次はISO13482の最後のポイントである、「保護方策の妥当性確認、検証を行う」について。この中のポイントは2つあり、(1)計画の立案、(2)妥当性確認・検証である。リスクアセスメントをしてそれに従ってリスクを十分下げた上で実際にサービスロボットの製品版を作ったとしよう。でも、ここまではずっと説明してきたように、重要なポイントをメーカーが自分で決めないとならないという要素があり、メーカーがいくら「安全ですよ」といったところで、それがブランド力があれば信頼するユーザーはいくらでもいるだろうが、仮にメーカーが虚偽を働いていたとしても確認はできないわけだ。認証機関である日本品質保証機構(JQA)も、「このロボットは安全だから」とメーカーにいわれただけで、OKを出すわけにはいかないのは当然である。そこで当然といえば当然なのだが、妥当性確認と検証が必要になってくるというわけだ。
そうした確認や検証を行うための施設が安全検証センターなのだが、「ロボットを持ってきましたので試験をしてもらって確認と検証をお願いします」と申し込めばOKというわけではない。(1)の「計画の立案」とあるように、どのような試験を行って確認と検証をするのかの計画をメーカー自身で立案する必要があるのだ(もちろんアドバイスなどのサポートは受けられる)。そして、その計画に沿って試験を行って確認と検証をし、その結果、リスクアセスメントシートの通りにロボットの安全が確保されていれば、安全認証がなされるという流れなのである。
画像67は、ディペンダブルロボティックカートに対して行われた試験の例で、これはEMC試験関連のものだ。安全検証センターには10m法対応の電波暗室があり、ここでサービスロボットに対して電磁波を照射して誤作動しないかどうかが調べられる。さらには、誤作動した際の最後のブレーキである非常停止ボタンがきちんと働くかどうかを確認したりもするのだが、電波暗室は電子レンジの中のようなものなので、人が電磁波を浴びながらボタンを押すわけにはいかない。そこで、「緊急停止・復帰試験ジグ」という、いってみればボタン押しロボットが用意されているのだが、このロボット自身が電磁波の影響で誤作動しては意味がないので、電子回路は搭載しておらず、プラスチックと木材でできていて、空圧で動作するそうである。そのほかにも、「倒立振子式ロボット支持台」、「ダミー移動装置」、「装着型ロボット用ダミー」なども用意されているという具合だ。
そのほかディペンダブルロボティックカートで行われた安全検証の例としては、スロープを利用して最高速で降りてきてブレーキをかける「最高速試験・制動試験」、バリアフリー法の範囲内でどの程度の段差までなら転倒したりひっくり返ったりすることなく乗り換えられるかを確認する「段差乗り越し試験」、スロープを利用して急旋回した際に遠心力で転倒しないかどうかを確認する「安定性試験」、そしてロボットの耐久性を見る耐久試験、人との衝突時にどれだけの衝撃を相手に与えるかを人体ダミー(画像は6歳の子ども相当)にぶつけて確認する「衝突試験」、センサ(およびそれに関連するソフトウェア)がきちんと働いているかどうかそして速度を落とすのか止まるのか回避するのかといったことを確認する「障害物検知・対応試験」(モーションキャプチャを用いて、ロボットの動きが設定通りかどうかを確認する)、バンパーが人と接触した際に瞬時にそれを把握して人にケガをさせない内にきちんとモータが停止するかどうかを見る「接触力試験」などがある(画像68・69)。
また画像70の左上の接触安全試験は安全検証センターの装置ではなく、名古屋大学のものだそうだが、装着型や搭乗型のようにユーザーが使用する際は人体のどこかと常時接触しているタイプのサービスロボットの場合、長時間の使用で床ずれのような状態にならないかを見るものである。右上は前述したEMC試験の画像だが、下は温度や湿度を変えてロボットが影響を受けないかどうかを見る「耐環境試験」(こちらは安全検証センター)だ。
ちなみにロボットを作って実際に試験をするまでは、危害のひどさがどの程度かはわからないわけで、リスクアセスメントシートでは「2」としていても、人体ダミーを用いた衝突試験で確かめた結果、記録された衝撃の度合いが大きくて「4」と判断されれば、もちろん認証は得られないとなってしまう。また、サービスロボットの種類や目的などに合わせて、必要な試験をチョイスして行う形で、安全検証センターのすべての試験を行うというわけではない。移動しなければ最高速試験や安定性試験などは意味がないというわけである。
ISO13482に沿った安全なサービスロボットを作ったとしても、それを自社で確認したからといって資料を提出しただけでは、認証機関であるJQAがOKを出してくれるわけではないのは前述した通り。信頼できる第三者機関がその通りか実際に試験を行って確認を取り、メーカーのいう通りであることをJQAに伝える必要があり、その存在が安全検証センターであるのはここまでの説明でもおわかりいただけたことだろう(画像71)。
ただし、これまでのところ安全検証センターを活用するケースは少ないということで、今後の課題として、ISO13482の認証を得るための確実なルートとして、安全検証センターを活用する方法を根付かせていく必要があると藤川室長は語った。