前回に引き続き、日本オラクル セールスコンサルティング統括本部 Fusion Middleware SC本部 テクノロジーエバンジェリスト 佐藤直生氏に、同社内で展開されている社内ブログについて話を伺う。
社内ブログの運用管理を一人で担当している佐藤氏。オラクルのJava/SOA関連製品のスペシャリストでもある。「通常の業務システムに関してはグローバル/日本ローカルの情報システム部が管理運用しますが、草の根プロジェクトの社内ブログは情報システム部に任せられないんです。でも、好きで始めたことなので、とくに大きな負担は感じていませんね」 |
コミュニケーションの潤滑油となっている社内ブログ
日本オラクルでは、社内ブログ「OJ Blogs」を展開している。UIは当然日本語だ。登録すれば、個人やグループで社内ブログを公開できるようになる。運用管理は佐藤氏が担当している。ユーザアカウントは半年前は100だったが、今は250まで増えた。1日に10程度の書き込みがあり、ヒット数は多いときには1,000を超える。
日本オラクル社員は約3,000名。いままでは各地方都市にある支社/支店に加えて東京地区のオフィスも複数に分散しており、社員は点在している状態だったが、2008年秋に移転した外苑前の新しいオフィスに東京地区の日本オラクル社員はすべて集まることになった。「新社屋に社員が集約されたといっても、違う部署の社員どうしがコミュニケーションする機会はなかなかありません。そこで、社内ブログが、組織の壁を超えたコミュニケーションを促進するきっかけになっています。また、オラクルは買収戦略を進めているため、新しい社員が一気に入ってくることも多いのですが、彼らが日本オラクルに早くなじむためのツールとしても役立っているようです」(佐藤氏)。オフィスを移ったばかりということもあり、ブログ内では「青山ランチログ」というランチブログが人気だ。Google Mapsを埋め込んであり、写真もアップされていることもあって、非常に実用的だ。
オラクルの社内ネットワークにはインターネットからVPN経由でアクセスできるので、社内ブログにも自宅や外出先からアクセス可能だ。全体に業務時間内に書いている人が多いという。「ブログのいいところは、ネタを思いついたときに気軽に書けるところ。コミュニケーションツールとしては、日本オラクルではSNSよりブログの方が活用されていますね」
全体に、若い世代のほうがより使いこなしている率が高いという。高年齢層の使用率は若干低めだ。男女比では、女性社員は少なく、男性社員がほとんど。「このようなツールは、社内の文化的な壁によって導入しづらい、社員のITリテラシが低いためにうまく活用できないといった問題を抱える会社が多いように思いますが、日本オラクルではそういった問題はないのでやりやすいですね」(佐藤氏)
口コミベースで拡大
あるオープンソースのブログソフトウェアを佐藤氏がカスタマイズして公開した。サーバも特に用意はせず、佐藤氏が業務用PCを機種変更した際に古い方のPCが空いたので、それをサーバとして利用した。社内掲示板や社内報経由の告知で入ってきた人もいるがが、あとは口コミベースで広がっていった。ファシリテータは佐藤氏が行っているが、業務としてではなく自発的に行っているという。
「トップから無理やり言われてもあまり広がらないですが、ボトムアップで始まったものは広まりやすい気がしますね。日本オラクルは"Enterprise 2.0"を謳うソフトウェア製品(Oracle WebCenter Suite)を販売している会社でもあるので、社員がこのようなものを作って利用することに対して否定されることはまったくありません」と佐藤氏。
もともと佐藤氏は4年ほど前から社外ブログをやっており、社内でもブログが欲しいと考えていたという。オラクルの中にはすでに非公式な英語の社内ブログはいくつかあったが、「日本人社員が独自に使えるものがあるといい」と考えて、2006年3月に立ち上げた。社内からは、「日本人の間でも社内コミュニケーションは難しかったのでありがたい」というコメントが寄せられたりしたという。
さまざまなツールを使い分け
ソフトウェアの会社らしく、日本オラクルにはそれ以外のツールもたくさん存在する。業務連絡のためにはメールやMLがあり、グローバルな社内掲示板もある。かつては情報共有やコミュニケーションにはMLが多用されていたが、MLと掲示板の双方向同期機能(MLへの送信メールが掲示板に投稿され、掲示板への投稿もMLに送信される機能)を活用して掲示板も活用されつつある。掲示板はRSSに対応しているので、RSSリーダーで社内ブログや社内掲示板のフィードを読むこともできる。また、社内IM(インスタントメッセンジャー)もあり、全社員が活用している。かつては、Yahoo!メッセンジャーやAIM(AOLインスタントメッセンジャー)がよく使われていたが、社外秘情報の保護のため社内IMが導入された。最近では、OraTweetと呼ばれる社内マイクロブログ(社内Twitter)のサービスも実験的に始まっている。OraTweetも、ある1人のオラクル社員がゼロから開発したものだ。
「使い分けが難しいと思う社員もいるかもしれませんが、それぞれ特性が違うので、用途や目的に応じて使い分ければいいと考えています。たとえば、特定のプロジェクトやチームでのクローズドなやりとりが必要なら社内SNSのクローズドなグループ(コミュニティ)を使い、情報を広く発信したいなら社内ブログを使う、といった具合です。社内サービスでも、インターネット上のサービスの場合と大きく変わるものではありません」と佐藤氏は考える。
日本オラクルでは現在、社内と社外の両方でWeb 2.0対応を強化しつつある。社外向けには、オラクル公式ブログ「Oracle Blogs」で日本オラクル社員によるブログを公開したり、SNSのOracle Mix、Oracle Wiki、YouTube、Twitterを活用したりしている。インターネット上の人気サービスも活用して、新しい形の広報活動にチャレンジしているのだ。
アンオフィシャルからオフィシャルへ
社内ブログについて「オフィシャル/アンオフィシャルという位置づけにはそれほどこだわらない」という佐藤氏だが、「役員や社長など、上層部の方にも書いてもらいたいと思うことはあります」 |
「サーバも用意せずノートPC1台で運用しているため、ハードディスクが故障してどきっとしたことがある」と佐藤氏は言う。「運用管理は一人でやっているのでそこそこ大変ですが、使ってくれる人が増えるのは嬉しいですね。業もあるので、この草の根プロジェクトの開発にはあまり時間を割けませんが、今後社内の開発チームと協力できたらおもしろいと考えています。自社のEnterprise 2.0製品「Oracle WebCenter Suite」の活用も計画中なんですよ」
また、「広報部にブログを作ってもらえたのは嬉しかった」と佐藤氏は語る。「勝手に作ったアンオフィシャルなものだったのに、オフィシャルな部門で活用してもらえて良かったです。今後の目標は、社長のブログが開設されることですね」
全社員にPCが行き渡り、ITリテラシの高い人材が多い会社だが、今後は、営業部門やバックオフィスなどの人たちにも広めていくことも重要視している。課題は、見ているユーザーは多いのに、自ら情報発信してくれる人は少ないことだ。今は、読む人が10に対して書く人は1という割合。「全社員が書いてくれれば嬉しいですが、そこまでいくのは難しいですね」(佐藤氏)
グローバルに多言語展開をしている社内SNSはありそうでなかった。しかし社内SNSなら、このような距離や時差を超えて活用できそうだ。また、国内のコミュニケーションのために、別に日本語のみの違う環境を整えているところもおもしろい。ツールはたくさんあるが、どこに何を使えばいいかというのは永遠の課題だ。オラクルの例はそのための良いお手本となるかもしれない。