NTTデータのNexti(ネクスティ)は、大規模な社内SNSの成功事例のひとつとして知られる。その誕生の経緯や成功の秘訣について、同社 郵政システム事業本部課長 竹倉憲也氏、ビジネスイノベーション本部 W.E.B.サービスビジネスユニット 中沢剛氏、金融ビジネス推進部 金融PMO室 富松康宏氏に話を伺った。
電子電話帳に足りなかったものとは
ワーキンググループ時代からNextiに関わってきた竹倉憲也氏。同SNSを成功に導いたグループのリーダー的存在だ |
2005年春、新たに制定されたNTTデータグループビジョンを社員に根付かせるための施策を考える新・行動改革WG(ワーキンググループ)が作られた。そのグループビジョンで制定された行動ガイドラインのひとつに、「セクショナリズムを排し、仲間の知恵と力を合わせます」というものがあった。その具体案として出たソリューションが社内SNSだった。
竹倉氏はWGのころから参加している。「社内にはもともとWeb化した電子電話帳があります。毎月10万近くのアクセスがあるものの、役職や電話番号、ビル名などが出るだけの味気ないものでした。そこで、これに加えて、その人の人となりや顔写真、人脈などが見えると面白いのではないかと考えついたのです」
竹倉氏がそのアイディアを周囲に語ったところ、「それってミクシィだよね」と言われた。ビジネスに特化した海外のSNS「Linkedin」は使っていたものの、当時流行し始めていたミクシィはまだ利用していなかった同氏は、招待されて早速入ってみた。使ってみて、「こういうサービスを社内限定で作ってみたい」と直感したという。
巨大化するSNS
そのとき社内SNSの検討メンバーだったのは、新・行動改革WGに参加していた「リスペクターズ」の8名だけ。予算が付き4月スタートと決めたものの、本業を別に抱えたボランティアチームであるため、社内ポータルで追加メンバーを募集をした。結果、現在の約30名にまで増え、一大バーチャルチームとなった。
中沢氏もそのときにボランティアで参加した一人だ。「最初から、遠くで見ていて気になっていました。社内SNSをやることに決まり、必要なのはまさにこれだと感じ、ぜひ参加したいと思って応募したのです。そのころは私も、同じ社なのに20 - 30人くらいしか知り合いがいない状態でした。聞きたいことがあるのに聞けず、もっと気軽にコミュニケーションできたら…と思っていました」
富松氏も同様に考えて参加した。「自分が組織の歯車のひとつになってしまっているような、閉塞感を感じていました。ちょうどそんなときにこのプロジェクトを知り、『今まで体験したことがないことができるかも』と感じたのです」。実際、リスペクターズには、20代後半から30代前半くらいの若手が多く参加している。
ターゲットを絞って成功
NTTデータの社員数は約8,500人だ。同じ社内でも、それだけいると名刺交換が必要となることもある。その上、部署ごとに"閉じた"環境で仕事をしており、なかなか個が発揮できない状態だった。似たような技術が社内にありそうなのに、その技術がどこにあるかがわからないという、ナレッジマネジメント上の問題もあった。セクショナリズムは、部署間、開発・営業などの職種間、年齢、性別、新卒か中途か、経歴や所属など、あらゆるところを覆っていたのだ。
社内の"コミュニケーション不全"に行き詰まっていたという中沢剛氏は、Nextiの話を聞いてすぐにボランティアとして参加した |
そこでリスペクターズは"個人"に着目した。キーワードは、「発信、気づき、つながり」。自分の考えを個人として発信してもらうことで、他の人々には、「自分も同じことを考えていた」とか、「こんなことを考えている人がいたのか」という気づきが生まれる。結果として個々のつながりが網の目のようにできていくのを期待したのだ。
また、同じ社内と言っても人数が多すぎるため、ある程度ターゲティングを考える必要があるだろうと考えた。全社員が対象だが、特に使ってほしい人物像を事前に想定したのだ。「『セクショナリズムの問題に気づいていて、しかもそれを乗り越えて活動できている人たち』はおおよそ5%くらいと想定しました。『乗り越えられていないけれど問題とも思っていない人たち』は75%くらいでしょう。Nextiで特に訴えかけたかった層は、『問題意識があり、乗り越えたいと思っているけれどできていない』残りの20%の人たちでした」(中沢氏)
責任を持って発信してもらうための「実名制」
Nextiは招待制にした。情報感度の高い人たちに面白がって使ってもらうことを当座の目的とし、口コミで広まるのを期待したのだ。あえて全員が入ることを目標にはせず、まずは社員の1/4である2,000人の参加を目指してスタートした。
