こんにちは! 税理士の高橋秀明です。今回のテーマは、決算数字の見方・実務編その2です。
前回、P/L(Profit and Loss Statementの略称)損益計算書の実務編として、当事務所のクライアントの決算書から経営成績の良かった会社の実際の数字を見てみました。この会社はシステム開発を事業とする製造業です。
まずは、前回までの復習をかねて、企業会計原則に基づくP/L損益計算書の標準的ひな型を記します。
(営業損益計算) 本来の主たる営業活動の中で獲得した利益の計算
I 売上高
II 売上原価
売上総利益 ・・・第一段階利益
III 販売費・一般管理費
営業利益 ・・・第二段階利益
(経常損益計算) 本来の活動以外の中で獲得した利益の計算
IV 営業外収益
V 営業外費用
経常利益 ・・・第三段階利益
(純損益計算) 通常では発生しない特殊要因の中で獲得した利益の計算
VI 特別利益
VII 特別損失
税引き前当期利益・・・第四段階利益
VIII 法人税・住民税額
当期純利益 ・・・第五段階利益
では、第一段階利益である粗利益(売上総利益)以降の第二段階利益(営業利益)と販売費及び一般管理費の費用項目をピックアップして見てみましょう。
第二段階利益である「営業利益」の計算から第三段階利益である「経常利益」に着目し、その売上比率を見ます。財務指標を分析するため、中小企業庁が提供している『中小企業の財務指標』と比較します。
業種 | 売上高総利益率(%) | 売上高営業利益(%) | 売上高経常利益率(%) |
---|---|---|---|
建設業 | 22.4 | 1.2 | 0.9 |
製造業 | 31.9 | 2.1 | 1.7 |
情報通信業 | 57.4 | 2.0 | 1.6 |
運輸業 | 37.6 | 1.0 | 1.1 |
卸売業 | 21.7 | 1.0 | 0.8 |
小売業 | 31.9 | 0.2 | 0.3 |
不動産業 | 66.0 | 7.6 | 4.1 |
飲食業 | 64.3 | 0.3 | 0.2 |
サービス業 | 60.8 | 1.4 | 1.3 |
(中小企業庁のWebより)
『中小企業の財務指標』を見ると、製造業の営業利益率は平均2.1%となっています。この会社の営業利益率は7.45%(残高試算表・損益計算書の営業損益金額・対売上比を参照)とですから、この会社は全国平均よりも仕入れ・販売という営業活動を通して獲得した営業利益率がよくなっていることが分かります。
では、この会社の前年比較をみてみるとどうでしょう。ここでは、製造原価報告書の費目の前年対比を見ていきます。
材料費は、前年比較で2倍となっているのが分かります。労務費は、前年比較で20%も増額しています。そして、総製造費用のうち外注費は前年度の20.7%に抑制されています。
これら事象を検証すると、材料費は前年比較でも増加していますので、材料費負担をしていた外注先が減少したため、その分この会社で自ら材料の調達をしたという見方と、業務は変わっていないと前提すると、自社内制作による実質増加という見方の2通りが予想できます。
人件費関連は増加していますが、外注費用は著しく抑制されており、このこのから、外注主流型経営から自社内制作経営に転換されたと捉えることができます。
外注費用は仕事が発生した都度発注すればよいので、変動費用といえます。売上対費用という関係においては、売上高という収益の中から外注費用を負担すればよいことになりますので、売上に対する入金がなされて支払いに充当すればよく、資金繰りの面でも順調といえるでしょう。
しかし、自社内制作に転換されたということになると、人件費は固定費用なので、売上高がなくても、人件費は支払わなければならないリスクを抱えることになります。その分、事業計画の誤算による売上高の減少は企業経営にとってダイレクトに影響を受けてしまいます。
企業によって経営に対する考え方や経営の舵取りの軌道修正は常のことです。この会社の前期比較の製造原価報告書の数字からは、会社の外に頼っていた体質から企業内部で人材の成長があり、中途採用の優秀人材の確保があったことで、やや負担の高い外注から自社内作にて賄う体制となった結果、収益に連動したのではないかと見ることができるのです。
次に販売費および一般管理費はどうなっているのでしょうか。各項目を捉え、その増減理由を見ていきます。そして、明確な理由が存在すれば、良しとします。
主な増加項目
役員報酬 | 新たに役員報酬支給対象の方がいたために増加した。 |
---|---|
給料手当 | 人材の補強により増加した。 |
福利厚生費 | 創立10周年記念行事があったために増加した。 |
旅費交通費 | 国内地方出張があったために増加した。 |
支払手数料 | 振込料が増加した。 |
主な減少項目
採用教育費 | 前年は採用に力点を置くことで新規採用の成果があった。 |
---|---|
外注費 | 販売管理関連での外注作業が終結した。 |
消耗品費 | 前期は事務所内の家具・机等の購入があった。 |
租税公課 | 平成18年3月期の事業税計上が前期あったが、平成19年3月期の事業税計上は少なかったことによる。通常、事業税は、確定決算月後の事業年度の租税公課となる。 |
実際、この会社の販売費および一般管理費の主だった増減科目は上記のとおりでした。明確な理由の存在にて特に問題があるわけではありませんでした。 その他いろいろな要因は存在していると思いますが、一点注視にて、この会社の良いところは、前期比較にて金額の検証をした時、粗利益(売上総利益)の増加額が14,934千円に対し営業利益の増加額も14,025千円なので、ともに14,000千円台の増額は、販売費および一般管理費の増減があったものの、主たる営業活動においてそれだけ収益を確保したことになります。
P/L損益計算書の数字の捉え方は、各項目の比率をみていくことも重要ですが、金額での検証も大事な要素なのです。
最後に、本来の営業活動以外の中で獲得した利益を見ていくことにします。
第三段階利益である「経常利益」は前期比較で3倍以上となっています。『中小企業の財務指標』上の標準経常利益率1.7%に対して、この会社の経常利益率は、5.08%となっており、業績はとても良い状態といえるのです。前年の経常利益率は1.76%でしたので、この会社の前年は標準的業績であったことが分かります。
細目として営業外収益の受取利息は前期より増加していますが、これは定期預金の増加によるものです。また、営業外費用の支払利息は前期より増加していますが、これは借入金の増加によるものです。
第四段階利益である「税引き前当期利益」は、計算された会計上の最終利益となります。この数字に税務上の調整を施し、当期の法人税額等の負担額を計算することで最終段階利益である「当期純利益」を表示することになります。
いろいろ見てきましたが、収益の増加・減少要因と費用の増加・減少要因を捉えることで、その企業の一年間の経営内容を把握することができるのです。そして、それらの数字を検証することで当期の経営指標を捉え、次期への経営に活かされていく時、決算数字の生きた使い方となるものと考えています。
みなさん、決算数字の見方・実務編その2を概観してきましたが、いかがだったでしょうか? 今回の連載中、質問事項等があれば、メールして下さい。簡単な案件なら無料でお答えします。