信号の反射(リターン・ロス)
インピーダンス不整合は、受信側で終端されていてもデバイスの入力にある容量性負荷やパッケージ内の配線により、高周波数に対してインピーダンスは変動します。この結果、レシーバに実際に入力される信号レベルも変動します。
クロストーク
クロストーク自身は損失ではありませんが、ノイズが増えることになるので、マージンが低下します。またジッタを増加させます。特にデータ・レートの高速化に伴い、注意が必要となります。
クロストークは、あるモデルでは図5-5のように2本の近接した線路間の容量性(キャパシタ)結合と誘導性(インダクタンス)結合により発生し、双方の起因するノイズを重ね合わせたものとなります。クロストークを与える側の伝送路をアグレッサ(Aggressor:侵略者)、クロストークを受ける側の伝送路をビクティム(Victim:被害者)と呼びます。
ビクティム上をアグレッサと同方向に伝搬するクロストークをフォワード・クロストーク、逆にビクティム上をアグレッサと逆方向に伝搬するクロストークをバック・クロストークと呼びます。さらに、信号源に近いところで発生されるクロストークを近端クロストーク、逆に信号源から遠いところで発生されるクロストークを遠端クロストークと呼びます。その大きさは、結合の強さ、立上り時間(周波数)、結合している線路長に依存します。
容量性結合により生じるクロストークは、ビクティムのパルスなどの信号の伝搬(電流の流れ)と共にアグレッサ上に誘起され、近端と遠端の双方に向かいます。一方、誘導性結合により誘起されるクロストークは、アグレッサ上にビクティムの電流の流れと反対向きの電流を生じます。この結果、アグレッサの近端では、容量性結合と誘導性結合により発生した双方のクロストークが加算され、最大化します。ダウン・ストリームとアップ・ストリーム別々の伝送線路を持つ双対単方向伝送(デュアル・シンプレックス)では、それぞれのレシーバでクロストークが最大化することになります。トランスミッタに近い所の信号は、高周波損失の影響を受けていないため、信号レベルが大きく、さらに立上り時間が速いことから、影響を与えやすくなります。
基板内の伝送では、差動トレース間を離したり、ダウン・ストリームとアップ・ストリームを例えば表面と裏面などのように、配線層を分けたりすることで対策します。またケーブル接続の場合には、シールド・タイプのケーブルで対策します。しかしながらコネクタ(プラグ、レセプタクル)ではクロストークが問題となりがちなので注意が必要です。それゆえPCI Express、SASや10GBASE-CX4などのマルチレーンや双対単方向伝送用の高速インタフェース用のコネクタでは、信号間にシールドを設けたり、ダウン・ストリームとアップ・ストリームを離したりすることで対策しています。
参考資料。クロストークに関しては「プリント基板の品質検証におけるクロストーク測定のための時間ドメイン手法」もご覧ください。
データ・パターンおよびチャンネル特性の影響
伝送路が周波数に応じた損失を持つということは、信号の周波数成分に差があればあるほど、損失の影響が顕著になります。
そのため、周波数の広がりを抑制することにより、これらの変動を少しでも小さくすることができます。8b10b符号化では同ビットの継続が最高でも5ビットに抑えられているため、データ・レートの1/2(「101010」の繰り返し)から1/10(「0000011111」:実際はこのようなパターンはない)に周波数の広がりを抑制する効果を兼ね備えています。伝送用のテスト・パターンの代表例として、PRBS(Pseudo Random Bit Sequence:疑似ランダム・パターン)があります。PRBSはPRBS NとしてNで指定されたビット長のパターンを最長パターンとして含みます。例えばPRBS7は7ビット長です。そのため8B/10B符号化よりも周波数成分が低周波側に広がるため、伝送路からの影響の受け具合が顕著になります。なおPRBS Nのデータ長は、2N-1ビットです。
実際にテスト・パターンによるジッタの違いを測定してみました。以下はテクトロニクスのBSA12500ISI型基板の91cmトレースを通した結果です(2.5Gbps)。最初の3点は8B/10B符号系のテスト・パターンで、最後の3点は疑似ランダム・パターン(PRBS)です。8B/10B符号系の結果はそれほど変わりませんが、疑似ランダム・パターンはビット長が長くなればなるほど、ジッタが増加していることがわかります。各規格では仕様を規定したり、測定の際に使用したりするパターンを指定しています。このように測定結果に差が出ることがありますので、規格で指定しているパターンを使うことが重要です。