30分間のウォーキングを極める
運動が健康によいことを示す信頼度の高いエビデンスは多い。何度も何度も取り上げるが、世界保健機関(WHO: World Health Organization)が報告した「1週間の単位で150分から300分は『中強度の運動』をすることがもっとも健康になる可能性が高い」というのは、指針の最たるものとして覚えておいてほしい(参考「World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour - PubMed」)。
世界保健機関の指針をクリアするには、最低限1日30分間の『中強度』の運動を実施できればよい。ビジネスマンにとって最も難しいのは、「運動の時間を作ること」だ。しかし、1日に30分間ならなんとかなるんじゃないだろうか。そんなわけで本連載では、30分間でなるべくダラダラと、しかし最大効率で『中強度』の運動をこなす方法をスマートウォッチを使って探っている。
これまで平日の運動についてチャレンジしてきたが、今回は、週末に焦点を当ててみたい。1日30分は最低限の時間だ。できれば、週末には1時間程度の『中強度』の運動を行いたい。平日に運動時間がとれないならなおさらだ。週末には『中強度』の運動を行い、運動不足をチャラにしておきたい。
「距離」を伸ばすと、脂肪燃焼は増えるのか
これまでいろいろな方法でカロリー消費、特に脂肪の消費を増やす方法を模索してきた。それなりの効果が見えてきているわけだが、今回は最もシンプルに「歩く距離を伸ばす」という方法を検証してみる。
歩く距離を伸ばす(または、歩く時間を増やす)というのは、簡単に実施できる。ちょっと時間に余裕が出たらその分伸ばせばよい。ジムならトレッドミルでウォーキングしている時間を増やすだけだし、散歩しているならさらに別のコースを歩けばよい。とにかく簡単に実施でき、そして負荷が少ない。音楽でも聴きながら歩いていれば、時間もすぐに過ぎてしまうものだ。
今回は次の条件で計測を行った。
ウォーキング | |
---|---|
場所 | トレッドミル(ランニングマシン) |
傾斜 | 15° |
速度 | 4km/h |
時間 | 30分間、60分間、90分間 |
歩く距離(つまり時間)による違いを計測したいので、トレッドミルを使うことにした。傾斜は15度で速度は4kmだ。実際に散歩、比較的早めの散歩をしているときと同程度の負荷に設定してある。これで30分間、60分間、90分間を計測する。では、早速結果を見てみよう。
距離は最高に効く!
計測は連続して行っており、実際には30分間ごとに計測を行っている。結果はそれぞれ次のようになった。
0~30分 | |
---|---|
消費カロリー | 233kcal |
消費カロリー(脂質) | 137kcal |
平均心拍数 | 109bpm |
31~60分 | |
---|---|
消費カロリー | 234kcal |
消費カロリー(脂質) | 138kcal |
平均心拍数 | 110bpm |
61~90分 | |
---|---|
消費カロリー | 234kcal |
消費カロリー(脂質) | 138kcal |
平均心拍数 | 110bpm |
合算してまとめると次のようになる。特に比率に注目してほしい。
消費カロリー | 30分との比率 | |
---|---|---|
~30分 | 233kcal | 1 |
~60分 | 467kcal | 2 |
~90分 | 701kcal | 3 |
消費カロリー(脂質) | 30分との比率 | |
---|---|---|
~30分 | 137kcal | 1 |
~60分 | 275kcal | 2 |
~90分 | 413kcal | 3 |
消費カロリーは、時間の分だけ増えている。つまり、2倍の時間歩けば消費カロリーも2倍になり、3倍の時間歩けば、消費カロリーも3倍になっている。
次の図は90分間のカロリー消費の推移を示している。黄色のバーが脂肪を使ったカロリー消費、オレンジのバーが糖質を使ったカロリー消費だ。脂質のカロリー消費は歩きはじめから安定して同じようなところを推移している。