利用は実名制を選んだ。バーチャルだけではなく、セクショナリズムを打破し、リアルのつながりができることを狙ったからだ。「全社に発信できる場を持つからには責任を持って発してほしかったのと、誹謗中傷を抑止したかったという理由もあります。ログオンした時に勝手に名前を変えられないよう、人事システムから氏名を持ってくる仕組みにしています。そのため、いつどこで誰が何を言ったかがすべてオープンになるようになっているのです」(中沢氏)。以前、社内のある部署で匿名掲示板があったものの、"2ちゃんねる化"してしまい、煽るだけの場になってしまっていたという反省もあった。
また、「互いをリスペクトし、一人称で語り、何か生み出せる人」という"利用規程三箇条"も用意した。利用者は、これに同意できる人のみだ。また、運営側も雰囲気作りを考え、ユーザーに対して語りかけるような柔らかくフレンドリーな口調にするよう、システムの隅々にまで注意したという。
リスペクターズで事前に雰囲気作り
書き込みの"お手本"となるよう、さまざまな工夫を凝らしたという富松康宏氏 |
Nextiは、公開前にトライアル期間を設けていた。リスペクターズらを中心に数十人のボランティアメンバーで、プロフィールを書いたり、業務に関係する「オン」にあたるコミュニティと、趣味の「オフ」コミュニティを作ったりしておいた。そして、ある程度、雰囲気ができ上がったところで公開したというわけだ。
「第一印象が大事と考え、ポジティブな印象を持ってもらうためと、使い方の見本のためにトライアル期間を設け、事前にある程度、使用し雰囲気を作っておきました。プロフィールには必ず自身の顔写真を画像として使用し、プロフィールを公開することを重視していましたね。『割れ窓理論』と同じで、利用者が自身の顔写真を画像として使用していなかったり、プロフィールを書いてなかったら、そういうものだと認識されてしまうからです」(富松氏)。
オンとオフが入り交じっているのもNextiの特徴のひとつだ。「トライアル期間にオンとオフのコミュニティを意識的に半々に作りました。しかし、ワークライフバランス的な話とか、どういう風に仕事と私生活を分けているかとか、どういう飲み屋を使っているとか、オンとオフの境界線が曖昧な話題もたくさんありますね」(富松氏)。
同時に、プロフィールにもオンとオフの両方の情報が載せるようにした。オンとして、得意分野や社外で紹介可能な人物など、業務分担表で載るようなことを書き、同時に、休日の過ごし方や趣味全般など、オフをきっかけにして広がっていくこともできるようにしたのだ。
ネット上の"タバコ部屋"
SNSは概念的に新しいため、なかなか企業の上層部からの理解を得にくいものだ。竹倉氏らは、どのように行動したのだろうか。同氏によると、「役員には『時間と空間の制約を超えたネット上のタバコ部屋』と説明しました。組織に入るとオンのことしか話さなくなりがちですが、実際は、人と人とのコミュニケーションにはオフの面も重要です。タバコ部屋のようにオン/オフ織り交ぜた会話ができる場としてNextiを位置づけ、その意義を説きまわりました」
役員に常日頃「オフも大事」と考えている人が多かったことも幸いした。社長も「面白そうだからやってみればいいよ」と言ってくれた。「当時は正直どういうものかよくわからなかったようですが、社員が目を輝かせて新しいものを作ると言っているのを見て、あえて口出しをしないで自由にやらせてくれたようです」(同氏)。同時に、人事部や総務部など、セキュリティに関係する部署の人たちに事前にOKをもらうことも忘れなかった。面倒くさがらず、問答を用意して個別に味方につけていくことで、横やりが入らずにスムーズに導入できたというわけだ。
「煙草を吸う5分の代わりにこれを書いた、と言えるようになればいいと思っています」と中沢氏は語る。「『仕事時間中に書くのは抵抗がある』という人もいるし、『仕事中に何をしているのかと注意されてしまった』と日記に書いている人もいます。しかし、社長からは足あとがついたりコメントがついたりしており、理解してくれているのを感じます」
後半では、Nextiで人気の高いコーナーや、SNSによる意外な効果などについて紹介する。
【基本データ】
特徴: オンとオフが混在するSNS
使用製品: ビートコミュニケーション ビートプロ
使用時期: 2006年4月
利用者: 登録ユーザ数7,200名(NTTデータ社員約8,500名中)
ファシリテーター: あり(ボランティアグループ)
参加方法: 招待制&自己申告制(運営者から招待)
アクティブ率: アクティブメンバー数は1,700名(3日に1回ログインするメンバーの割合)、1日1回ログインするユニークメンバー数は1,000人強。日記のエントリ数は1日150エントリ。コミュニティ数は約1,000(うちONは半分強)
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