今年春から試用し続けているJoostに続いて、1カ月ほど前からVeohTVのベータプログラムに参加している。この2つは似ている点も多いが、ポストYouTubeの考え方は全く異なる。

Joostは創設者が過去にKazaaを手がけた経験から、徹底して著作権侵害を防ぐサービスとなっており、ライセンスを受けたコンテンツだけをストリーミングで配信する。P2P型の技術を用いてインターネット経由でビデオコンテンツを提供しているものの、そのスタイルは米国のネットワークテレビ局と変わらない。そのためフル画面でキレイな映像が再生されているのを見ると斬新だと思うが、視聴スタイルはYouTube登場前に戻ったような気分になる。一方VeohTVは、自身を「ネットTVのTiVo」とアピールしている。TiVoは米国におけるHDD録画機の草分けで、タイムシフトや手軽な録画予約で視聴者を番組スケジュールから開放した。テレビの視聴スタイルを一変させた存在である。自らを"TiVo"で形容しているだけあって、VeohTVは革新的な考えに基づいたサービスとなっている。

オンライン・ビデオを録画して見る

VeohTVはオンラインビデオを検索し、視聴するためのソフトウエアとサービスだ。同サービスを運営するVeoh Networksは、VeohというYouTubeに似たビデオ共有サービスも提供している。だがVeohTVはVeohで公開されているビデオだけでなく、Web上で無料公開されている全てのビデオを検索および視聴の対象にしようとしている。この点でライセンスを受けたコンテンツのみを扱うJoostとは大きく異なる。例えばベータ版のVeohTVでキーワード検索をすると、Yahoo!、Google、Veohでの検索結果が返ってきて、リストされたビデオをVeohTV一カ所で再生できる。

これはオンラインビデオの分散化を見越した戦略だ。現在、ビデオをネット上に公開する場としてはYouTubeの人気が圧倒的だが、MySpaceが買収したPhotobucket、高画質なStage6、賞金を用意しているFlixyaやMetacafeなど、特徴的なサービスが増加している。急激な変化は起きないだろうが、長期的にはユーザーが複数のサービスから目的に適したサービスを選択してビデオを投稿するようになると考えている。配信プラットフォームも多様化するだろう。例えば、今はYouTubeと提携しているNBC Universalは、News Corp.と共に独自のビデオ配信プラットフォーム構築を進めている。このようにビデオがネット全体に分散するようになれば、それらを一カ所でナビゲートし、再生できるネットTV専用アプリケーションが求められるようになる……という考えから作られたのがVeohTVだ。

ストリーミングで配信されるケースが多いオンラインビデオを録画(ダウンロード)する機能も備えている。ユーザーはビデオを検索し、気になったビデオはどんどん録画ボタンを押しておけば、自動的に録画され、いつでも好きな時に再生できる。ローカルに保存されているので、先送りや巻き戻しをストレスなく行える。チャンネルや連続モノをサブスクライブすることも可能だ。著作権侵害の指摘もあるが、著作権保有者がストリーミングのみに指定しているビデオは録画できない。ただYouTubeなどで公開されている著作権を侵害したビデオが再生できるのは事実。同様の問題はiPhoneのYouTube機能でも議論になっているところだ。

VeohTVで「iPhone」を検索。Yahoo!、Google、Veohでの結果がタブで分けられてリストされ、再生アイコンをクリックするとフル画面で再生が始まる

ダウンロード・アイコンをクリックするとバックグラウンドでダウンロードが始まり、ライブラリに追加される

必要なのは本物のビデオ検索

さてVeohTVを1カ月近く利用してみて、「ネットTVのTiVoというにはインパクトが弱い」というのが率直な感想。ベータであることを考慮しても、オンラインビデオのキラーアプリとなるには力不足という印象だ。

ただ「オンライン・ビデオの分散化への対応」という方向性は間違っていないように思える。ネットでのビデオの分散化というと個人的には、AppleがiPhone発売直前に立て続けに公開した機能解説ビデオが記憶に新しい。的確に要点を押さえていて、簡潔で分かりやすかった。また"百聞は一見にしかず"で、公開後のインパクトもすごかった。あんなビデオをタイミングよくネットで公開されたら、記事を生業にしている仕事は成り立たない。とりあえず今回は英語だったので助かったが、それも情けない話である。

企業のプロモーション1つでも、オンラインビデオは今よりもずっと有効に活用されるようになるだろう。AppleのビデオはiPhoneで見ると非常にリッチに動作し、そのまま操作マニュアルになってしまう。配信方法を含めて自身でコントロールする効果を証明している。

VeohTVに対する不満は、膨大な量のビデオを効率よく的確に絞り込めない点に尽きる。今ひとつピントがはずれた結果のリストが続くと、逆に膨大な量のビデオが使う気を萎えさせる。

原因をたどれば、今のビデオ検索は文書検索の延長であり、ビデオが持つ膨大な情報が反映されていない点に行き着くだろう。もちろんオーディオやビジュアルの内容が検索に反映されるまでには、まだまだ時間がかかるだろうが、VeohTVが狙うキラーアプリでは、そこが要になるのではないだろうか。TiVoではタイムシフト再生/録画が絶賛されたが、100超のチャンネルから自分好みの番組を手軽に探し出せる仕組みが同時に提供されたからこそインパクトにつながったのだ。