Macworld Conference & Expoに、テクノロジ分野で消費者保護の活動を行っている非営利団体EFF(Electronic Frontier Foundation)がブースを設けていた。Macworld側がブースのスペースを寄付してくれたのだという。ただMacworldにはiPod向けの開発者やユーザーが集まるため、著作権問題を幅広く扱うEFFが参加しても不思議ではない。実際、同団体のブースには次々に参加者が訪れて、メンバーシップと共にEFFのメッセージが入ったTシャツやステッカーを購入していた。
CDからのリッピングは著作権侵害か?
EFFは1月13日に、Jeffrey Howell氏とPemela Howell氏がファイル共有プログラムを通じて著作権を侵害したとレコード業界から訴えられている裁判ににおいて、法廷助言を提出したことを明らかにした。同裁判でHowell氏は、CDからPCに取り込んだ音楽を個人使用の範囲のみで利用していたと主張。同氏の音楽を他者が取得した証拠を示せないまま、RIAA(Recording Industry Association of America、全米レコード協会)は他者がアクセスできる場に音楽を置いた行為が著作権侵害に相当するとしてHowell氏を提訴した。その訴状の文言に関してワシントンポスト紙の記者などが、RIAAの言い分が認められた場合、CDから音楽をリッピングする行為が違法と見なされる可能性があると指摘したことで騒ぎが拡大。これに対して、RIAAが違法と見なしている行為は"公開"であり、リッピングも含めて考えるのは拡大解釈だという反論が出てきた。普段はRIAAを批判する立場のブログ媒体も、いくつかが今回はRIAA側に肩入れするという奇妙な状況になっている。
EFFはどちらの立場かというと、議論がCDリッピングに集中している現状を危惧している。「CDからのリッピングは合法かという点で注目されているが、それはこのケースの問題ではない。RIAAが著作権侵害でユーザーを提訴できるのかを議論すべきだ」と、ずれた論点を戻すように訴えている。
共有とフェアユースの両立
ネットとの親和性が高いデジタル音楽において、合法的な共有は新たな音楽の利用モデルを生み出すポイントになると目されている。だが、旧態依然としたRIAAの言い分の範囲で実現できる共有というと、MacworldでBelkinが展示していた「RockStar」のようなスタイルになりそうだ。入力ポート×1、入/出力ポート×5を備えた、ヒトデのような形をしたオーディオハブである。最大5つのヘッドフォンを接続可能。また複数のオーディオプレーヤーを接続して、音量の上下で調節しながらグループで曲再生をミックスできる。たしかに"共有"だし、こんな共有ならRIAAも満足だと思うけど、実際に使いたいかと聞かれれば、こんなヘッドフォンのタコ足接続が便利だとは思えない……。
一方で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者がPanoplyを用いてプロトタイプを構築した「SmartParty」というシステムが一部で話題になっている。パーティ用のジュークボックスシステムだ。パーティ参加者が持ち寄ったWi-Fi対応のオーディオプレーヤーから、それぞれ好みの音楽のプレイリストを中央のPCに送信し、それらをPCが集計した上でグループ全体の好みのバランスがとれた音楽を再生する。パーティに集まった人全員を盛り上げられる音楽がかかるというわけだ。こんな共有なら実際に使ってみたいと思うが、集計/再生用のPCに音楽ファイルが転送されるため、再生後にPCからきれいにファイルが削除される仕組みを設けないとライセンス侵害になる。またファイルが"公開"される状況にならないようにセキュアな送信も不可欠だ。加えて今日のデジタル音楽ユーザーの利用スタイルを考えると、ネットから購入した音楽への対応も求められる。
長い目で考えればSmartPartyのような共有の方が、ユーザー、デバイスメーカー、そしてレコード産業にとってもメリットがあると思う。しかし現在のRIAAの著作権保護のスタンスで実現するとは考えにくく、その点で、メディアを公正利用するユーザーの権利の確保を支援するEFFのような団体の存在が重要になる。EFFの活動に関しては、消費者に寄り過ぎで、アーティストの不利益につながるとも指摘されている。ただデジタル音楽のエンドユーザーにとっては、間違いなく心強い味方だ。同団体のメンバーシップをiPodアクセサリに含められるのなら、それが今回のMacworld会場で入手できた最も効果的なiPod強化への投資に思えた。EFFというと、夏のハッカーの祭典DEFCONに、ここ数年参加しているが、DEFCONは特殊なイベントである。Macworldのように、EFFが開発者やエンドユーザーと直接交流できる場を提供するイベントがもっと増えてくれたらと思う。