企業のITインフラやさまざまなITサービスを実現するうえで「サーバ」は欠かせない存在で、企業が求めるIT人材として知っておきたい必須知識の1つでもあります。
本連載では、「サーバとはいったいどのようなものか?」に始まり、利用方法や種類などの基礎的な知識とともに、セキュリティ対策や仮想化、サーバレスなど効率的にサーバを利用・管理するうえでのポイントといった、情報システム担当者の実務に役立つ話題を紹介していきます。
連載第1回は、日本ヒューレット・パッカード コンピュート技術部の小川大地さんに、「そもそもサーバとは?」について聞きました。
プロフィール
サーバ製品部門にて、WindowsやVMwareといったOS・仮想化分野のソリューションアーキテクトやビジネス開発、エバンジェリストを歴任。現在はプリセールスチームを率いると共に、ハードウェアやソフトウェアのみならずクラウド分野もカバーし、「お客様のDXを支える」をキーワードにしたHPE日本法人の4つの注力分野のうち『Hybrid Cloud』もリードしている。
サービスを提供する「サーバ」
サーバとは、「デジタルサービスを提供(Serve)するコンピューター」のことです。
Googleのような検索エンジン、LINEのようなチャットアプリ、オンラインショッピングサイト、電子決済機能など、現代ではさまざまなデジタルサービスが利用されていますが、それらを裏で支えているのがサーバと言えます。
図書館の蔵書検索システムを例に挙げてみましょう。利用者は本を借りる際、図書館の専用端末や自分のスマートフォンなどから蔵書検索メニューにアクセスして、借りたい本を探します。この、「蔵書から特定の本の検索」を行っているのがサーバです。「サーバ」に対して、パソコンやスマートフォンなど提供されたサービスを利用する側は「クライアント」と呼びます。
利用者目線では、専用端末やスマートフォンそのもので処理を行ってサービスを利用しているように見えますが、実際はサーバに依頼(リクエスト)を出して、サーバが行った処理結果の返信(レスポンス)を受け取っているに過ぎません。
ビジネス現場で利用されている代表的なサーバとしては、メールの送受信を行う「メールサーバ」、Webページを提供する「Webサーバ」、従業員の連絡先やメールアドレスなどの情報を蓄積している「データベースサーバ」、ファイル共有やデータの外部保存に利用する「ファイルサーバ」、複数名でプリンタを共有するための「プリントサーバ」が挙げられます。
メールの送受信やデータの保存、印刷などはクライアントの端末でも行えますが、サーバによる集中管理のメリットが大きいため、現代では多くのサービスをサーバ経由で利用します。例えば、さまざまなファイルをクライアントPCごと、バラバラに管理して必要に応じて共有していたら、電源が落ちているPCのファイルにはアクセスできません。サーバでファイルを集中管理していれば、いつでも、どこでもファイルにアクセス可能です。
また、サービスの更新が必要な際、クライアント各端末でサービスを管理していたら、1台ずつ個別にソフトウェアのアップデートが必要ですが、サーバでサービスを集中管理していれば、更新作業はサーバ側で行えば済みます。
用途に応じて「組み上げる」
サーバはコンピューターなので、OS(オペレーティング・システム)で動きます。また、サーバの設定などを行うための専用のモニターやキーボードがあり、ネットワークを通じて多くの人にサービスを届けるため、ネットワーク機器やLANケーブルとも接続します。
ただし、個人が利用するパソコンやタブレット端末、スマートフォンと異なり、サーバには標準的なスペックがありません。なぜなら、求められる機能やスペックがサービスによって多種多様であるからです。
サーバは用途に合わせて、希望する構成に「組みあげる」(構築する)のが一般的です。基本的には、サーバの処理能力に直結するCPUと箱(ケース)がセットの製品を選び、そこにメモリやハードディスク、ネットワーク接続するためのネットワークアダプターや、データを保存する外部ストレージと接続するためのアダプター、電源やセキュリティロック(鍵)などを用途に応じて追加していきます。
パソコンの自作に似ていますが、サーバではサービスを止めないための「信頼性」、より手間無く管理するための「管理性」、機能の拡充が可能とする「拡張性」、高パフォーマンスを提供するための「高性能」が重視されます。
例えば、サーバの管理者が休みの日にフリーズなどの不具合が起こったとしても無人で自己修復する機能を持たせる、といった可用性(継続して利用できる能力)の高さを求めるなら、信頼性と管理性に重点を置いたサーバを組み上げます。
その一方で、新しいアプリを提供し、頻繁なアップデートやユーザーの増加にも備えるために拡張性と高性能を重視するといった考え方もあり得るでしょう。4つの要素が重視される背景には、サーバを稼働させ続けようとするニーズがあります。
24時間・365日の稼働が前提に
現在、大抵のデジタルサービスやシステムが、いつでもどこでも利用できるのが当たり前になっているため、サービスを提供するサーバも必然的に24時間・365日動き続けることが前提となっています。
そのため、クライアントからのリクエストを処理し続けても簡単には壊れないよう、サーバには民生品とは規格の異なる、耐久性の高い業務用のCPUやメモリが使用されます。
仮に壊れても問題ないようにバックアップ機も用意しますし、不具合が起きても自動復旧できるよう専用のソフトをインストールします。
また、サーバは設置場所にも気を使います。基本的には、コンピュータルームやサーバルーム、データセンターといった、ネットワークが有線でつながれていて、突然の停電でも停止しないようにUPS(無停電電源装置)を設置するなど、安定稼働のための管理がなされた場所に設置します。