友人の母親がWebブラウザで上下のスクロールバーを下げた時に画面が下から上に流れるのはおかしいんじゃないかと言っていたそうだ。スクロールバーを下げたら画面も下に流れるべきだという。PCに初めて触れる人は面白いことに気づくなぁと思っていたら、自分の叔母にも同じことを言われてしまった。その叔母が不思議なことにGoogleのWebアプリケーションを使いこなしている。データをなくす心配がないし、何よりもソフトのインストールに伴うトラブルを避けられる。それらのリスクに比べたら、Webブラウザの起動など面倒ではないという。無駄なものはいらないからWebブラウザだけ入っているPCが欲しい……と真顔で言われた時は、もしかしたら自分の方が遅れてるんじゃないかと、しばし考え込んでしまった。
Googleが主役のgPC
10月末にWal-Martが発売開始した「Everex Green gPC TC2502」は、gOSというGoogleのWebアプリケーションを利用するためのOSを搭載している。同OSはCreative Commons Attribution-Noncommercial-Share Alike 3.0 Unportedでライセンスされているので、早速入手して試してみた。
gOSはUbuntu 7.10とEnlightment 17をベースとしているが、他のEnlightmentを利用できるディストリビューションに比べると、ユーザーインタフェースが非常にシンプルだ。デスクトップの底辺にドックバーが配されていて、主要なアプリケーションにワンクリックでアクセスできるのだが、その中身はローカルアプリケーションよりもWebアプリケーションやオンラインサービスの方が多い。左から「Firefox」「Gmail」「Meebo」「Google News」「Google Calendar」「Google Maps」「Google Docs」「Google Product Search」「Facebook」「YouTube」「Wikipedia」「Blogger」「Skype」「Xine Movie Player」「Rhythmbox Music Player」と並ぶ。マウス右クリックからでもGoogleアプリを直接選択できる。デスクトップ画面右上には、巨大な検索ボックスがあり、検索するとWebRunnerというMozillaの簡易ブラウザが起動して、すぐに結果を確認できる。
Googleの各種サービスにアクセスしやすくするだけなら、「Googleデスクトップ」や「Googleツールバー」を使えばできるじゃないかという声もあると思う。だが、それらを導入してもOSに完全にとけ込んでいないというか、追加という感じを否めない。gOSの場合、葉っぱのアイコンからプログラムリストを辿れば、「OpenOffice.org」や「GIMP」などを利用できるし、ソフトウェアを追加することも可能だ。普通のPCとして利用できる。だが、そんなことをする方が不自然に感じられる。主役はGoogleなのだ。
じゃあ、gOSを搭載したPCを使うのか……と聞かれると、正直なところ自分は使わないだろう。現段階でgPCを好んで購入する層というのも想像し難く、200ドルとはいえ、大胆にWebアプリ寄りのgOSを搭載したgPCがどれほど売れるのかは疑問が残るところだ。gOSをGoogle OSと考えてgPCに接したら、この程度か……と失望する人の方が多そうだ。ただ"Google OS"という意味で評価するのなら、gOSの中身を見てはいけない。gOSが実在していることがGoogle効果なのだ。
Webサービスの変化を受け止めるハードウエア
gOSの開発プロジェクトのコアメンバーは、Enlightmentコミュニティメンバーを中心とした8人である。たったこれだけで従来のLinuxデスクトップよりも、初心者にとって使いやすい無料OSを実現できたのは、gOSがGoogleというプラットフォームの上に成り立っているからだ。
11月5日(米国時間)にGoogleは33社のパートナー企業と共にモバイルデバイス向けのソフトウエアプラットフォーム「Android」を発表した。ここ数カ月の間、Gphone登場か……という期待が高まっていたが、フタを開けたら開発基盤である。特定のGphoneという製品が存在しないことにがっかりした人もいるかもしれない。だが開発者のアイディアを実現に近づけるのがAndroidの狙いであり、その意味では大手メディアから個人ブログに至るまで、様々なところで想像されたGphoneは全てがGphoneになり得ると言える。
Googleというのは、スタートから現在に至るまでプラットフォーム企業であることを徹底している。その上で何をやるかは開発者のアイディア次第。自分はgPCを使わないと書いたが、ありきたりのタワー型ではなく、OLPCの低価格PCのようにユーザーの利用スタイルをしっかりと見据えて開発されたハードウエアと組み合わせられたら食指が動きそうだ。それも不可能ではない。Googleのプラットフォームを中心にWebサービスにおける2.0ブームが巻きおこり、そこからソフトのあり方が変わった。同様の変化がハードウエアにも及ぼうとしている。