AppleのSteve Jobs氏はDRMフリーの音楽を配信するメリットとして、より革新的なサービスやデバイスの登場を挙げていた。iPodとiTunes Storeの組み合わせ以外の可能性も含まれるから、DRMフリーはAppleにとってマイナスになり得る。ただ、ユーザーが本当の意味で音楽を所有できるようになれば、オンライン音楽配信を選択する人が増える。市場全体が拡大すれば、結果的にAppleの音楽事業の売上げは伸びるかもしれない。DRMフリーは、サブスクリプション形式サービスの台頭やAppleの音楽事業の閉鎖性批判への対応とも受け取れるが、ここは素直にユーザーの声に耳を傾けた一手と歓迎したい。

おかげでデジタル音楽がユーザーにとって望ましい方向に進み始めた……と思ったら、1つ気になる話題が──使用ライセンス料の増加で小規模なインターネットラジオ局が根こそぎ消えてしまう可能性があるというのだ。

今年3月2日に連邦政府のCopyright Royalty Board(CRB)がインターネットラジオ局に対して新しいライセンス料金を設定した。これまでの課金は売上げの6~12%程度だったが、新料金はチャンネルごとに500ドル、さらに1リスナーごとに1曲あたり0.0008ドルが課される。1時間の放送で計算すると、1リスナーあたり1.28セント程度のコストとなる。インターネットラジオ局の広告収入予測である1時間あたり1.1~1.2セント/リスナーを上回ってしまうのだ。しかも使用料率は段階的に引き上げられ、2010年には1曲 = 0.0019ドル/リスナーになる。詳しくはLive365が専用ページを用意しているので、そちらを参照してほしい。

例えばサンフランシスコのガレージ・ネットラジオ局SomaFMの場合、2006年に20万ドルの売上に対して2万2,000ドルを使用ライセンスとして支払った。これを新料金で計算すると支払額が60万ドルになってしまうそうだ。広告収入のシステムが整っている大手ラジオ局は生き残れるかもしれないが、地方ラジオ局のネット版や個人ラジオ局など小規模なネットラジオは運営が難しくなる。

新料金が適用されるのは5月15日から。その前に議会を動かすため、4月半ばにSaveNetRadioという団体が正式に活動を開始した。ウェブキャスター、アーティスト、レーベル、そしてリスナーなどが参加している。19日に発表されたリリースによると、開始からわずか3日間で300万人以上がSaveNetRadioのサイトを訪れ、新料金に反対する27万8,000通のメッセージが集まったという。

小規模なネットラジオ局では、広告やスポンサーとは関係なく、DJの純粋なおすすめの曲がかけられる。SaveNetRadioによると、ネットラジオでは通常のラジオ局の4倍近い頻度でインディアーティストが取り上げられる。インディミュージシャンにとって貴重なプロモーションのメディアであり、またリスナーにとっては普段耳にするチャンスの少ないアーティストの曲を聴ける場である。

CRBと使用ライセンスを管理するSoundExchangeの言い分にうなずける部分もある。Arbitron and Edison Media Researchの調査によると、米国のネットラジオのリスナー数は約2,900万人。12歳以上だと米国民の11%、18歳~34歳だと16%、18歳~49歳では14%となる。これだけのリスナーを抱えるほどに成長したのだから、アーティストやレーベルの取り分を再考する時期にきている。

重要なのはネットラジオが今、メディアとして非常に面白い存在であるということだ。DRMフリーの楽曲が販売され、Jobs氏の言う革新的なサービスが実現すれば、オンライン音楽配信においても様々なマッシュアップが実現するだろう。ネットがパーソナル化のツールに使われる時代だ。各ユーザーの好みに応える楽曲探しがポイントの1つになるのは言うまでもない。例えばPandoraやLast.fmのようなおすすめ機能を備えたストリーミング、Live365のようなパーソナルラジオ局をうまく組み合わせれば、ユーザーがより楽しく効率的に音楽を探せるようになる。そうなれば結果的に音楽の売上げが向上し、ネットラジオ局の収入も増加するだろう。

このようなビジネスソリューションを含めてネットラジオ局の使用ライセンス料は見直されるべきなのだが、CRBとSoundExchangeのアプローチはラジオ時代と同じ。DRMフリーで広がる未知のサービスへの期待に水を差すような内容なのだ。