米国時間の10月3日からカリフォルニア大学バークレー校 (UCバークレー)が「YouTube」に専用チャンネルを設けて、300時間以上におよぶ講義を公開している。同校はこれまでにも「Google Video」やポッドキャストで講義を公開していたが、今回はGoogle創設者の1人Sergey Brin氏による「Search、Google、and Life」(約40分)が含まれるなど内容・量ともに充実しており、「オンライン講義の幕開け」というような報道も見かける。ちなみにYouTubeで1コースを完全なスタイルで公開するのは同校が初めてだという。

オンライン公開で現役学生の欠席が増加!?

個人的にUCバークレーは夏のコンサート会場であり、それ以外ではここ数年訪れていないのだが、常々一度講義を受けてみたいなと思っていた。同じベイエリアにある大学でもスタンフォードのどこか崇高な雰囲気よりも、UCバークレーの自由で少し庶民的な感じの方がしっくりくる。そのためUCバークレーのオンライン講義公開に興味をひかれて、Brin氏の講義を皮切りに、方々で話題になっているRichard A. Muller教授の「Physics 10: Physics for Future Presidents」や「PACS 164: Introduction to Nonviolence」などをのぞいてみた。どうせなら1コースをコンプしようなどと意気込んでいたのだが、結果は3本目にも届かず……。パソコンの前で、1時間以上の講義をじっと聞いているのはけっこうツラいのだ。講義は、クラスの内容および課題や試験の説明から生徒の質問まで全てが収録されており、米国の大学に留学を計画している人には大いに参考になると思う。だが、オンライン講義として聞くとクラスでのやり取りに入り込めない分、説明以外の部分が冗長に思えてしまう。特に米国の講義は、説明中でも学生が疑問をどんどんぶつけながら進められるので、そのインタラクティブな部分に参加できないと講義を受けている感じがしない。進むほどに、参加できない不満が募る。

公開されている講義の教材・資料としての価値は高く、Introduction to Nonviolenceなどは時間があれば、じっくりと視聴してみたい内容だった。ただ、あくまでも時間があれば……である。「こんなのにアクセスできるのなら、老後の楽しみは尽きない」という感じなのだ。それでは「より大きなコミュニティに教育コンテンツを」というUCバークレーの狙いとは若干のズレがあるように思える。

講義は1コースすべてを一挙に公開しているため、少し前の2006年の春または秋を中心に2007年春のクラスも含まれている。現在進行形のクラスを毎週少しずつ公開するようにしたら少しは講義に参加している気分になるかな……とも思ったのだが、やり取りの欠如という意味ではそれほど効果がないかもしれない。新しい講義には最新の話題が盛り込まれるが、Introduction to Nonviolenceは1990年代の頃とほとんど変わっていないという話である。

UCバークレーには約20の教室に記録システムが備えられており、各セメスターに最大で50前後のクラスを記録してきた。今後は計画的に収録するクラスを選別するようだが、これまでは該当する教室が割り当てられた教授や講師に記録への協力を打診する形で実施していたそうだ。全ての教授が快くOKを出すわけではない。クラスのオンライン公開は、欠席者の増加につながりかねないため、否定的な教授も多い。そのような中で海外からの留学生、特に途上国からの学生を多く抱える教授や講師を中心に、オンライン公開に対する理解の輪が広がったそうだ。

公開されたクラスでは欠席者対策として、講義の間の質問が評価の対象になったり、抜き打ちの小テストが頻繁に行われたりするケースもある。気を緩められないという点では学生にとって厳しいクラスになると言える。裏返せば生徒とのコミュニケーションを重視した講義になるため、やる気のある学生にとっては受講してより面白いクラスと言える。故に、その講義をネットで見ている人の疎外感がさらに強まるという悪循環なのだが、単位を提供するようなオンライン講義ではないのだから教室優先なのは仕方がない。

公開された講義をネタに

YouTubeで公開されている講義をただ見るだけでは"学ぶ"楽しみを実感しにくいが、公開された講義がどんどん貯まっていけば、資料のような講義を使った面白いサービス、新しいオンライン教育が実現するのではないかと期待している。たとえばOPMLで提供されている複数のフィードを整理して表示するサービス「Grazr」を使って、オンラインUCバークレーの講義を検索するウイジェットが公開されている。検索ボックスに「google」と入力するとBrin氏の講義が現れる。「peace」と入れれば、PACS 164の06年秋と07年春の講義がリストされる。約200ぐらいの講義だけでも、すでに何が公開されているやら分からない状態なので、Grazrの検索ウイジェットのような簡単なものでもきっちりと整理されるだけで、公開されている講義の価値が随分と向上するように思える。

例えば、続々と公開される講義を使ってパブリックの学生が共同で学べるようなソーシャルネットワークがあると面白そうだ。UCバークレーの講義であっても、UCバークレーのクラスではない。そんな奇妙な学びの場ができるのではないか……などと考えている。