本連載では、企業やデータセンターが地震などの災害時でもデータを保全する対策をテーマとしている。さまざまな災害リスク対策があるが、データ保護対策の1つとして使いたいのがサーバの遠隔操作を実現するKVMスイッチだ。今回は、ATENジャパンの営業本部 企画部 部長である栗田正人氏にKVMスイッチの災害リスク対策としての用途やメリットについて聞いた。
時代ごとに異なるKVMの役割
「昔は『サーバルームのセキュリティのためにKVMスイッチを活用しましょう』と言っていました。また、数年前に新型インフルエンザが流行した時は、KVMスイッチをパンデミック対策としてサーバ管理者が自宅出勤に活用できるものと紹介しました。そして今、KVMスイッチは災害対策のツールとして注目されています」と同氏は語る。
KVMスイッチを使えば、長いケーブルを使ってサーバルームの外にディスプレイやキーボードなどを出してしまうことで、サーバルームに立ち入ることなく管理作業ができる。サーバルームへの出入りを減らすことはセキュリティの向上にもつながるが、外部からのアクセスを可能にすることで複数メーカーの機器が混在する状況でも各メーカーからのサポートを気兼ねなく受けられるという面もあった。その後、ネットワーク経由で遠隔地からのサーバ管理も可能になった時に注目されたのが、パンデミック対策としての活用だった。
「パンデミック対策は管理者が家から出なくてもサーバを管理できるようにするためのものでしたが、災害対策としては交通網が麻痺して電話も通じないという状況で、いかに迅速に現状把握を行うかが求められます。そんな時、KVMスイッチが活躍します。災害時のサーバ運用では、現場到着の前段階でどれだけの情報を取得できるかがカギになるからです」と同氏。
特に、本社の管理者が遠隔地のオフィスに設置されたサーバも管理しているというケースでは、リモート管理機能が重要になる。
リモート監視はソフトの不具合が脅威になる
リモート管理を行うとなると、最初に注目されるのはソフトウェアによる制御だ。Windowsでは標準でリモートデスクトップ機能を搭載し、現在ではこのほかにもリモートからのサーバ操作を実現するソフトウェアが多数存在する。しかし、ソフトウェアには災害時に対応しきれない可能性があるのだという。
「リモート管理ソフトがうまく動かない場合、原因として2つの可能性があります。1つはサーバの停止によりソフトウェアが稼働していないという可能性で、もう1つはサーバは正常稼働しているにもかかわらず管理ソフトが停止してしまっているという可能性です。災害時に絶対の信用が置けるものはないでしょう」と同氏は語る。
災害時のサーバ障害はいろいろなケースが考えられる。水没や圧壊といったサーバ本体が致命的な損壊状態にある場合や、転倒などによる内部機器の一部故障や電源ケーブル脱落といった物理的な対処が必要とされる状態ならば、人が現場に駆けつけなければ何もできない。しかし、単純な再起動だけで状況が改善することが多いのも管理者にはよく知られていることだ。
東日本大震災における首都圏では、サーバルームが致命的な損傷を負った例は少なかったものの、管理者が現場に駆けつけて関係各所と電話連絡ができるようになるまでには時間がかかった。一方で、インターネットは被災直後から十分に機能していたという実績があり、災害に強い通信手段として注目を集めている。
「リモートアクセスに対応したKVMスイッチを設置して適切な設定をしておけば、ネットワーク越しにサーバを管理することができます。こうした状況を作っておくことは、データセンターでは常識です。レプリケーションを導入している場合も、遠隔地のバックアップサーバが稼働しなかった場合を想定しておかなければなりません。その原因が、『メインサーバの落ち方に問題があったのか』、それとも『レプリケーション先のサーバが起動できていないからなのか』を双方の現場に駆けつけるまでわからないというのは問題です」と同氏は力強く語った。
震災時に海外からKVMスイッチ経由でPCを操作できた実績も
KVMスイッチの中でも、ATENジャパンの製品は独自の機能を備えている。創業時からコンシューマー向け製品の開発で培われた「ユーザー中心の設計思想」に基づいてハイエンド製品も開発しているため、単にキーボードやマウスによる操作入力と画面出力だけでなく、音声の出力も可能なのだ。
「テレビ局でCG作成などを行うにあたり、複数個所でデータを確認するといった用途にもKVMスイッチは活用されるのですが、音声が出るということで重宝されています。サーバ管理者が使う場合も、アラートの音などを確認しやすいのはメリットでしょう」と同氏。
また、同社はサーバ管理者が興味を持ちそうな実験も行っている。ある社員が、社内の自分のマシンにリモートアクセス対応のKVMスイッチをあらかじめ接続しておき、海外旅行の際にこのマシンにネットワーク経由でアクセスし遠隔操作するという試みを行ったのだ。実験日時はたまたま東日本大震災のその日となった。電話がつながらず、多くの人が身動きがとれずにいるなか、海外から自席マシンを操作できたことで災害時にも本当に役立つことが実証された。
「iPhoneからの操作など、まだ正式にサポートしていないこともいろいろと実験しています。こうした実験のレポートを公開する時は『あくまでも実験であるためマネをしないでください』と書き添えているのですが、今回の実験はぜひマネをしていただきたいですね。地震の時にKVMスイッチがシステムの非常階段として役立つことを実証できたのですから」と同氏は語る。
遠隔地からの操作が可能となると、セキュリティ面で気になるかもしれないが、操作ログを保存して監査を行うソリューションが用意されている。実のところ、高いセキュリティが求められる金融機関などでもこういったソリューションと組み合わせてKVMスイッチを導入しているケースが少なくない。災害に対する危機感が高まっている今、対策が不十分だった企業はもちろん、レプリケーションなどを導入済みの企業もKVMスイッチの導入を検討してみてはいかがだろうか。