ここで話をISO13482の特徴に戻すと、同安全規則には大きく3つのポイントがある。「保護方策により、リスクを受容可能なレベルまで低減する」、「保護方策は、3ステップ法に従う=本質安全が最優先」、「保護方策の妥当性確認、検証を行う」の3点だ。続いては1つ目の「保護方策により、リスクを受容可能なレベルまで低減する」から触れていこう。
リスクは先にも触れたが、「危害のひどさと発生確率の関数」で決まる。具体的な例を挙げると、例えば何らかのサービスロボットを使って指先をちょっと切って血がにじんでしまうような事故が、100年に1回起こり得るとしよう。するとこれは「危害も小さいし、リスクも小さい」ということになる。よって、このロボットは「そこそこ安全なんじゃないか、これならお客さんも認めてくれるだろう」と考えたところで問題はないはずだ。逆に、骨折するような事故が3カ月に1回起こるとしよう。これはあまりにも危険性が高く、「危害は大きく、リスクは絶対に許されないレベル」で、そんな危ないサービスロボットは発売してはならないし、社会も受容するわけがないとなるわけだ。
しかしその組み合わせで、危害のレベルとしては骨折をしてしまうけど、それが100年に1回しか起きないという、「危害は大きいが、リスクは小さい」場合ならどうだろうか。これはユーザー側も受け入れられる人もいれば、受け入れられない人もいるだろう。結果として、社会として受け入れられるかどうかは、これまでの社会通念と照らし合わせた上で、メーカー自身が判断しなければならない。これはなかなか難しい判断といえるだろう。
例えば自動車の場合、最悪のレベルの事故だと、搭乗者や歩行者など、複数人の死亡事故が起きるわけで、一般人が所有できる中では最大の危害を起こす危険性を持った製品といえる(教習所などで教わったように、車は1つ扱い方を間違えると「走る凶器」になるのである)。
リスクは、というと、2013年の「24時間以内」の交通事故死者数は4373人。1日に平均すると日本では12人弱が亡くなっていることになる。ただし、日本で登録されている自動車の台数は、2輪車も3輪車も含めて7962万5203台(一般財団法人 自動車検査登録情報協会の情報による)だから、1台に限ってみれば1年間に死亡事故を起こす確率はとても低いことになる。しかし逆をいえば、すべての車両が毎日走っているわけではないが、これだけの台数があるため、1日に12人弱が死亡するという高いリスクが生じているわけだ。
比留川部門長の講演でも述べたように、リスク-ベネフィットのバランスを見た場合(画像59)、自動車はリスクがダントツで高い。自分はもちろん、家族や友人・知人が、次の犠牲者になるかも知れない可能性が常にあるといえる。それでも、もはや自動車は、存在しなければ社会が成り立たない、重要なインフラとしての一面を備える存在だからこそ、社会=大多数の一般市民は自動車が走ることを容認しており、積極的に利用しているというわけだ。
では、新しい製品であるサービスロボットの場合はどうかというと、リスク-ベネフィットのバランスは、同じく画像59にある通りに、どちらもミドル(ややリスクの方が高め)だ。人の心理的な面から考えると、サービスロボットという新しいジャンルの製品が社会に求められるためには、「ケガする可能性があるとは考えられないほどとても危険性が低い上に、そこそこ便利であったり、所有することでステータスを感じられたりする」であるか、「使う時は多少なりともケガをしないよう気をつける必要はあるが、それを持つことで生活が一変するし、普及すれば社会が変革されるほどの利便性がある」といった感じだろう。どちらにしろ、当然といえば当然だが、安全性については最重要視して開発する必要があるわけで、「危ない」と1度でも社会的に思わせてしまったら普及はかなり難しいはずである。
とはいっても、必要以上に危険性を排除しようとした結果、利便性があまりないような状態になってしまったり、あまりにも手が出ない高額な製品になったりしても本末転倒だ。どの程度なら社会に受け入れられるかというのは、実際に販売してみなければわからないところもあるわけで、それをメーカーが自分で判断しなければならないというのは、やはりなかなか難しいことだろう。メーカーが自己責任で判断しなければならないのが、現在のISO13482の考え方なのである。
安全設計と評価の流れをまとめたのが、画像60である。これは比留川部門長の講演でも出てきた画像だが、メーカーが安全性を自分たちで確保して、第三者機関に安全性を認証してもらうという仕組みまでを表したものだ。この流れに載せるために、まずメーカーは第1段階としてリスクアセスメント、つまり危害のひどさと発生確率を考えるということになる。そして第2段階としてリスクを低減させることを行い(画像60の「リスク低減プロセス」)、最後に検証を行う(画像60の「安全性検証」)という流れだ。