Black Hat Briefingsで、エストニアのサイバー戦争に関する講演の後、プレスルームでインターネットの価値が話題になった。エストニアでは政府やビジネスだけではなく、国民の生活にインターネットが根付いており、ライフラインとして欠かせない存在となっているという。サイバー攻撃でインターネットを利用できなくなると、水や電気を止められた以上のダメージを受けるそうだ。講演の内容についてはBlack Hat Briefingsのレポートで後日詳細をお届けするが、プレスルームでは「じゃあ、米国民にとってネットはどのぐらい重要か?」という話になった。

ひっそりと大規模サービスダウン

Black Hat USAが始まる直前、7月24日の午後1時50分から3時頃にサンフランシスコ市のダウンタウンを中心に停電が起こった。その際に365 MainというWebホスティング企業がバックアップの発電機への切り換えに失敗し、Craigslist、Technorati、Yelp、TypePad、LiveJournal、Voxなどのオンラインサービスを利用できなくなった。停電は1時間程度だったが、Craigslistの場合、完全復旧までに11時間を要した。

365 Mainはバックアップにバッテリー・ベースのシステムではなく、ディーゼル発電システムを採用している。装備されている発電機10台のうち8台で、すべてのシステムを稼働させるのに十分な電力を得られるが、停電時に3台がスタートせず、一部サービス停止となってしまった。原因は発電システムのメモリーが適切にリセットされないバグだったという。

停電はサンフランシスコのみだったが、365 Mainがダウンしたため、米国を中心に世界中でCraigslistほかのサービスを利用できなくなってしまった。Webサービスの信頼性という点で大きな課題を残した。ところが365 Mainのトラブルは一部で報じられたものの、報道の規模は一般的な停電と同じ。米国内での扱いが小さかったから、それらを情報源にする日本のニュースでもほとんど取り上げられなかった。同じことが日本で起これば、むしろオンラインサービスが止まったことで大騒ぎになったのではないだろうか。

365 Mainのダウンは、米国人の生活におけるネットの重要性を推し量れるようなケースではない。ブログを更新できなかったOpen Source ConventionやComic-Con参加者が困っていたが、深刻な被害の報告はなかった。それでも人気の大手サイトが長時間ダウンしたのだ。プレスルームでは、一般的な騒動に発展しなかったのが意外であり、むしろ騒ぎが小さすぎたのが問題だったのではないかという話になった。

ひっそりとP2Pネットワークで機密情報漏えい

同じ日、米下院の小委員会でP2Pネットワークにおける機密文書漏えいに関する公聴会が開かれていた。ダートマスカレッジのEric Johnson氏がテレコミュータやコントラクタのPCにP2Pソフトがインストールされているケースを取り上げ、「政府や企業のIT管理者が考えている以上に悲惨な状況だ」と指摘した。さらに元陸軍ジェネラルで現在Tiversa取締役を務めるWesley Clark氏が「数時間もあればファイル共有ネットワークから200を超える政府関連の機密文書にアクセスできる」と断言。例としてペンタゴンのネットワークインフラのダイアグラム、米国の主要都市のテロ対策評価、国防総省のセキュリティシステム情報などを挙げた。さらに「職員などの不注意で、P2Pネットワークを通じて機密文書が漏えいしている実態に国民が気づけば激怒するだろう」と述べたのだ。

日本国内では、P2Pネットワークを通じた機密情報の漏えいに敏感であり、機密性の高い情報や大規模な漏えいが明らかになればきちんと報道されている。それに対して米国の現状は「国民が気づけば~」なのだ。気づかないようにしているのか、それとも知ろうとしないのか。いずれにせよ、そんな言葉が出てくる現状の方が深刻な問題に思えた。

米国ではブロードバンド接続サービスの普及ペースが遅く、既存のサービスもブロードバンドと呼ぶには遅いサービスばかり。そのハンデの克服が効率的なオンラインサービスの実現につながった例もある。だが、長い目で見れば遅いネット接続環境はデメリットでしかない。このような立ち後れを許している原因の1つにも、一般的なネットに対する米国消費者の問題意識の低さが挙げられるだろう。エストニアのケースとは逆に、米国内ではネットが必ずしも必要とはされていないところに根深い問題がある。