100ドルPCとして話題になったOne Laptop per Child(OLPC)の「XO-1」に触る機会があった。パーツの最終仕様が固まる直前のモデルで、CPUはAMD Geode GX-500 (366MHz、16KB L1)だった。メモリーは256MB、Flashメモリーを用いた1GBのストレージを装備。802.11b/g対応の無線LAN機能を備え、7.5インチのディスプレイはモノ(1200×900)とカラー(692×520)の切り替えが可能だ。

100ドルPCと呼ばれていたので、ぺこぺこなハードウエアを想像していたのだが、細部に至るまでしっかりとした作りになっていた。大ぶりな本体デザインは衝撃吸収力があり、多少手荒く扱っても壊れなさそうな安心感がある。キーボードはラバーでカバーされ、組み立てもきっちりとしているので、ほこりやよごれにも強そうだ。このサンプルのクオリティが量産品でも維持されれば、発展途上国の過酷な利用環境でも十分に通用すると思う。欠点を挙げれば、剛性重視でデザインされているため、NiMHバッテリを装着した状態の本体はずっしりと重い。持ち運び用のハンドルがついているのもうなずける。

X0-1

アイコンを多用したグラフィカルなインタフェースで直感的な操作が可能

OLPCを率いるNicholas Negroponte氏のコメントから、現時点でXO-1は175ドル程度になると報じられている。現実的な価格よりも先に100ドルという目標が話題になっただけに、期待はずれという声も聞こえてくる。これは残念なことで、100ドルという先入観を捨ててXO-1に接すれば、175ドルでも十分に健闘していると評価されたのではないだろうか。もし米国市場でXO-1が販売されるとしたら、おそらく倍以上の値札が付けられるだろう。

そもそもXO-1がノートPCと比較されていることも誤解の1つと言える。XO-1はノートPCよりも、ネットアプライアンスまたはゲーム機に近い。例えばユーザーインタフェースは、子供たちがクラスやグループで学ぶ感覚になるようにデザインされている。子供たちはアイコンを見ながら、自分の状態、周囲の人や同じネットワークに接続している人との関係などを一目で確認できる。使ってみて、真っ先に思い出したのはWiiチャンネルだった。

OLPCのS.J. Klein氏によると、OLPCが手がけているのはラーニング・プラットフォームであり、XO-1は、その一部に過ぎない。むしろ、今後ラーニング用の良質なソフトウエアやサービスをそろえる過程の方が重要だという。OLPCでは最初の18カ月に1,000万台、3年目には5,000万台、そして5年目には1億5,000万台の出荷を目標としている。このような大量出荷は100ドルという目標価格実現のために必要なだけでなく、開発者の参入を促す上でもカギになるという。このアプローチも、ゲーム業界に通じるものがある。

Klein氏は、XO-1向けソフトウエアについて「ガラスのLEGOであるべき」と訴えていた。透明なLEGOブロックならば、どのようなブロックの組み合わせで作品ができているかを確認できるし、動く作品ならば、その仕組みをのぞき見られる。つまりモジュール式で軽く、そしてソースに触れられるソフトを求めている。

同氏によると、発展途上国では教師の数が足りないため、子供たちが自らの体験を通じて多くを学び取れる環境が必要になる。学校の教科書のような教材では、先生のサポートなしでは子供たちが興味を持たないし、理解も深まらない。そこで協働しながら学ぶピアラーニングを取り入れるのがポイントになる。たとえば教育とゲームを組み合わせたシリアスゲームだ。すでにVadim Gerasimov氏がTetris、 Don Hopkins氏、Chuck Norman氏、そしてWill Wright氏が「SimCity」をXO-1向けに開発しているそうだ。これらのゲームでも、子供たち自身がコンテンツを作成する仕組みが盛り込まれるという。ほかにも、モノ作りのテクニックをコミュニティで共有するInstructablesのように、ユーザー同士のアイディア交換が研究につながるようなサービスの登場も望まれている。

OLPCの取り組みに対しては、これまでデジタル教科書提供プロジェクトのようなイメージを持っていた。100ドルPCを実現できるか……というところには興味を惹かれても、その中身はつまらなそうだと思っていた。ところが、Klein氏の話を聞くと、なんだかとても楽しそうだ。教科書よりも、ニンテンドーDS用のラーニングソフトに近いではないか。

「発展途上国向けだからこそ、楽しい体験を提供できなければ成功しない」──OLPCの訴えに開発者が呼応すれば、巡り巡って私たちの周りのラーニングツールももっと楽しくなるかもしれない。"100ドル"以上のインパクトが、この言葉には込められている。