トレッドミルで傾斜15度速度4km/hというのは脂肪消費が6割くらいで、安定して脂肪を燃やすことができる。除脂肪を進めるにはナイスな運動なのだ。
同じ時間における平均心拍数推移を見てみよう。特に心拍数がどのゾーンに位置しているかに注目してほしい。
最初の30分くらいかけて平均心拍数が徐々に上がっている。以降は上下しているものの、概ねゾーン2に位置している感じだ。
以前取り上げたが(著者の計測ベースなので著者の場合ということになるが)、『中強度の運動』の目安の一つが、ゾーン2の運動かどうかだった。上記グラフは水色のエリアがゾーン2を示している。つまり、トレッドミルで傾斜15度速度4km/hとは、ゾーン2で中強度の運動であり、脂肪燃焼にも効率が期待でき、そして時間を伸ばすのもそれほど苦にならない、運動不足のビジネスマンには垂涎ものの設定といなるわけだ。
ここでは90分までしか計測していないが、少なくとも90分までは比例して消費カロリーが増えることがわかった。どこまで比例して消費カロリーが増えるかは実際に試していただきたいが、2時間3時間と増やして比例的に消費カロリーが増えるなら、これはかなりお得な情報と言える。
有酸素運動、特に若干負荷の高い有酸素運動を続けると、途中からタンパク質を分解してエネルギーに変える仕組みが活発になるので、これには要注意だ。筋肉は減らしたくないので、そうなる前に休憩を取るなり止めるなりの対応が必要だ。
連載当時、消費カロリーの内訳(脂質、糖質、タンパク質)を表示する機能はPolarのフラッグシップモデルであるVantage V2にしかなかったが、現在ではより廉価なVantage M2やIgnite 2に搭載されているし、先日のアップデートでUniteでも使えるようになった。
効率よく脂肪は燃やしつつも筋肉は減らしたくないという場合、こうした機能が搭載されたスマートウォッチを活用するのは選択肢の一つだ。せっかく運動する時間を確保したのなら、最も効果的な方法を取りたい。無理をして逆に筋肉が減るのはなんとしても避けたいのだ。スマートウォッチはそれをサポートしてくれる。
これまでの工夫を比較
これまでに行った「ウォーキングの負荷を引き上げるとともに脂肪燃焼を増やす取り組み」をまとめると 次のようになる。
工夫方法 | 消費カロリー | 脂質燃焼 |
---|---|---|
5kgダンベル背負い | 28%増加 | 15%増加 |
事前に筋トレ30分間 | 13%増加 | 2%増加 |
傾斜15° | 71%増加 | 30%増加 |
速度2倍 | 37%増加 | 33%増加 |
時間2倍 | 100%増加 | 100%増加 |
時間3倍 | 200%増加 | 200%増加 |
30分間に収まらなくなってしまうのだが、距離を伸ばす(時間を伸ばす)方法の効果は絶大だ。増やした分だけ効果が出ている。上記の結果に、継続の簡単さを加味すると、次のようなランキングになる気がする。
- 時間を伸ばす
- 傾斜15度
- 5kgダンベル背負い
- 事前に筋トレ30分間
- 速度2倍
ジムを使わないで散歩をベースに考えると、次のような順序になってくると思う。
- 時間を伸ばす
- 5kgダンベル背負い
- 事前に筋トレ30分間
- 速度2倍
- 傾斜15度
どうやっても30分しか確保できない場合は、「1. 傾斜」「2. 重量」「3. 速度」の順で負荷を加えることで、脂肪燃焼を増やす効果が期待できる。そして運動時間が伸ばせるなら、タンパク質がエネルギーに使われる回路が活発化するまでは時間(距離)を伸ばす、というのが最も効果が期待できることになる。少なくとも、90分くらいならまるで問題なさそうだ。
このように違いがはっきりとした数値で出てくるとモチベーションを保ちやすい。曖昧な情報をベースにしているとモチベーションも曖昧になりがちだが、数値化しておくと精神面でも効果的なのだ。ぜひ、自分でスマートウォッチを使って実際に計測を行い、楽しみながら運動をしてもらえればと思う。