クラウドコンピューティングについてのラリー・エリソン(米Oracle CEO)の発言はかなり辛辣だった。

「ソフトウェア産業は、女性向けの服飾業界以上に流行ばかり追っている!!!」

それは必ずしも悪いことではない。これまでも流行とテクノロジの時間的なサイクルが出会うことで、「今年のピンク」「ブルーこそ新たなグリーン」といった風情のiPodや携帯電話が登場してきたのだから。スティーヴ・ジョブズには脱帽だ。

前回の私のエントリ(「SOAの終わり、SOAの天が降ってきた: 童話『めんどりペニー』2.0」)(※)を受けて、ガートナーのフランク・ケニーが「SOAの現状」をめぐるなんとも素晴らしいエントリ(※※)を投稿してきた。

ガートナーの「SOAは幻滅の時を迎えている」という批判に対し、どんぐりが落ちてきたのを見て「天が降ってきた」とあわてふためく『めんどりペニー』になぞらえて反論した文章。ミコ・マツムラは、実際にはSOAは数年単位の複数のプロジェクトで実装の時期に入っているとし、ブログ空間などでなかなか取り上げられないのはある意味当然、と述べている。また、黎明期でしかない現在にあっては、「フランケンシュタイン」に出てくるつぎはぎの怪物が暴れているようなもので、真に必要なのはその怪物を理解する花嫁であり、あるいはそれがBPMかもしれない、としている。

※※ かなり辛辣に「SOAは失敗だ」と騒ぎ立て、経営者や株主にそのことを訴えるよう呼びかけている。

SOAは今ものすごく「流行っていない」 -- それは認めよう。

私のちょっと粋がった見出しがほのめかしているように、肝心なのは、企業にはきわめて限定的な選択肢しかないということだ。どういう枠組みであるにせよ、企業は根深い問題を抱えている。混在する異質なアーキテクチャやレガシーシステム、宣言的ロジックを外注せざるをえない事情、規制の圧力、相変わらずのコスト管理の問題、コンサルタントやベンダへの丸投げでIT管理ができない状況、ビジネスプロセスなど変化し続けるビジネスニーズへの不適応などだ。

SOAは「カブの栽培」だとか、「しょせん、クラウドサービス向けプラットフォーム」だとか、架空の魚「バナナフィッシュ」だとか言われる。どう呼んでもかまわないが、そのアーキテクチャ面での対応策には1つだけ真に合理的な回答が含まれている。つまり抽象化だ……。粒度の粗いインタフェースラインにそって企業ITの安定化を図ること。それは今後も続いていき、その流れからITショップも勝者と敗者に分かれていくだろう。敗者は消えていくのみだ。

賢いアナリストたちはこぞってああだこうだと言い、SOAは結局うまく行かなかったとのたまう。もちろん彼らもなんとか食い扶持を稼がなくてはならず、なにか新しいことについて書きつづけなくてはならない。あるいはそれが「クラウド」なのかもしれない。

重要なのは、下げ潮のときこそ家の掃除に最適だということ。インフラ戦略を見直して不況期を脱することができれば、そのITショップは市場でのシェアを獲得できるだろう。よそが恐れを抱いているときこそ果敢でなければね(そう言ったのは私ではなく、有名な投資家のウォーレン・バフェットだ)。その動きをどう呼んでもかまわないが、とにかく、粒度の粗いインタフェースの裏側で、混成し複雑になった会社のレガシーの安定化/抽象化に力を注ぐのだ。仮想化やクラウドなど、足元を固めるためのものはいろいろ出てきているし、BPM、マッシュアップ、エンタープライズ2.0、さらには流行のトレンドWeb 3.0など、その上に載せるものもいろいろと出てきているのだから。

SOAは一朝一夕に構築できるものではなく、また、完全無欠のシステムでもない。導入時にも運用時にも多少の問題はつきもので、それを解決するのが"SOAガバナンス"である。SOAに限らず、ITシステムの導入においては、些末なトラブルに動じることなく、全体像を把握する視点をもちたい("めんどりペニー"のようなIT担当者/責任者はかなりやっかいである)

(翻訳: 嶋崎正樹 / イラスト: ひのみえ)