない。楽器を弾けないのにギターヒーロー気分が味わえるのがポイントなのだ。むしろギター好きなのにさっぱり上手くならない人でも、夢のステージに立てるというように評価すべきなのだ。
本物ギターサイズのコントローラ「AG RiffMaster」に、Peaveyの150Wアンプを組み合わせた「ArtGuitarのAGRiffmaster Pro System 」。アンプヘッドにゲームコンソールを収納可能、リバーブやEQ機能を備える。お値段は1999.99ドル |
Guitar Hero練習のために音楽を買う
最近特にGuitar Heroが注目されているのは、ブームの影響がゲーム業界を超え始めているからだ。Guitar Hero IIIにはメイン40曲、Co-opモード6曲、ボーナス25曲が収録されている。さらにXbox Live MarketplaceやPlayStation Storeからダウンロードまたは購入することで、ゲーム本編に収録されていない曲も演奏可能になる。NPDによるとGuitar Hero IIIユーザーのダウンロード数は発売から10週間で500万曲を突破した。Guitar Heroに対抗して昨年11月にMTV GamesとElectronic Artsが「Rock Band」という同様のゲームを投入した。こちらはギターの他にドラムとボーカルも演奏できるのが特徴。この後発のRock Bandですら発売後わずか8週間で250万曲以上のダウンロードを達成したという。
ゲーム用のダウンロードだけではない。例えばGuitar Hero lllのボーナストラックとなっているDragonForceの「Through the Fire and Flames」を収録したアルバム「Inhuman Rampage」が、Guitar Hero III発売の翌週に売上げ126%増を記録するなるなど音楽販売にも影響している。今回Activsionが発表した「Guitar Hero : Aerosmith」はAerosmithのメンバーが登場するバージョンだが、そんな大物とのコラボレーションが実現するようになったのも、Guitar Heroが音楽を売る起爆剤になっているからだ。
バンドゲームだけに売れる曲のカテゴリはハードロック/メタル中心に制限されるものの、音楽業界にとっては予想外の出来事である。MTVN Music Group/Logo/Films部門担当のプレジデントのVan Toffler氏はBillboardの取材に「(音楽プレーヤーに比べるとXbox 360やPS3の)インストレーション数はずっと少ないのだから、8週間で200万曲突破など考えもしなかった。音楽業界は20ドルのCDを購入してもらうのに苦労しているのが現状だが、我々のターゲットは躊躇なく50ドルのゲームを購入している。何度もプレイするために99セントまたは1.99ドルで音楽を購入するのは、我々が考えるほど重荷ではないのかもしれない」と驚いていた。
MultiMedia Intelligenceの調査によると、2007年にIP対応のコンシューマ家電が6,400万台に到達した。これは前年比73%に近い増加だ。ただ、これらの多くはネット対応機能を備えていても非接続状態になっているケースが多い。Multimedia Intelligenceは、音楽、動画、オンラインゲーム、付加価値サービスなど、様々な分野を刺激する可能性を指摘しながらも、「コンテンツ、サービス、デバイス、ビジネスモデルのバランスがとれたエコシステムの成長が不可欠であり、爆発的な市場の拡大は望めないだろう」と指摘した。その言葉どおり、パソコンや携帯電話をからめたケースを除いては、なかなか成果を実感できない状態が続いている。Guitar Heroは初めてその殻を破った。Appleが今年1月のMacworldでMacやPCを介さないApple TV Take 2戦略を発表したが、その方向の正当性もGuitar Heroによって証明された形だ。Guitar Hero効果に驚いたコンテンツ/サービス側がビジネスモデル作りに本格的に乗り出せば、PCを中心としたIPサービスの現状に変化が訪れそうだ。