損害保険会社である損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)は、複数の社内SNSを導入する"マーブル戦略"を採り、成果を上げている。2回目は、社内SNSを成功に導くために大切だと言われるファシリテーターの役割や、導入による成果などについて、引き続き経営企画部の槻木氏らに話を聞く。

ファシリテーターの役割と秘訣 - "現場の代表"を貫く

明確な運営ポリシーの下、メインファシリテーターとして采配をふるう槌木氏

同社においては、社内SNSを成功に導く秘訣はファシリテーターにあった。ファシリテーターとなった経営企画部のメンバーは、「日記にコメントがつかないと寂しい」という体験をもとに、上がった日記には必ずコメントを入れるように努めた。損保ジャパンのSNSは、家でも携帯でも見られる24時間稼働体制だ。そこで最初の1カ月半くらいは2時間睡眠でチェックし続けた。仕事場でもパソコンを仕事用とSNS用の2台を開き、コメントをつけるようにした。そうすることで、徐々に信頼を勝ち得ていったという。現在は、2人がメインファシリテーターを担当し、どちらかが必ずファシリテートするといった協力体制を取っている。

もちろん、最初からすべてがうまくいったわけではない。当初は「本社のここがダメだ」などの反発もあった。そのときは、ファシリテーターは徹底して気持ちを受け止めるようにした。そのうち、当初は攻撃的だった人たちが徐々にコアメンバーになってくれるようになった。「最近は、私たちがコメントをつけなくても、彼らが書いてくれるので(コメント付けを)休めるようになりました。こういうコアメンバーをどれくらい作れるかが鍵ですね」(槌木氏)。

青木氏のような女性ファシリテーターの意見やコメントは社内SNSの運営において重要な役割を果たす

「社内SNSは"水槽"です。水槽の中で魚が生き生きするためにはファシリテーターが動くべきです。水、酸素、餌など、状況を見ながらその時々に必要なものを入れないといけません」(同氏)。運営のスタンスは、起きたことは隠さずにすべて経営陣にぶつけるというものだ。あくまで"現場の代表"として発言する姿勢は決して変えないようにしている。

すべてのデータを見られる存在であるファシリテーターは、当然モラルが高くないといけない。「ただし、モラルが高いのと真面目にやるのは違うので、ペルソナはたくさん持つべき」(同氏)。わざと失敗するなど、人間くささを見せるのも大切な点だ。また、意見を書く場合はファシリテーターが2人いるのを生かし、それぞれ別の意見を書くようにして、自由な意見を出しやすくしている。

ハンドルネームでオフ会

「社員いきいきコミュニティ」はビートコミュニケーションのビートプロをカスタマイズして利用している。オフ会などではSNS上のハンドルネームで呼び合うそう

「SNSの良さは、いつもは接触しない人とのつながりができること。手を伸ばそうとするかどうかが大事」(同氏)だが、若い世代は身近な関係を作るのに精一杯で、それ以上広げる余裕はない。SNSの成功ポイントを見つけるために始めたマーブル戦略だが、それぞれに良さがあるため、全社版と個別のSNSの共存も検討している。ちなみに、mixiは実際の付き合いがある人どうしがつながるものだが、社内SNSは社内SNSで初めて関係ができてつながるというケースが多いのが特徴だという。

プロフィール覧を見れば部署と名前はわかるが、社内SNS内では、基本的にハンドルネームベースでの付き合いとなる。新人は顔を覚えてもらうのが大事なので、顔写真を載せるよう推奨しているが、それ以上の社員になると、顔写真を掲載している人はほとんどいなくなる。全体にトーンは真面目で、深い話も次々と出てくるという。また、全体に、中途採用者がSNSで活発に動く傾向にある。一度他の仕事を経験しており、違う立場で語れるためと、同期がいないので、つながれる人を見つけるのがメリットとなるためだ。

オフ会もよく開かれている。オフ会には2パターンあり、事務局ベースのものと、完全に自由なオフ会がある。事務局ベースの方は、SNSの説明会を兼ねており、全国に出かけていって社内SNSの使い方などを伝えた後に飲み会をするというものだ。胸にはハンドルネームを名札として付ける。自由なオフ会は、突発的に誰かが呼びかけて開催するもので、東京で開催した時には、長野や秋田からの参加者もあった。SNS内でのやりとりがあるので、転勤になったときにも、赴任先で知っている人がいる状態となり、入って行きやすいというメリットがあるという。

縦と横へ広がる社内SNS

言いづらい話は、匿名コミュニティで自由に語ることができるようにしている。これがあることで、真の本音が聞けるというわけだ。社長メッセージに対しても、匿名で自由にコメントを入れられるようにしたら、たくさんのコメントがついた。誰が書いたのかがわかるのはメインファシリテーター1名だけなので、自由に書けるのだ。

社内SNSを盛り上げるには「自由な発言ができる雰囲気」が重要になる。プライベートな話やちょっとした情報から真面目な議論まで、幅広く受け入れることでコミュニケーションが拡がっていくという(画像提供: 損保ジャパン)

社内SNSを始めた結果、セルフヘルプケアグループができたり、バッドニュースも出てくるようになった。内部統制には苦労するものだが、社内SNSなら自然にできるようになる。横のつながりとして情報の交換や助け合いができるようになり、縦のつながりとして現場からの意見を経営陣が知ることができるようになったのだ。

本社が作ったツールをいっせいに配布していたころは、間違いがあると非難された。しかしSNSを導入したことで、持っている人や作った人がツールを配布するというスタンスが加わったという。たとえそれが間違っていても「ごめん」で済み、もらった人が間違いを修正して最初に配布した人にフィードバックするなどのいい流れができている。「人間関係がベースにないとダメだ」という最初の考えが実証された形だ。

2007年度末に全社版SNSの参加者を2,500名くらいまでに増やしたいと考えているが、全員参加にすると発言しにくくなる、などの理由があり、難しいというのが実状だ。今後、任命型をさらに発展させ、担当者を定期的に変えて一度はSNSを経験させることを考えているという。また、続けたい人はそのまま続けられるようにもしていきたいとか。損害保険ジャパンに根付いた社内SNSは、今後も社員どうしを強く結びつけていきそうだ。

全国に支店をもつ損保ジャパンのような会社では、SNSは横のつながりを拡げるのに効果的。時間と場所を越えて社員どうしがつながり、情報共有が可能になる(画像提供: 損保ジャパン)