節税もやりすぎれば、結果として自分の首を絞めることに
経営における「道徳」について、皆さんはどう考えているでしょうか。「経営に道徳など存在しない。そもそもお金は汚いものだから、金を儲けるという行為も悪い行為だ。結局、ずるいことをしなければ金を稼ぐことはできない!」-- ここまで極端でなくとも、「ずるいことをしなければ金儲けはできない」と考えている経営者は意外に多いのです。前回も申し上げたとおり、問題はお金の使い方であって、お金自体、そしてお金を稼ぐという行為自体も決して悪いことではないのです。
「でも、うまい汁を吸っている人は、必ずといっていいほどずるく、そして汚いことをしているではないか」-- たしかにそういう経営者は存在します。でも、そうした汚い行為が長く続くことはありません。人の行為のみならず、会社経営も因果応報なのです。ずるい行為をしたならば、必ず代償を払わされることになります。
たとえば「節税」を取り上げてみましょう。節税には、税法上まったく問題のない節税から、かなり"危険"な節税までいろいろあります。
実は私は仕事上、過去にグレーな節税をさんざんやってきました。そのときは「税金は紛れもない経営上の費用であるから、何とか合法に少なくできるなら少ないに越したことはない」という考えが強かったのです。もちろん、あまりにもグレーな節税に対しては十二分にその税務的なリスクを説明をし、やめるよう説得します。ほとんどの経営者は納得してくださるのですが、まれに積極的に課税当局への挑戦を選択する経営者もいます。
「税金を払うなんてまっぴらご免。税金はもっと稼いでいる会社が払えばいい。税金をごまかすことができるなら、いくらでもごまかしたい」-- こうした経営者がその後どうなったかというと、まず間違いなく哀れな末路をたどっています。税務調査の際に高い代償を払う羽目になったばかりではありません。こうした経営者のずるい考え方が、経営に重大、かつ深刻な悪影響を及ぼしたのです。
人が道徳的であるのと同じように企業も道徳的な経営を
いろいろな事例を見てきたのですが、あるとき、ひとつの事実に気づいたのです。
優良企業の経営者は節税に熱心ではない
節税を考えないということではありません。節税ばかりを考えないということです。私はタックスプランニングを提案する際、必ず複数案を提案するのですが、その際、経営者のほうが節税金額が最も高い案を選択しない場合が多々あります。なぜか? 彼らは節税金額の多い/少ないではなく、自らの経営方針に合致した案を選択するからなのです。節税など二の次三の次、なのです。彼らの中にある判断基準は、企業業績の発展や、従業員の雇用の確保、労働環境の改善といった全体基準です。「オレサマ」基準ではなく「我々」基準、さらには「私達社会」基準なのです。
これからの社会は「支配」「独占」という価値観ではなく、「分け合う」「共有」という価値観が重要だと私は考えます。たとえばエネルギー問題を考えてみましょう。石油からバイオ燃料への転換は、トウモロコシをはじめとした穀物相場の高騰を招き、結果、我々の食料品の価格が上がるという問題のみならず、後進国にとっては、主食の価格高騰という深刻な食糧問題にも発展してしまうのです。すべてが繋がった世界となった今、自国のみの利益だけを考えるのではなく、あらゆる方面の影響を考慮する必要があるのです。世界がそうである以上、企業も同様の考えでなければ存続などできないのではないでしょうか。
人が人として道徳的に生きるべきであるのと同様に、企業も道徳的な経営をすべきです。「道徳的な経営」とはたとえば以下のようなことです。
- 顧客に対して嘘をつかない
ここで言う「嘘」とは「騙す」ということです。間違っても詐欺まがいの販売をしてはいけません。 - 自社の販売する商製品/サービスを偽って売らない
あくまで品質第一、本物志向、内容重視で勝負すべきで、広告宣伝、化粧箱や包装で販売しないことです。 - 誤りを誤魔化さない
誤りを都合の良いように正当化しないことです。過ち/誤りは必ず起こるものですが、それに対して真摯に向き合う姿勢が必要です。 - 企業の取引先や従業員に対して優しさを持つ
どんな優秀な経営者であっても一人で経営できている会社など存在しません。取引先も含めた皆さんのお陰で経営できているのです。 - 支払べきお金をきちんと支払う(税金、借金、取引)
払うものは払う。業者イジメのような過度の値引きの要求をする企業は、逆に得意先から値引きを要求されます。
あまりにもあたりまえのことなので、キレイごとばかり、幼稚でばかばかしいとお思いの方もいらっしゃると思います。しかし今一度、上記の内容をご自分の経営理念、経営方針に照らし合わせ、水準を高くして考えてみてください。「真理」「本物」「真摯」「優しさ」「感謝」-- これらは私が優良企業の経営者の方々から繰り返し聞いてきた言葉です。彼らは日々、これらのことを経営の中で真剣に考えています。ぜひ、これらの言葉をご自分の中で反芻してみてください。必ず何かが見えるはずです。
(イラスト ひのみえ)