災害対策は「非常階段」

日本には地震や台風などの災害にあう危険性が常にある。特に、余震が頻発している現在、国内には絶対に安全である場所などないことを強く感じているのではないだろうか。こうした危機感を持っている今こそ、災害対策について真剣に考えられる時だ。

災害対策は「非常階段」にたとえることができる。高層ビルにおいて、エレベーターやエスカレーターは昇降を快適にしてくれるが、停電時には役に立たない。対する非常階段は昇降が大変なため普段はあまり使われないが、停電時には昇降のための唯一の手段となる。つまり、普段使わないからといって、非常階段を設置しなくてよいわけがない。

事業継続という点から見ると、企業やデータセンターではデータ保護に対する災害対策を講じることが必要だろう。本稿では、本当に役立つ『非常階段』を用意するための手法のメリットとデメリットを確認しておきたい。

災害対策としてのクラウド利用

データを守る方法の1つに、クラウドを活用することで守るべきデータを専門家に預けてしまうという手がある。この場合、たとえオフィスが被災したとしても、クラウド上のデータが保存されているデータセンターさえ無事ならば、別の拠点から即座に業務を続けることができる。

企業で数台のサーバを運用している程度なら、クラウド活用は非常に有効だろう。業務に特化したクラウドサービスも増えており、業務の大半をクラウドベースで行うことは可能になっている。

しかし、大規模な災害が起こった時、預けた先のデータセンターが無事である保障はない。加えて、絶対に事業が止められない企業にとって、自社でサーバを管理できない点も壁を感じる部分だろう。

データバックアップで避難先を作る

一方、データセンターや大型システムを自社運用しているような企業の場合、遠隔地にバックアップ拠点を設ける方法が主流だろう。絶対に安全な拠点を作ることは不可能だが、安全性の高い拠点を複数用意することで、結果的にデータを守りきることは可能だ。例えば、東京をメインの拠点として、バックアップ先の拠点を北海道に用意するとしよう。東京と北海道は距離的にも離れているうえ、気候的にも異なるため、両方が一度に被災する可能性は低そうだ。

日本の耐震基準は非常に高く、今回の震災でも地震が直接の原因で倒壊した例はそれほど多くない。さらに免震床などを設置したうえでサーバを配置すれば、安全性はかなり高まるだろう。水害なども過去の記録を当たり、これまでに被害が少ない拠点をバックアップ拠点とすれば、メイン拠点に何かあった時にもデータが残せる確率は高まる。

こうして遠隔地拠点にバックアップを置くことで、メイン拠点が被災した時には遠隔地で事業継続できるようにするわけだ。以前は、バックアップテープの陸送も行われていたが、現在はネットワーク経由でのレプリケーションが主流だ。なかには、メイン拠点が倒れたことを自動検知して、即座に遠隔地のバックアップサーバが起動するソリューションもある。この時、経路の書き換えなども行われ、わずかなダウンタイムだけで利用を再開できるのがメリットだ。

いざという時の備えが必要だとはいえ、常にサブ拠点を維持しているのは厳しい場合は、データのバックアップ先をデータセンターにして災害時にのみオンデマンドで利用するというソリューションもある。

障害発生現場にたどり着けない状況をカバーするKVMスイッチ

遠隔地にバックアップ拠点を設けた時の問題点は、現地で対応できる技術者の確保が難しいことだ。メイン拠点から遠く、使われる可能性の低い遠隔地に高度な技術を持つスタッフを常駐させるには、投資対効果が低い。

また、今回の震災による被害がそれほど大きくなかった東京でもデータセンターや自社のサーバルームにたどり着けない技術者がたくさんいた。11日の地震当日、首都圏の交通機関は大きな混乱を見せ、さらに週明けとなる14日には電力不足に対応するための交通機関停止によって多くの人が立ち往生した。

この時、多くのサーバルームでは振動によって機器が多少動いたりはしても、建物倒壊の心配はない状況だった。つまり、サーバにおいてレプリケーション先への自動切り替えが発生する事態ではなかったというわけだ。しかし実際には、サーバに不具合が出ているかどうかもわからず、技術者がサーバの配置場所にたどり着けないために障害対応が行えないという状態が発生していた。

サーバールームでは通常、ラックに搭載された複数のサーバを操作するコンソールとして、キーボード/ビデオ/マウスを集約して切り替えるKVMスイッチが使用されている。現在は、VPNを経由した遠隔地からの操作が可能な製品も提供されているので、これを活用することによって、技術者は簡単に遠隔地からサーバを操作できるようになる。

つまり、この種のKVMスイッチが用意してあれば、技術者が自宅からバックアップ拠点へのスイッチが成功しているかどうかなども確認することが可能というわけだ。

KVMスイッチがサーバルーム、バックアップ拠点のサーバに設置されていれば、災害時も遠隔からサーバを切り替えられる

遠隔操作可能な電源と組み合わせれば、遠隔からサーバの電源オン/オフも可能

KVMスイッチのみでサーバの災害対策をすべてカバーすることは難しいが、他の対策と組み合わせることで、災害時の対応力が大きく向上するものなのだ。