チーム・コミュニケーションを円滑にするビジネスのサポートツール「Slack(スラック)」。コロナ禍におけるリモートワーク文化が進んだことも相まり、近年は多くの企業が導入を始めている。では、Slackはどのように企業のコミュニケーションを円滑にしているのだろうか。今回は、2021年10月にSlackの全社導入を行なったソニーネットワークコミュニケーションズの事例を紹介する。→過去の回はこちらを参照。

部門での試験運転から全社導入へ――検索機能が導入の決め手だった

2020年1月ごろからSlackの全社導入に向けた検討を開始していたというソニーネットワークコミュニケーションズ。「いくつかのチャットツールを比較・検討したうえでSlackの導入に至った」と語るのは、ソニーネットワークコミュニケーションズ NURO技術部門基幹ネットワークシステム部通信インフラ課 課長の今林正裕氏だ。Slackを選んだ決め手について、次のように語る。

「コロナ禍の影響で社員同士のコミュニケーションが希薄になる中で、誰が何をやっているかを可視化したい、という要望をマネジメント部門から受けたのが始まりでした。“離席中”や“会議中”といったステータスが表示され、かつメッセージングインフラとしても機能するようなツールを――と求めた先にSlackがありました。 決め手のひとつになったのは検索機能が優れていること。コミュニケーションを重ねることで、自然と情報のストックが出来上がる構造に魅力を感じましたね」(今林氏)

  • ソニーネットワークコミュニケーションズ NURO技術部門基幹ネットワークシステム部通信インフラ課 課長の今林正裕氏

    ソニーネットワークコミュニケーションズ NURO技術部門基幹ネットワークシステム部通信インフラ課 課長の今林正裕氏

2020年4月にEnterprise Gridに移行し、現在は子会社を含む約2,000人がアカウントを保有している。同社では2020年8月、部門単位でのパイロット運用から徐々に全社導入を進めていった。まずは、同月からNURO技術部門に所属する約200人での利用からスタートした。

「導入に際しては、20~30人程度の小規模からスタートさせるケースの方が多いかと思いますが、Slackの主軸である“オープンコミュニケーション”の価値を発揮するには、中規模で導入したほうが効果も可視化されやすいと思ったんです。特にNURO部門では企画から営業、エンジニアまで、さまざまな職種のスタッフがおり、しかも土日出勤や深夜出勤など働きかたにも幅があります。パイロット運用をするには非常に結果の見えやすい部署でした」(今林氏)

情報セキュリティの課題と向き合いながらも、実感する“Slackの効果”

現在、子会社ごとに分けられた6つのワークスペース、そしてアプリの試験運転用に開設されたワークスペースを加えた計7つのワークスペースが稼働している。

ユーザーが自社のワークスペース以外を閲覧できないようなガバナンスを取っているほか、同社では基本的なセキュリティポリシーに則ったガイドラインを策定。加えて、絵文字機能などを活用したコミュニケーションルールなどを周知させている。

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「Slackは未読・既読の表示がないところも1つの価値だと思います。ただ、メッセージを見ているかが判断できないと困るケースもあるのは確か。何人が読んだかを確認したい場合は“目"の絵文字をつけたり、簡単な承認であれば“チェックマーク"の絵文字をつけたりするなど、レスポンスのルールは用意していますね」(今林氏)

また、情報セキュリティにまつわる細かなルールも整備しつつある。Slack上に情報をストックすることは推奨しつつも、特にSlack上における機密情報の扱い関しては利用者に細心の注意を払うように促している。

「ただ、目下の課題はアプリケーションの連携にまつわるルールの策定ですね。情シスに対し申請と承認をしないとアプリを利用できないようにしているのですが、どういったアプリを承認すべきかのルール策定で試行錯誤しており、申請が溜まっているのが現状です。まずはアプリの内容を判断し、許可を出すためのルールそのものを示すことが、直近で解決すべき課題だと感じています」(今林氏)

全社導入をスタートさせてから2か月弱。まだ解決すべき課題はありながらも、今林氏は着実に「Slackを導入したことによる効果」を感じているという。

「少なくとも社内での会話はSlackに移行した実感があります。メールがとにかく減りました。対外的なコミュニケーションはまだまだメールが主流ですが、徐々にSlackコネクトを活用しながら、取引先や業務委託先とのやりとりも増えています。個人的には『お世話になります、~です』といった挨拶の定型文を書くことのストレスが減ったことも大きかったです。Slackではいきなり本件から始めても違和感がありません。社内や取引先とのコミュニケーションが円滑になりましたね」(今林氏)

部門長に「いいね!」と絵文字を送れるようなコミュニケーション

現在、同社では社長からのメッセージなどを全社員に向けアナウンスできるようなチャンネルを用意するなど、Slackを全社的なコミュニケーションツールとして発展させる動きがある。今後はBotやインタフェースを活用しながら、情報セキュリティ関連業務や勤怠報告などもSlack上で行えるよう、積極的に整備を進めていく予定だ。

その一方で、利用ユーザー2,000人に対するオペレーションを円滑にしていく仕組み作りにも改善の余地がある、と今林氏。というのもEnterprise Gridの管理権限は、今林氏を含めた担当者3人のみが保有している状況だからだ。

「人事異動や新規プロジェクトが稼働することの多い月初は、ついゲスト申請に追われてしまいます。そこで、Slackの導入を盛りあげるために各部署で設置した“アンバサダー"の役割を拡大し、プライベートチャンネルの作成権限などを移すことは検討したいな、と個人的には思っています。Slackの担当者にもアンバサダーのトレーニング方法やテクニカル面でのサポートを行なっていただいたので(※編集部注:Slackでは大規模な法人導入の場合、チュートリアルなどの有償サポートを行なっている)、さらなる子会社展開などにおいては、その時のリソースをもとに管理者やアンバサダーへのトレーニングを、われわれでも行っていきたいです」(今林氏)

オープンなコミュニケーションを実現するSlackの魅力

Slackを「オープンなコミュニケーション・プラットフォーム」にしていきたい、と意気込む今林氏。そこには彼自身が感じる“Slackの魅力"が深く関係している。

実際、同社では2018年から2020年まで別のチャットツールを導入しており、一部ではまだ並行して利用している部門もあるが、コミュニケーションという側面では、以前のツールでも遜色なく運用できていたという。

ただ、以前利用していたものも含めた他のチャットツールは、クローズドコミュニケーションがベースであるのに対し、Slackはオープンコミュニケーションがベースとなっており、そもそも根本的な用途が異なっている点を挙げている。

「必ずしもSlackをそのツールと置き換えたわけではないことは、全社導入を始める前から痛感しています。それでもなお、Slackを導入しようと思ったのは、その“コミュニケーションの捉え方"に共感するところが多かったからでした。“コミュニケーションの捉え方"がブレないツールだからこそ、Slackのアップデートで『改悪した!』と感じることはほとんどありません。UIからアプリの色合い、そして『メールでのやりとりを撲滅するぞ!』というスタンスも含め、魅力を感じています。何より部門長に「いいね!」と絵文字を送れるようなコミュニケーションは、メールでは不可能じゃないですか(笑)。距離感を勝手に縮められる設計、それがSlackの価値だと思います」(今林氏)