今月の13日頃から米国で店頭に並び始めたMicrosoftのメディアプレーヤー「Zune」の新版を使い始めた。新プレーヤーではディスプレイ部分にガラスが用いられ、"Zune Pad"という指をすべらせるだけでスクロールできる新しい操作機構が採用されている。だが新版と呼べるのは、むしろハードウエアよりもソフトウエアやサービスである。

とことんメディアプレーヤーなZune 2

iPodキラーとして注目され、iPodとの比較で評価されがちなZuneだが、多機能で複雑になるiPod / iTunesとは逆の方向に進んでいる。iPod同様に、メディアプレーヤー(Zune)、PCアプリケーション(Zune Software)、サービス(Zune Marketplace、Zune Social)をセットで提供しているものの、Zuneは機能を絞り込んで、とことん"シンプル"を追求している。例えば、Microsoftが開発し直したと言われるZuneバージョン2のユーザインタフェースは、5つ星のレーティングやフラッグなど操作を複雑にする機能が省かれ、メニューに視認しやすい大きなフォントが採用されている。新旧バージョンを並べたら、スカスカな印象を受けるバージョン2の方を旧版だと思う人も出てきそうだ。カレンダー、アドレス帳、ゲーム、時計のようなメディア再生に関係のない機能の追加は一切なし。だが、メディアプレーヤーとしての機能は着実に強化されており、ポッドキャスト機能、Wi-Fi経由での無線同期が追加されたほか、これまで「3日以内、再生3回」だったWi-Fi経由の音楽共有機能が「再生3回」に緩和された。

巨大なフォントで項目が並ぶZune v2.2のホーム画面

すっきりとしたZune Maketplaceのホーム画面。楽曲やアーティスト探しには検索機能が活躍

Zune SoftwareもZune Marketplaceを含めてシンプルになった。「コレクション」「デバイス」「Marketplace」「Social」の4つを軸に、それぞれのホーム画面に必要な機能が効率的にまとめられている。見た目はリモコンでも操作できそうなぐらい簡素だが、音楽やビデオ、ポッドキャストを楽しむ上で必要な機能はすべて揃っている。1つの画面を眺めるだけで、迷うことなく必要な機能にアクセスできる。ビデオポッドキャストをテレビのように楽しめたり、コレクションとMarketplaceが違和感なく融合されていたりするなど、全体的に"家電的"な分かりやすさが貫かれているのが魅力だ。

いまだに見えてこないZuneのソーシャルな一面

Zuneの問題は、iPodとの違いが伝わっていないことだろう。仕様を見ただけでは、Wi-Fi同期を除いて同じように見えてしまう。だが、ソフトウエアとサービスが大幅に改善された今バージョンの使用感は随分と異なるのだ。どっちを買っても同じ(だからシェアに勝るiPodを買う)ではなく、どちらが自分の利用スタイルにフィットするかを試してみる価値が十分にある。思うに、Zuneらしさが見えてきた今回のZuneこそバージョン1となるべきであり、「もし、これが1年前に発売されていたらな……」と思ってしまう。

重ねて残念なのは、本来バージョン2で見えてくるべきZune Socialの可能性が伝わってこない点だ。Zune Socialでは、ユーザー同士が聞いている曲のリストを公開し合い、メッセージを交換しながらサンプルを聞くなど、Zuneユーザー同士の輪が新たな音楽の発見につながる。ユニークな機能に思えるのだが、いかんせん周りにZuneユーザーがいない現状では"思える"にとどまってしまう。どうもZuneはソーシャライズが上手く茂らない悪循環にはまり込んでいるようだ。MicrosoftはXbox LiveとZune Passを統合したプレミアサービスの提供を計画しているようだが、現状でXboxユーザーがZuneの起爆剤になるかは疑問が残る。

少々強引な例だが、"ソーシャライズ"を上手く利用している分野として、米国におけるお茶うけクッキーやパーティクラッカーが挙げられる。例えばNabiscoは、そのものずばり「Sociables」という名前でクラッカーを販売している。最近では、Campbell Soup Company傘下でクッキーを製造・販売するPepperidge Farmが「Connecting through cookies」(クッキーを通じた"輪")というマーケティング・キャンペーンを開始した。artofthecookie.comという女性向けのWebサイトを通じて、友人の輪を広げるための情報を提供している。今後はソーシャルメディア的な展開も考えているようだ。クッキーそのものの味で勝負するのではなく、人と人とを結びつけるアイテムという役割を定着させることで、製品販売の安定化を狙う。変わっているが、クッキー/クラッカーでは成功している手法であり、Pepperidge Farmはソーシャルな潮流が強まるネットの世界でこそ、このマーケティングを効率的に展開できると考えた。お茶うけ業界も中々がんばっている。

Social機能を備えたZuneは、お茶うけクッキーのようなもので、うまくユーザーのライフスタイルにとけ込んだ時に独特な役割を演じる。ただクッキー自体は特別なものではないのだ。それなのに、特に特徴のないメディアプレーヤー機能ばかりが注目されているのがZuneの現状である。Zuneをライフスタイルとして定着させるのが次のステップであり、それを実現する一手こそ、これまで多くの人がZuneに期待してきたサプライズになるのではないかと考えている。