コンサルティングを「高い」と感じるのはなぜか
私が経営コンサルティング会社に勤務していたころ、クライアントへの請求金額はタイムチャージでした。依頼された仕事に対して「誰が何時間かかったか」によって請求金額が決まります。1時間当たりの単価は作業した人間の肩書きによって決定されています。
たとえば、スタッフ(2万円/h)が12時間、マネージャー(4万円/h)が4.5時間であるコンサルティング案件を処理したとします。チャージ金額は、
- 2万円 x 12h = 24万円
- 4万円 x 4.5h = 18万円
- 請求金額(1 + 2) = 42万円
となります。もちろん、あらかじめ予算が決められていることもありますので、かかった時間分、常に請求できるわけではありません。また、日本ではこうした請求方法は一般的ではないので、実際の請求書には違う記載がされていることが多いと思います。しかし、コンサルティング会社のコンサルティングフィーは、基本的にこのような計算方法によって算出されているはずです。
したがって(?)、前職でお客様からいただいた苦情で最も多かったものは「高い!」でした。仕事の内容について、正確や安全を期すため、依頼された作業につき「下書き」や「清書」をする人がいて、最終的に上司が確認をするので、どうしても時間がかかります。結果、請求金額が高くなってしまうのです。さらに、形のないモノについて日本人は過小評価する傾向が強いため、「高い!」に拍車がかかります。
ですが、依頼した案件に対して十分な答えが得られず割高感を感じるのならまだしも、答えをもらっていながらそれに対して支払いをケチるようではいけません。経営に有効な情報は「すべて有料」と考えるべきです。以前にも申し上げた通り、ケチな人間の下には人は集まらないのです。ある情報を得た人が、ほかの人にとって有効な情報かもしれないと思っても、それに対する見返りを期待できないのなら提供しないでしょう。そうしてケチな経営者は、重要な機会を損失しているかもしれないのです。
モノやサービスの適正価格は自分が決める
ある著名な弁護士の方がかつて雑誌に顧問料についての考え方を次のように述べておられました。
僕の顧問料は1時間当たり8万円です。高いと言われることもありますよ。でも考えてみてください。1時間当たり2万円の弁護士と4時間話してもなかなか結論が出なかった。僕は1時間で結論を出すことができた。どちらが安いかおわかりですよね。
自信と実績がなければ言えない勇気ある言葉に「凄いなあ」と同じ専門職である私は尊敬の念を持ちました。
一方で、依頼する側も顧問料について考える必要があると思います。困ったことがあるから弁護士に相談するのですから、解決しないとしたら、時間単価がいくら安かろうが無駄金です。仮に「1時間当たり2万円の弁護士と4時間話して結論が出た」としても1時間8万円の弁護士料の方が安いのです。なぜなら、大切な時間を節約できたからです。
こうして考えてみると、何にでも「適正価格」というものが存在するはずです。下手に安いモノ -- 相場からかけ離れて安い、考えられない安さのモノに手を出すときは、じっくり考えるべきです。
「安いモノはだいたい悪い」と私は思っています。ただし、割安( = 質に比べて値段が安いこと)で良いモノは存在します。皆さんもそういうモノを提供してくれるお気に入りのお店があるのではないでしょうか。絶対金額ではなく、品質と値段を考えたときに「安い!」と思えるお店です。
本当に欲しいモノがあるなら、ケチらないで支出すべきです。「一足12万円のオーダー靴?! 高い! いらない!!」と決め付ける前に、本当に靴を探しているのなら検討し、試してみてください。私なら以下の検討をします。
- どういう革を使っているのか
- 靴職人はどんな理念を持って靴の制作にあたっているのか
- どういう作り方をするのか
- どこで、どういう勉強をした職人なのか
- 同程度の靴が、よそでいくらで販売されているのか、その差は何か
以上を検討した上で購入し、実際の履き心地を試します。こうした「検討」と「使用」によって私の中でオーダー靴の価値観が形成されるのです。
スーツ、ワイシャツ、革バック、万年筆、車、宝石、楽器……誰でも、自分のこだわっているもの、好きなものに対しては、品質と値段を自分の価値観という天秤に掛けているはずです。「スーツはオーダーで、かつイタリア製ブランド生地のもので、12万円までなら買う」「ワイシャツは、消耗品なのでオーダーでは作らない。既製、100番双糸、15,000円位までじゃないと買わない」「2万円以下のウクレレは買わない」「ベンツ以外の車は考えられない」…こうした価値観は、他人に強制をしない、また他人の批判をしなければ、持つのは自由です。
情報に対する支出も同じです。自分を心地よくさせてくれるモノと同様に、自分に対して有効な情報に対しての適正支出を惜しまないでください。必ず経営に欠かせない、重要な潤滑油となってくれるはずです。