社内SNSや社内ブログといったコミュニケーションツールは、現段階ではそれほど認知度が高くない。それに相まって、ITやネット文化にあまり接する機会がない人々に、その良さをわかってもらうのは、かなり難しい挑戦と言えるだろう。前回に引き続き、ベネッセコーポレーションの山本利博氏に、社内ブログを普及させるためのコツを訊いていく。

試行錯誤を繰り返しつつ、社内ブログの導入/普及を進めてきた山本氏。導入前に不安もあったが、「最初は"スモールスタート"でもかまわないと思う」と、可能な部分から確実に手を着けてきた

ネットを使わない人にブログを理解してもらう難しさ

山本氏はブログを導入してみて、思った以上に広まっていかない苦労を感じている。ブログをなくてはならないツールと思う人たちがいる一方で、まだ「何がいいのかわからない」という社員も多いという。ブログが何かを変えるかもしれない、という思いはプライベートでやっている人間には伝わるが、そうではない人々に理解してもらう難しさが一番の課題になっている。

しかし同時に、「今後、絶対にブログやコミュニケーションツールが広まるはず」という確信に近い思いが、山本氏にはあるという。それは、同氏自身がプライベートでブログを書いていたとき、知らない人から褒められたり意見をもらえた体験からだ。

「情報は発信した人の下に集まる」という原則があり、ベネッセでもその通りになっているという。積極的に関わっている人は確かな価値を感じており、たとえば部長レベルの人に入社4、5年目の社員が褒めてもらえる、といったことも起きている。それは、メールなどのプッシュ型ツールではできない、ブログのようなプル型のツールでこそ可能になるコミュニケーションだ。

「ブログでは、メールではやりとりしないレベルの知恵が出てきやすいのがおもしろい。多くの人に向けて広く発言されているので、思いもかけないところから情報やアドバイスが取れます。思いがけず褒められたり、熱い議論になったりすることもあります。そのような、メールではできないし口頭でも存在しなかったタイプの新しいコミュニケーションが生まれるのが魅力。日常的に関係ない社員どうしの交流が生まれるタバコ部屋みたいなものです。そこからビジネスやコミュニケーションが生まれていくのです」(山本氏)

強制することの難しさ

新しい試みとして、20人くらいいる新人に「今週気づいたこと」をテーマにブログを書いてもらったことがある。社内ルールや社内用語などはWeb上にまとめてあるが、新人どうしの情報交換として役に立つことを期待してのことだ。新人のいる部署のリーダーなどは閲覧することを前提とした。

ところが、「週に1度は書かなければならない」という強制発言ルールにしたことで、新人は苦しむことになった。書けない者が次々と出てきてしまったのだ。

「(この取り組みに関しては)成功3、失敗7、というところでしょうか。自分だけが悩んでいると思っていたのでアドバイスをもらえてほっとする、などいい兆候も見られましたが、会社で強制させる難しさを実感しました。新人どうしはすでにmixiでやりとりをしていたりするので、会社が(社内ブログを)提供する意味はどこにあるかが考えどころです。書きたい人が書いて、それが効果的に働けばいいと思うので、今後は場所だけ提供するという形がいいかもしれないですね」(同氏)。

運用負荷がかからない社内ブログ製品

ドリコムのブログオフィスを導入した理由は、ASPサービスで安く始められたためだ。数万円程度で始められて、止めるのも簡単なので、企画や予算が通しやすいのだ。社内ブログを提供している企業は多いが、その中でもセキュリティ面などがきちんとしているところを選んだという。

「ブログオフィスは、会社向けのツールが非常によくできていて使いやすかったですね。たとえば、アクセス権をExcelファイルで一気に追加できる機能などがとても便利でした。今年からは自社ブログを利用していますが、そんな機能はないので、1人分ずつ手作業で入力しなければなりません。社内ブログではアクセス権の設定作業は必須なので、参加者が増えるたびに行う作業なのですが、これがかなりの運用負担となっています」

ベネッセが自社ブログに変えた大きな理由は、ASPサービスなのでサーバが自社のコントロール外だったためだ。ドリコムから保証はされているものの、万が一、サーバごとクラックされると困るので、ブログ内では機密情報は語らないという決まりにしていたという。社内の数字や新商品情報などの機密情報は社内ブログでは語れなかったため、限界を覚え、自社ブログに移ったとのことだ。

CMSとしてのブログ

同社では最近、ブログの違う使い方も試している。たとえば、以前はHP作成ソフトで作っていたコンテンツを、ブログでルール集マニュアルとしてアップするようになった。ブログなら簡単に更新/修正できるからだ。ブログは日記として使わなければならないという理由はない。CMS(コンテンツマネージメントシステム)として使う方法もありなのだ。最近では、ブログを中学1年生向けの公式サイトなどとして外向けにも使用している。生徒がログインして見るようなシステムになっているという。

ブログのメリットはもう1つ、検索しやすいという点がある。以前の社内Webサイトには検索ツールがなく、トピックがツリー状になっていて目的のものがなかなか見つけづらかった。ところがブログには検索バーがあるので、すぐに求める情報にたどり着けるようになったのだ。また、ここから検索ログが取れて、検索された単語と回数がわかるようになった。現在、同氏らは毎週1回ログ確認会を開いている。検索回数が上位にきている単語に、該当する項目がひもづけられていないことが多かったため、修正している最中なのだという。これにより、だいぶうまく検索できるようになったそうだ。

社内でもブログを作ろうという動きはじわじわ出てきている。仕事に参考になる情報メルマガを出していた人がブログに変更したいと言ってきたり、ライフハックをブログに書きたいという申し出もあった。このようにもともと潜在的にニーズがあった人たちは、発信を始めているが、家でパソコンを使わない人にはやはりあまり響いていない状態だという。おもしろいのは、ベネッセは女性が7割を占める会社だが、ブログを書くのは8割がた男性だという。感情的なことを書きたがる女性に対し、情報を発信したがる男性には、ブログという形が合っていたのかもしれない。

担当者が乗り気でも、社内に理解者が少なくてなかなか導入できないという話はよく耳にする。山本氏は、「今後も社内ブログを浸透させていきたいし、浸透するだろうという確信はあります」と最後に熱く語った。こういう熱意が組織を変えていくのかもしれない。