今回はカゴメ株式会社にお邪魔します。カゴメといったらまずはトマトが思い浮かびますが、カゴメはトマト以外にもたくさんの自然の力を研究しているそうです。そのなかに数学的なヒントが隠されているかもしれません。カゴメ株式会社東京本社メディアコミュニケーション部広報グループの仲村亮さんにお話をうかがいました。

-仲村さん、本日はよろしくお願いします。さっそくですが、まずは初歩的な質問をさせていただきます。カゴメという会社はトマトのイメージが強いですよね。

はい、今で言うトマトピューレのようなものからスタートしました。創業者が日本ではまだあまり食べられなかったトマトを栽培し、商業的に売り始めたのが始まりです。1899年のことです。

-長い歴史がある会社なのですね。今日は御社の研究と数学との関連についてお伺いしたいです。

研究開発本部の研究成果のお話ですね。研究結果を発表する研究リリースは、数字上で正しいということを証明しないと成果にならないので、図表などのデータが必ず必要となりますよね。こういった点で、研究成果は数字と密接に結びついています。

-一般の方にむけても、研究結果のリリースが重要なのでしょうか?

はい、とても大切です。たとえば2012年の2月に、京都大学がトマトジュースがメタボリックシンドロームに効果があるという研究結果を発表しました。 この報道が世間で話題となり、カゴメのトマトジュースが品切れになってしまうということがありました。このようにデータに基づいた研究成果を出すということは、世の中に大きな影響をあたえる可能性があるのです。

-なるほど、コマーシャルとはまた違った効果があるんですね。

そうですね。お客さまに商品を伝える手段の1つであるコマーシャルでは、「トマトジュースって美味しいんですよ」「健康によいんですよ」などのメッセージは伝えられますが、「何が健康によいの?」というところは、しっかりとしたデータを使って伝えなければいけません。それを説明するためには数字に基づいた研究データというのが非常に大切です。京都大学が発表したデータはわれわれの商品が品切れするほどのパワーをもっていたわけですから。

-消費者も数学的な納得がやっぱりほしいですものね。最近話題となった健康成分「スルフォラファン」が気になるのですが、ご説明いただけますか?

はい。ブロッコリースプラウト(ブロッコリーの新芽)などに豊富に含まれているグルコラファニン(別名、スルフォラファングルコシノレート:SGS)から派生する成分が「スルフォラファン」です。その「スルフォラファン」に、悪酔い軽減が期待できる効果が発見されました。

お酒を飲んで酔っぱらったときの酔いには2つの段階があります。アルコールを飲むと、まずアセトアルデヒドに分解され、それがさらに酢酸に分解されて、体の外に尿として排出されます。

今回の動物実験による研究で、「スルフォラファン」にはアセトアルデヒドの酢酸への分解を活性化させる作用があるということがわかりました。悪酔いは、アセトアルデヒドが溜まりすぎると起こる現象です。「スルフォラファン」によって、アセトアルデヒドの分解を活性化させることで、悪酔い軽減が期待できるのです。

-なるほど。これがその研究結果のグラフですね。

はい。この動物実験によるグラフでいうと、黒い線が普通にアルコールを摂取した場合、緑が「スルフォラファン」を合わせて摂取した場合です。

「スルフォラファン」を摂取したほうが血中のアセトアルデヒドの濃度が30%ほど低いという結果が出ました(右グラフ)。血中のアセトアルデヒドを半減するのにどれくらいかかるか、という点を見ても「スルフォラファン」を摂取した方が、より早くアセトアルデヒドが分解されます。アルコールの濃度は変わりませんが(左グラフ)、分解が早く進むので、悪酔いを防ぐ効果があるんです。

-広報を担当されている仲村さんは、このような理系知識をどこで得られたのですか?

私はめちゃくちゃ文系人間で文学部出身です。数学は嫌いではなかったですが、そういうレベルですね。たとえば今の仕事で再び出合った単位が、高校の化学で習う質量の単位の「mol」です。仕事しながら、理系の勉強の大切さを実感しています。

-では、現在の仕事に就いてから、相当勉強されたんですね。

研究者さんたちの話を聞くというかたちで勉強してきました。ほかにも、売り上げや利益などを数字として見るので、決算関係の数字にはよく触れます。 広報効果も広告換算なんて言ったりしますので、数字に置き換えて判断することがあります。このように考えると、数字に囲まれて仕事をしていますね。

-仲村さんのお仕事は、専門的な理系の分野と一般の方との間の橋渡し的な役割なんですね。

研究者さんの言葉を聞いて、一般のお客さまにも説明しなければなりませんからね。研究に使われる言葉で、数理的なバックボーンがないとわからない言葉、それをわかりやすく噛み砕いてリリースして記者の人に伝えなければいけないので、広報として、その翻訳は大きな役割です。

-本日は貴重なお話をありがとうございました!

「スルフォラファン」のように、自然界にはまだ知られていないさまざまな力が秘められているんですね。それらの効果を一般にも広く伝えるためには、数学的なデータが不可欠ということでした。物事をより伝えるという意味において、数学はひとつの言語なのかもしれません。仲村さん、貴重なお話をありがとうございました!

今回のインタビュイー

仲村 亮(なかむら りょう)
カゴメ株式会社
東京本社メディアコミュニケーション部広報グループ
千葉県出身。
営業担当を経て、東京本社メディアコミュニケーション部広報グループにて広報を務める。

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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