これまで3回にわたり、新規事業立上げの重要ポイントを当社の事例とともにご紹介してきました。

第1回記事では新規事業アイディアを立案するときに役立つフレームワークのご紹介、第2回記事ではユーザーインタビューとMVP開発について、第3回記事ではMVPリリース後の改善プロセス、そして、今回の最終回では、PMF達成プロセスをご紹介します。

PMFとは

PMFとはProduct Market Fitの略で、展開しているサービスやプロダクトがお客様の問題解決もしくはお客様に価値を提供できており、市場に受け入れられている状態のことを指します。ビジネスを拡大させるための土台ができ、いよいよ事業拡大のアクセルを踏める状態です。この状態になる前に広告予算を大量に投下して、売上が右肩上がりになったとしても、それは広告を常に大量に投下しないと売上が上がらないということに陥ることもあります。最も重要なのが、サービスやプロダクトがどの状態であれば、PMF達成したと言うことができるかのかどうか。そのためにはPMF達成におけるKPI設計が非常に重要です。

PMF達成におけるKPI項目

KPIとはKey Performance Indicatorの略で、ビジネスの達成状況を計測・監視するための定量的な指標のことです。定量的である点が重要です。業界によってKPIの項目は異なります。そして、展開するサービスやプロダクト、その事業責任者によっても見るべきKPIの項目は異なります。PMF達成する上で、正しくKPIを定められるかが重要なポイントになります。

KPIを定めるとお伝えしましたが、定めるためにはKPIの項目と、それがどの状態になっていればPMF達成になっていると言えるのか、いわゆる目標値を定める必要があります。

最初のステップとして、ビジネス(サービスやプロダクト)の売上と費用を分解します。そして、それらの因果関係を明確にします。

例えば、当社が手掛ける短時間でお客様に商品をお届けするバーチャルコンビニ事業では、売上は(注文数) × (注文単価)、主な費用は商品仕入れ(原価)、広告、人件費、家賃が挙げられます。広告費を増やせば、注文数が増える。単価が高い商品を増やせば、仕入額は上がるが、注文額が増える、ただし、注文数が減るかもしれません。

そして、さらに細かい項目に分解していきます。

注文数は(ユーザー数) × (購入率:コンバージョン率)、ユーザー数は(新規ユーザー数) + (既存ユーザー数)、新規ユーザーはどのチャンネルからユーザーになっているのか、そのチャンネルの一つとしてオンライン広告であれば、新規ユーザー数は広告クリック数 × ユーザー登録率といったように分解していきます。

因数分解後に、どのKPIが最もビジネス成長もしくはビジネスが成立するために重要なのかを明確にします。この点は展開するビジネスによって、そして事業責任者によって視点が異なります。類似したビジネスがどのようなKPIを最も重要視しているかを調査し、参考にするのも一つの手です。また、モニタリングするKPIの数が多いと、管理が大変になるので、最小限にすることが重要です。当社は、注文数、1回あたりの注文額、1時間あたりの配達数/配達員、広告費/注文を重要なKPI項目に定めています。

PMF達成におけるKPI目標値

PMF達成におけるKPIの目標値は事業アクセルを踏める状態になっているかどうかで決まります。これもビジネスや事業責任者次第で変わってきます。最も一般的なPMFの定義として、ユニットエコノミーで黒字になっているかどうかを定める方法です。ユニットエコノミーとは、ビジネスの最小単位1個あたりの収益状況のことを指します。ビジネスによって、その最小単位は異なります。当社の場合は、1注文あたり、もしくは1拠点あたりがこのユニットエコノミーに該当します。1注文あたりでは、注文額から原価を差し引き、1注文で必要な販管費を差し引き、黒字になるかどうか、とくに重要なのが、1回あたりの注文額、原価率、1注文あたりに発生する広告費と配達員の人件費です。

当社の場合は、ビジネスが拡大すると規模の概念から原価率が下がる点、また、既存ユーザーによるリピート購入もあるため、ユニットエコノミーがPMF達成時で完全に黒字になる必要はありませんが、成長を担保できる状態になっているのかをチェックしています。

最も大事なのはPMF達成のために繰り返し改善をすること

サービスリリース直後にPMF達成状態になっていることは非常に稀です。PMF達成のために重要な点として、改善を繰り返すことです。当社も現在、PMF達成に向けて、サービスの改善を繰り返しています。大手企業で陥りやすい点として、新規事業立ち上げ時にどの程度の期間でPMF達成させるかの計画をたてる際に、短い期間を見積もってしまうことが多くあります。また、スタートアップ起業家はPMF達成させるための費用を少なく見積もる傾向があります。私はPMF達成に必要な時間と費用を上振れと下振れで考え、特定のKPI目標値がこれ以上改善をみられなければ事業撤退も視野にいれて、計画をします。

最後に

第1回から4回にわたり、当社の事例をもとに、新規事業立上げのプロセスをご紹介してきました。このステップをやれば必ず新規事業はうまくいくというものではありませんが、うまくいく確率は上げることができます。コロナ禍において既存ビジネスの進化や新規事業立上げが必要になっている方々が多くいらっしゃると思います。そんな皆さんの今後のビジネスが成功する確率を少しでも上げられることができているようでしたら私としては嬉しく思います。

著者:春山佳久(はるやまよしひさ)

株式会社atta 代表取締役社長

1981年生まれ、北海道北斗市出身、UCLA航空宇宙工学科卒業。新卒で電通に入社、Googleでのセールスを経て、Hulu Japanでのデジタルマーケティング責任者。その後、Singaporeに渡り、Skyscannerにて北アジアマーケット責任者、日本に帰国しBAKEチーズタルト等を製造販売している株式会社BAKEにてCOO・海外事業責任者を経て、2018年3月に株式会社atta(旧:WithTravel)を創業。テクノロジーで生活をもっと便利にすることをモットーにリテール&トラベルテックにて事業展開中。