4月13日に、シリコンバレーの中心マウンテンビューにあるNASA(米航空宇宙局)のAMESリサーチセンターでYuri's Nightが開催された。

Yuri's Nightは、1961年4月12日のユーリ・ガガーリン飛行士による初の有人宇宙飛行と、1981年4月12日の初のスペースシャトル打ち上げ成功を称えるパーティーイベントだ。Loretta Hidalgo氏とGeorge T. Whitesides氏が立ち上げた民間イベントで、2001年4月12日に第1回が開催された。以来、少しずつ世界中に広がり、今年は36カ国以上で120以上のYuri's Night (日本国内では秋田、筑波、横浜で開催) が行われた。

つまりAMESリサーチセンターの「Yuri's Night Bay Area」も、ワールドスペース・パーティーの1つに過ぎないのだが、NASA初の大規模なYuri's Nightとして大きな注目を集めていたのだ。しかもYuri's Night Bay Areaは14日の午後6時半に始まり、終了は翌日の午前午前6時半という夜を徹したパーティーである。また会場が「211番」というAMES内の格納庫だったのも話題だった。軍の施設である同センターでは、普段は人の出入りが厳しくチェックされており、2005年に宇宙エレベータの開発競技会がAMESで開催された時も、参加者が中に入り込まないように一般道路に面した敷地の端っこのスペースで行われた。それが今回は夜中に数千人の立ち入りを許可したのだ。一般の人がNASAの施設を見学できるという意味でも貴重なイベントとなった。

AMESリサーチセンターの象徴となっているスペースシャトル色の格納庫。この隣りに211番格納庫がある

午後6時半の開場直後。4月のベイエリアは夜が寒く、入場券も30ドルと安くはなかったが、この人気ぶり

オープニングはAnousheh Ansari氏

さてパーティーの様子はというと、NASA敷地内という場所とパーティーの雰囲気のギャップばかりが印象に残った。

まずオープニングが、昨年ソユーズ宇宙船に乗って国際宇宙ステーションを訪れたAnousheh Ansari氏の講演だった。女性初の宇宙旅行者ということで、Yuri's Nightに最適な人選と言える。記録ビデオを放映しながら訓練や宇宙ステーションの滞在体験を振り返った講演は面白かった。

ただ、ロシアのソユーズに乗って宇宙"旅行"を体験したAnsari氏と、コマーシャルではないNASAは近くて遠い関係にある。そんな「NASAなのに……」がYuri's Night Bay Areaでは散見されたのだ。

例えば火星探査に関する講演やローバーのデモ、ハッブル望遠鏡による発見の歴史、GoogleやSETIとの共同プロジェクトの説明など、NASAならではのイベントも盛りだくさんだったが、それらが行われている会場は暗闇の中でネオンが光り轟音で音楽が鳴り響き巨大なダンスクラブ状態。コスプレしている参加者もめずらしくない。ベイエリアの夜は寒いから公演中でも踊る。NASAであることを思い出すのに苦労するような雰囲気だった。だが、終わってみれば、WorldwindなどNASAのオープンソースプロジェクトや地震の早期警告プロジェクトなど、一般的にあまり知られていないNASAの取り組みも、ちゃんと記憶に残っている。4,000人以上と言われる参加者の多くも同様だったのではないだろうか。

会場は211番の格納庫と、その前の滑走路

音楽が鳴り響き、壁にNASA風のアーティスティックなビデオが投影される格納庫内

滑走路にオブジェとして飾られたKulper Airborne Observatory

SETIのブースが入っていたドーム

Ansari氏によるオープニング講演。ロシア語の習得に苦闘しているところ

滑走路に設けられていたテレスコープ・ステーション

これでもNASAのリクルート・ブース

NASAと提携しているGoogleのブース

オープンで透明なNASAへ

米国人は持ち前のフロンティア精神からか、NASAに対して好意的である。ただ、これまではNASAのガードが固かったため、その研究内容や予想される成果などが国民に伝わりにくい部分があった。国民は夢を見るような感じでNASAをサポートしていたのだ。ところが、ここ数年では火星ローバーが明るい話題になったものの、失敗の印象の方が国民に強く残っている。また情報が豊かになり、もっと身近で効果が期待できる海洋研究などに予算を回すべきではないか……というような意見も目立つようになった。

以前と同じような支援を得られなくなったNASAに必要なのは不透明さの払拭。夢ではなく、現実で国民の理解を得る時期を迎えている。NASAが民間のコミュニティとのコラボレーションで宇宙関連のプロジェクトを進めるCoLabを設立したのは、コスト削減や研究開発の効率化などの目的のほか、NASAのプロジェクトを喧伝する狙いもある。

最近CoLabはコラボレーションの幅を広げるために、セカンドライフにCoLabの島を設けた。CoLabアイランドはメンバーのコミュニケーションの場として利用されるが、一般の人もNASAのプロジェクトに触れられる。今回のYuri's NightもCoLabアイランドと同様、オープンで透明な存在を目指し始めたNASAの新たな取り組みの1つと言えるだろう。

内情をさらけ出して失敗したら、ごまかしがきかないだけにリスクも高い。だが、Yuri's Night Bay Areaの盛り上がりとサポーティブな雰囲気から推察すると、オープンなNASAに新たな夢を見はじめた国民も増えているようだ。