前回、iPhoneやiPadのようなスマートデバイスを会社の業務でも活用するためには、クライアント証明書によって許可されたデバイスかどうかを認証するとともに、SSL-VPNでオフィス外からのアクセスであっても通信の安全性を確保するのが重要であることを解説した。第2回目となる今回は、実際にそうした環境でのアクセスがどのように行われるのかを、架空の企業に勤めるある営業マンのビジネスシーンを追いながら見てみることにしよう。
会社が営業マンにiPadを支給──これは仕事のやり方を改善するチャンス!
鈴木君は、都内にあるマイナビ工業に就職して3年目の営業マン。少々おっちょこちょいではあるが、人当たりの良い明るい性格と持ち前のガッツで、社内からも取引先からも高く評価されている。
この度マイナビ工業では、iPadを全社的に導入。すべての社員に配布して社外からでも社内ネットワークにアクセスできる環境を整えた。それにより、社員はどこからでも、メールをセキュアに利用したり、仮想デスクトップにアクセスして社内リソースを活用したりといったことが可能となった。外回りの移動時間をもっと有効に活用したいと常々考えていた鈴木君にとっても、会社からのiPadの支給は仕事のやり方をさらに改善できる絶好のチャンスだと感じられたのである。
企業がiPadを導入するのは今ではそれほど珍しいことではなくなってきている。しかし、その多くは目新しさやブームに乗じてのテスト的な導入にとどまっているケースが多い。利用方法も外出先で商品カタログを見せる程度である。これでは"モバイル&ネットワーク"の可能性を十分に引き出しているとは言い難い。その点、全社的に本格導入したマイナビ工業はなかなか"わかっている"企業だと言えるだろう。
リモートアクセスの設定はクリック1つで終了
鈴木君はまず、情報システム部からの指示に従い、社外から安全に会社のリソースへアクセスできるように、iPadの設定を行う。マイナビ工業では、iPadのリモートアクセスセキュリティにデバイス証明書による認証を採用しているので、鈴木君も社内で構成プロファイルのインストールを行った。iPadのブラウザから指定されたURLへとアクセスすると「Gléas」「UA」と表記されたユーザー認証ページが表示された。あらかじめ教えられていたユーザーIDとパスワードでログインして「構成プロファイルのダウンロード」と書かれたボタンを押す。これだけで、外出先からiPadを使う準備はOKだ。SSL-VPNも使える状態になっている。
そして鈴木君がiPadを抱えて外回りに出かけた日の昼下がり、次の訪問先との約束まで少し時間があることに気づいた彼は、カフェで一休みしながらメールをチェックすることにした。カウンターでコーヒーを受け取り、眺めのいい席に腰掛けた鈴木君は、おもむろにカバンからiPadを取り出す。
「えっと、メールをチェックするのは、この『Junos Pulse 』アイコンをタップして……」
iPadのホーム画面にある「Junos Pulse」起動すると、マイナビ工業のイントラネットで利用できる社内システムのブックマークが並んでいる。その中からGoogleAppsの表示ををタップすると、専用ブラウザの画面に表示されているのは、紛れもなく鈴木君の業務用メールの受信トレイだ。未読メールの中に得意先からの問い合わせを見つけた彼は、すぐに返信すべく文章を打ち込みだした。
メールを送信し終え一安心した鈴木君。早くもiPadの便利さをを実感しつつ、コーヒーを一口。ゆったりした気分の中で、余った時間を訪問先に見せるための資料確認に費やした。
……と、ここで思わぬ大失態に気付く。気合を入れて作成した資料のうちの1つを印刷し忘れていたのだ。
「昨日残業してまで作った資料なのに、デスクトップに置きっぱなしだ! どうしよう。。。」
これまでだったら、完全にアウトの状態だ。今から資料を用意するか、取りに帰るか、どちらも無理な状況だが、今日はiPadを持っている。
「そうだ、iPadから会社にある自分のPCに仮想デスクトップでアクセスして、資料のデータを見れるはずだ!」
鈴木君は、急いでCitrix Receiverのアイコンをタップ。しばらくすると、仮想デスクトップのログイン画面が表示された。Citrix Receiver用のIDとパスワードでログオンすると、そこにはWindows7のデスクトップが表示される。iPadの画面の中に、見慣れたWindowsのデスクトップが映っているという光景に、なぜか感動まで覚えてしまう鈴木君だった。
あとは、いつもの資料のフォルダにアクセスして必要な資料を確認。つい、これまでの習慣でプリントアウトする事を考えたが、せっかくiPadを手にしたので思い直してそのままプレゼンしてしまうことに決めた。
鈴木君が訪問先での商談を終えて玄関を出ると、すっかり日が暮れかかっていた。iPadでのプレゼンが功を奏したのか、商談は予想以上にうまくいった。
「かなりお客さんと話し込んでしまったな。でも新製品にすごく興味を持ってもらえたし、この取引きはあともうひと踏ん張りというところかな」
議論が白熱しながら一気に進展した商談に、鈴木君は確かな手応えを感じていた。細かい販売スケジュールまでもしっかりとした口調でスラスラと説明する彼に対し、訪問先の担当者もこれまで以上の信頼を寄せてくれたようだ。会社から絶妙なタイミングでiPadが支給されたことに感謝する鈴木君だった──。
* * *
鈴木君のストーリーはここまでだ。こうして端から見ると、彼はいとも簡単にiPadで社内リソースを活用しているようである。確かにユーザーにとっては難しいことを意識することなく、それに面倒な手間もかからずにリモートアクセス環境を使えるわけなのだが、その裏ではいくつもの高度なセキュリティ技術が連携し支え合っているのである。
そこで次回は、こうした"舞台裏"について、ジェイズ・コミュニケーション 営業本部 マーケティング部の佐藤恭平氏に説明してもらうことにしよう。