「こりゃ、テレビだ……」──YouTubeのライバルとして注目されているP2PベースのネットTVサービス「Joost」の第一印象だ。

TV番組を扱うようになっても、ユーザー投稿型のサービスを根とするYouTubeはPC媒体という感じがする。それに対して、JoostはTVの視聴体験をPC上で再現しようとしている。だから、同じTV番組を扱ったとしても、サービスという点では、それぞれの持ち味があるから、2つのサービスは並び立ちそうだ。

だが、メディア企業も同じように考えてくれるかは疑問である。メディア企業がYouTubeの可能性として期待していたネットTVをJoostは巧みに実現している。だからYouTubeとコンテンツ配信について交渉していたと言われるViacomが一転してYouTube提訴にふみ切った影に、Joostの登場がちらつくのだ。

[Joostは現在、クローズドベータ段階で、サイトからWindows用とMac用のアプリケーションをダウンロードできるが、サービスを受けられるのはJoostまたは招待券を持つベータユーザーから招待された人に限られる。ただ、アプリケーションのバージョンが0.9.1まで上がっており、ベータサービスの一般公開が間近と期待されている。]

TVのように操作できるネットTV

Joostを手がけるNiklas Zennstrom氏とJanus Friis氏はSkype創設者であり、そしてファイル交換サービス「Kazaa」の創業者としても知られる。Kazaaは違法ファイル交換の温床として、メディア企業から叩かれた。その経験から、2人はP2P技術の有用性のみをアピールするために、著作権問題のトラブルを避けられるコミュニケーションソフトを送り出した──Skypeである。クオリティの高い音声通信を無料または低価格で行えるSkypeは瞬く間に普及した。このKazaaの失敗とSkypeを成功に導いた技術がJoostの土台となっている。

まず著作権侵害の可能性を徹底して避けている。配信はストリーミングのみ。ユーザーコミュニティ機能はあるが、YouTubeのようにユーザー投稿の仕組みを設けずに、著作権保有者が提供するコンテンツのみを配信する。

Skypeでは、立ち上げ期間に「優れた音質」と「無料/低価格」がアピールされた。Joostの戦略も同様だ。PCのフルスクリーン表示でDVDのような画質の映像をストレスなく楽しめるようにするという。ただ、今のところDVD品質には届いておらず、フルスクリーンでも十分に見られる……といったところである。Skypeも「一般電話よりクリア」と言われたが、実際は「一般電話のようにスムースに話せる」というのが正確だったように思える。ただSkype同様、Joostでは効率的なコンテンツ配信を実現する上で圧縮技術が大きな役割を担っており、今も400kbps前後をターゲットにDVD品質の実現を目指しているというから、今後の進歩に期待したい。

P2Pネットワークを利用したビデオ配信は安定している。一時はエラーが起こっていたが、今は番組を選択すると3~7秒程度で始まり、よほど不安定な接続状況でない限り、途切れなくスムースに再生される。ちなみにJoostによると、ユーザーは1時間に320MB程度のデータをダウンロードし、100MB程度をアップロードする。

JoostをTVのように感じる最大の理由は操作インタフェースだ。デフォルトがフルスクリーンで、ポインティングデバイスを操作すると半透明のオンスクリーン・コントロールパネルが現れ、番組が再生されている画面上で各種操作を行える。これがPCのインタフェースよりもリモコンの感覚に近く、とても操作しやすい。

マウスなどを使ってポインタを画面の下の方に持って行くとオンスクリーンの操作パネルが現れる

チャンネルカタログ。検索やコミュニティ機能を使って見つけたチャンネルをマイチャンネルに登録する

ウイジェット機能。インスタントメッセンジャー、レーティングボタン、時計などの機能を選択し、画面上にウイジェットとして呼び出せる

Zennstrom氏とJanus Friis氏は"視聴無料"を重視しており、ビジネスモデルは広告主体になる。今も番組の前後に数秒の広告が入っているが、本サービスではネットTVならではのターゲット広告が提供される。例えば「サンフランシスコ地域で野球を題材にした番組を見ている人」には、大リーググッズを扱っている店の広告を表示する。サンフランシスコ・ジャイアンツ関連のグッズの広告なら、さらに高い効果を期待できるだろう。Joostの見通し通りにターゲット広告が機能すれば、広告の時間を1時間で1分程度に抑えられるそうだ。

ラップトップTVのインパクトと問題点

ただ広告に頼った無料サービスを軌道に乗せるにはきっかけが必要だ。Skypeは電話よりも安いという魅力があったし、YouTubeでは不適切なものを含めて大量のビデオが公開されていた。ユーザーが増えなければ広告はつかないし、スポンサーがいなければユーザー獲得のための大胆な戦略を実行できなくなる。Joostは隙のないネットTVに仕上がろうとしているが、Skypeのようにユーザーを一気に獲得するようなインパクトが見あたらない。地道なユーザー獲得に、ビジネスモデルが堪えられるかが気になるところだ。

操作インタフェースは特にノートPCで使いやすく、Joostでは"ラップトップTV"と呼んでいるほどである。これはノートPCユーザーにとっては便利だが、PCを前提としたインタフェースはユーザーを狭めるリスクもある。SkypeもPC向けのサービスとしてデザインされていたため、対応する電話端末などが登場するまで時間がかかった。TVで楽しめなければ広い普及はおぼつかないという指摘にさらされそうだ。