宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月3日、内之浦宇宙空間観測所からSS-520ロケット5号機を打ち上げる。昨年(2017年)1月に打ち上げた4号機は、第1段モーターの燃焼中に通信が途絶、技術実証に失敗していた。5号機は前回発生した不具合への対策を施しており、再度、世界最小クラスのロケットによる超小型衛星の軌道投入に挑む。

  • 2月2日にプレス公開されたSS-520ロケット5号機

    2月2日にプレス公開されたSS-520ロケット5号機。全長は10m弱だ

SS-520ロケットは、固体燃料の2段式観測ロケットである。本来は衛星打ち上げ用ではなく、上層大気の研究などに利用するものだが、4号機はそれに新規開発の第3段を追加し、衛星を打ち上げる能力を持たせた。地球低軌道に4kg程度を投入することが可能で、同機には東京大学が開発した3Uサイズの超小型衛星「TRICOM-1」を搭載していた。

4号機の詳細については、以下の記事を参照して欲しい。

参考:「JAXAが世界最小の衛星用ロケットを開発 - 今年度中に内之浦から打ち上げへ」

4号機の失敗後、JAXAが原因を究明した結果、電源ケーブルの損傷により短絡が起き、電源を喪失した可能性が高いことが分かった。SS-520ロケットの第2段には、一部、電源ケーブルが機体の外側に出ている部分がある。その引き出し孔のところでケーブルの皮膜が破れ、短絡が起きたと見られている。

ここで詳細については省くが、詳しく知りたい人は以下の記事をご覧いただきたい。

参考:「SS-520ロケット4号機の打ち上げ失敗は電源の短絡が原因か - JAXAが特定」

今回の5号機は、その再挑戦となる。基本的に、機体の構成は4号機とほぼ同じ。搭載衛星も同型の「TRICOM-1R」となっており、前回と同じく、近地点高度180km、遠地点高度1500kmの長楕円軌道への投入を目標とする。

  • 搭載する「TRICOM-1R」の概要。ミッションが1つ追加されている

    搭載する「TRICOM-1R」の概要。ミッションが1つ追加されている

5号機では、引き出し孔の枠部分をグロメットと呼ばれる保護パーツでカバー。この部分でケーブルが金属の構造体に接触しないようにした。また機体の内側ではブラケットに固定、外側では接着固定することで、引き出し孔付近でケーブルに大きな力が加わらないよう対策が取られた。

  • 4号機でケーブルが短絡した構図。さまざまな要因が関係している

    4号機でケーブルが短絡した構図。さまざまな要因が関係している (C)JAXA

  • 5号機で施した対策。この部分でケーブルが傷つかないようにした

    5号機で施した対策。この部分でケーブルが傷つかないようにした (C)JAXA

  • 4号機のダクトカウル(赤丸部分)。この内側に引き出し孔がある

    4号機のダクトカウル(赤丸部分)。この内側に引き出し孔がある

  • 4号機の上段側。巻かれているビニール状のシートは打ち上げ前に外す

    4号機の上段側。巻かれているビニール状のシートは打ち上げ前に外す

  • こちらは5号機の同じ部分(赤丸)。引き出し孔は外部からは見えない

    こちらは5号機の同じ部分(赤丸)。引き出し孔は外部からは見えない

  • 5号機の上段側。今回は、撥水性のある茶色い紙で巻かれていた

    5号機の上段側。今回は、撥水性のある茶色い紙で巻かれていた

4号機では短絡が起きた結果、地上にテレメトリが届かなくなってしまった。こうなると機体の状態がまったく分からなくなってしまうため、5号機ではアビオニクスに保護回路を追加し、仮に短絡が起きたとしても、送信機などに影響が及ばないよう対策が取られたそうだ。

フライトシーケンスは、4号機と同じ。第1段を分離してから、ラムライン制御で機体の向きを変え、それから第2段に点火。その後、第3段も燃焼させ、打ち上げから450秒後に衛星を分離する。

  • 5号機のフライトシーケンス。これは4号機から変更はない

    5号機のフライトシーケンス。これは4号機から変更はない

ラムライン制御のあと、機体の高度、速度、姿勢などを確認し、すべての条件を満たしたときのみ、第2段以降のシーケンスを実行する。4号機はその前に通信が途絶していたため、ここから先に進むことができなかった。

  • SS-520ロケット5号機のロゴ

    SS-520ロケット5号機のロゴ。右側の√記号のような部分は、第1段の上昇、ラムライン制御による姿勢変更、第2段以降の飛行を表し、左側のV字の部分が5号機であることを示すそうだ

4号機に続き、プロジェクトマネージャを務めるJAXA宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系の羽生宏人准教授は、「これまでさまざまな試験を行い、1つひとつ確認しながら慎重に前進してきた。リハーサルでも機体に異常は起きておらず、このロケットについては、しっかりしたものができていると考えている」と自信を見せた。

  • JAXA宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系の羽生宏人准教授

    JAXA宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系の羽生宏人准教授

気になるのはやはり天気

打ち上げ時刻は、2月3日の14時03分。天候などの状況によっては、14時03分~14時13分の範囲で打ち上げ時刻を変更する可能性もある。なお、今回の打ち上げ条件は以下の通り。

  1. 発射時において、制限風速以下であること。制限風速は15m/s(最大瞬間風速)。
  2. 地上から高層までの風データを元に算出したフェアリング、第1段機体、ラムライン制御部の落下点が、落下予想区域内であること。

  1. 発射時において、降雨・降氷がないこと。

発射前および飛行中において機体が空中放電(雷)を受けないこと。

  1. 射点を中心として半径10km以内に雷雲のないこと。
  2. 飛行経路から20km以内に発雷が検知された場合には、検知後30分間は発射を行わないこと。ただし、発射時に飛行経路から20km以内に雷雲、積雲雲などがない場合はこの限りではない。
  3. 飛行経路が雷雲や積乱雲、氷結層を含み厚さが1.8km以上の雲を通過する場合には発射を行わないこと。

今のところ、雨の心配はあまり無さそうだが、風が強いのがやや気がかりなところ。翌日以降は雪の予報も出ているため、もし延期になれば長期戦を覚悟した方が良いかもしれない。

  • 相変わらずブリーフィング時には晴れる内之浦宇宙空間観測所。20mパラボラアンテナの写真でもどうぞ

    相変わらずブリーフィング時には晴れる内之浦宇宙空間観測所。20mパラボラアンテナの写真でもどうぞ